16話 新しいお友達
二、三日といったのに、一週間も間隔を空けてしまい、本当に申し訳ないです。
プロットがリアルとの都合もあり、思った以上に難航しまして……w
しかし、何はともあれ、やれそうな形にはなりましたのでゆるりと続けて行ければと思います。よろしくお願いします!
手ーをつーなーぎーましょー♪ らんらんらん、らんらんらん♪
「はいはい……。手をつなげばいいのね……。らんらんらんっと……」
「もぉ! まおーさまー! ちゃんとロナの手握ってよぉ! 踊れないー!」
冒険者幼稚園なる場所で『強制的に』働かされ始めて一か月ほどが経った日の午前。
今日もわたしは朝から『強制的に』ロナのままごとに付き合っていた。
備え付けてあった機械に丸っこくて薄いカセットを入れ、流れてくる音楽に合わせて踊る。
お遊戯の時間らしいけれど、なんでこんなことにわたしが付き合わないといけないのかと、未だに思ってしまう。
だいたい、体を動かすこと以前に、なんか音楽に合わせて踊ること自体が恥ずかしい。何だって言うのよ、『手をつなぎましょー♪』とか……。恥以外の何者でもないわよこんなの。
「まおーさまっ! 次、ロナのことクルクルってするんだよ! クルクルって!」
「わかってるわよ……。はい、クルクル~……」
「きゃー!」
魔法で体を浮かしてやり、適度な早さで音楽に合わせて体を回してあげる。
たったこれだけのことで、ロナはキャーキャー楽しそうに騒ぐわけだ。チョロい。
……ただ、チョロいけど、この子にはあのアポロンウルフ事件以降、どうしても問題となっていることがあった。
それは何か。簡単だ。
単純にわたしの魔王としての恐ろしさを伝えることができなくなってしまったのである!
しかも、この子だけならまだしも、ロナの両親にもあれ以来ちょくちょく家にお呼ばれされてしまい、そこで料理を振舞われるのだ。
わたしとしても断ろうとは何度も思っているのだけれど、どうしてもそれができない。ここにずっといれば、どうしても質素な味付けなものばかり食べることになるし、悔しいことにロナの母親……あ、名前はニーナね。ニーナが作る料理はどれも信じられないくらいに美味しくて、逃れられないのである。父親は……まあ、美味しい料理が作れるわけじゃないし、どうでもいいわ(ちなみに、名前はロッド)。
そういうわけで、名前を教えてもらうくらいには親しくなっちゃってるから、わたしが「魔王は恐ろしい」みたいなことを言っても、笑って誤魔化されてしまうし、その力を使って助けたこともあり、むしろ感謝されてしまうわけだ。おかずを増やしてくる。
そんでそんで、どうしたものかと、その辺のことを創造主にそれとなーく相談してみたら、わたしは一つだって悪いことをしていないのに、静かに微笑みの表情で青筋立ててくるもんだから、もうどうしたらいいのよって話。完全に板挟みよ。なんとなくルーメリア(わたしと部下との板挟みで大変そうだった)の気持ちを今になって理解することになっちゃった。
しかも、創造主はそれだけでは止まらず、さらに――
「ま~お~ひゃま~ ロナ~目~が~回っひゃった~」
「あ、ご、ごめん!」
考え事をしていたら、ロナを回し続けていたことをすっかり忘れてしまっていた。
目を回し、バタン、とそこに倒れるロナ。いかんいかん。
いったん考え事はやめることにした。
〇
「え!? 新しいお友達がロナ以外にも来るの!? まおーさまのとこに!?」
「まあ、そうね。……あんたとはまだ友達ってわけじゃないと思うけれど」
「お友達だよ! パパが言ってたもん、一緒にいる人とはみんなとお友達になりなさいって! だからお友達!」
顔を近付けて大きな声で自信満々に言ってくるロナから顔を背けるわたし。
創造主から新しく言われたことというのはこれだ。どうも、ロナ以外にまたガキンチョがやって来るらしい。
元々人数は五人から十人ほどを考えてたけれど、早々にロナへ魔王の恐ろしさを教え込むことをできなくさせたわたしのせいで、送り込む子どもの間隔を狭くしたというのだ。もはや、わたしへの労働ケアなんてあったもんじゃない。訴えたら勝てそうな気がする。
「ねえ、まおーさま! お名前は!? その人、お名前はなんてゆーのっ!?」
「わかった。今から知ってること教えてあげるから、ちょっと離れて。あと、勉強中はペラペラ喋るもんじゃないから」
「でも、気になるよぅ! うぅぅぅ~! どんな人かなぁ! ワクワク!」
「はぁ……」
言った通り、わたしは一からロナに新しく来るガキのことを知ってるだけ教えた。
一つ目は魔法使いのガキだってこと。
二つ目はエリートな一族出身だということ。
そして、最後。三つ目は、ちょっとだけ性格に難があるということだ。
「せーかくになんがあるってどういうこと? まおーさま」
「んー、要するに、困った悪い奴だってことよ。仲良くは出来ないかもねってこと」
「えぇぇぇ!? 悪い人!? じゃあ、お友達なれないの!?」
本当に喜怒哀楽の表情変化が激しい。
ロナはさっきまで楽しそうにニコニコしてたのに、急降下するかのように心底悲しそうな表情を作った。
わたしは「ふぅ」と短くため息をつき、
「いーや、別にそうと決まったわけじゃないけどね。ただ、仲良くなるには頑張りが必要かもねって話」
「がんばり……?」
「そう」
「がんばりは、どうやったらいいかなぁ?」
「それは、そいつに会ってからあんたが考えなさい。勉強の内だから」
「ふぇぇ~……?」
ロナは眉をへの字に曲げ、しょんぼりとした。
それはまあ、そうなる。
人生経験だってないだろうし、最初から一筋縄じゃいかないような奴が来ると言われれば、なんとも言えない心境にもなるだろうから。
わたしなんて、なんとも言えない心境どころか、泣きたい心境だ。どうしてそんなめんどくさそうなガキを送り込んでくるんだ。創造主、鬼畜にもほどがあるでしょ、ほんと……。
「……ま、でもこればっかりは実物を見てみないと何とも言えないわね……」
「?」
「何でもないわよ」
不思議そうに首を傾げるロナを見て、わたしはまたため息をついた。
どうなることやらねぇ……。




