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12話 五人の幹部と月夜の華の間

「別にあんたたちに連れて行かれなくたって、わたしは月夜の華の間くらい一人で行けるんだけど? なに? まだ何か企んでるの? 小細工ならわたしには通用しないわよ?」


 地下に繋がる螺旋階段を下りながら、わたしは静かに言ってやる。


 頼んでもいないのに、パロルドに仕える幹部五人が、わたしとロナを囲い、進む先を誘導してくれていたのだ。


 ただ、当然ながら奴らの雰囲気は歓迎ムードといった風ではない。


 聡明さの伺える幹部たちだとはいえ、先の動乱で食らった被害のことを根に持っているのか、それとも、さっきパロルドを圧倒したわたしが気に食わないのか、目には確かな凶暴性が伺えた。


 けれど、そんな精神状態でも、こいつらは表面上穏やかな風を装い、こうしてわたしとロナを先へと導いてくれる。


 さすがはアポロンウルフ。さすがはパロルドに仕える幹部たち。


 こんな状況だけど、ふと、ルーメリア達のことを思い出してしまった。


「一つ、質問よろしいか。魔王エルシャラ」


「何よ?」


 背後から声を掛けられ、少しばかり振り返る。


 片目に傷を負った幹部の一人だ。


「何がきっかけで心変わりした。あなたが今こうして直接的に人間を助ける姿を見るのは始めてだが、それでも世界の動乱はある機を境にピタリと止んだ。あなたの姿を見るのも久方ぶりだが、明らかに雰囲気が変わっている。以前のような殺気だったものは、パロルド様が攻撃なされた時まではまるでなかった。いったいどういうことなのだ。お答えしてもらおうか」


「その質問、かなり図々しいものね」


「っ……!」


「死んでてもおかしくない……とは言えるけれど、それは確かに以前のわたしならって話ね。今は別に何とも思わないわ」


「……では、いったいなぜ……?」


 代役を務めるかのように問うてきたのは、わたしの左にいた女幹部だ。金色蝶の飾りを耳に付けている、クールさの伺える一人。


 そんな女の問いかけに、わたしは少しだけ間を置き、「はぁ」と一つため息を漏らした。


「そんなの、ぐーたらしたかったからに決まってるじゃない」


「ぐ、ぐーたら……!?」


「そ。ぐーたら。戦いとか一切せずに、城の中で美味しいもの食べて、ゲームして、ずーっと遊んで平和に暮らすの」


「ちょ、ちょっと待てェ!」


 今度は右にいた幹部が反応してきた。


 さっきから一番殺気立っていた、筋骨隆々の奴。


 わたしの返しに動揺しているのか、声がわずかに裏返ってる。


「あんたは世界を震撼させていた魔王であり、我らアポロンウルフの絶滅をも招こうとしていた破壊の化身だ! そんな奴が今さら平和だの、何を言っている!? 我らの恨みがあることを忘れるな! ふざけるのもいい加減にしろ!」


 ひっ、と、抱きかかえていたロナが小さく悲鳴を漏らした。


 恫喝にうろたえることなく、わたしは返す。


「知らないわよそんなの」


「はっ、な、何ィ!?」


「破壊の化身は破壊の化身で、それをしなきゃいけないもんみたいよ? 創造と破壊の両方があってこそ、バランスは保たれるんですって」


「傲慢だな」


 今度は最後尾にいた、キリッとしてる男のアポロンウルフ獣人だ。


 ポツリと一言漏らし、続ける。


「さすがは最強の魔王様だ。一切俺には理解できん。破壊と創造の両方がなぜ必要になる? 創造を重ねることこそ、繁栄において重要なことだ。破壊を進んで行う愚か者など、早々に抹消させるべきだろう。特に、お前のような者は真っ先にな」


「ふーん。そ。できないくせにあんまりそういうことを言うものじゃないし、あんたたちみたいな呪術を使って姑息な真似する奴らに言われたくないとは心底思うけれどね」


「ふっ。できない、か。では、試してみるか?」


「試してみれば?」


 別にここでこいつらを全滅させてしまっても構わない。


 月夜の華の間へのルートは知ってる。本当は会話してる時間だってもったいないと思うレベルなのだ。


 ただ、ひと悶着またあるのか、と思われた時だった。


「ベルル、今、この状況で愚か者なのは貴様だ。くだらん殺気を立てるのはやめろ」


 一番先頭を歩いていた五人目。


 髭を生やし、一番老いているアポロンウルフが静かにそう言った。


 ただ、その静けさの中には確かな強さがある。


 それを感じ取ったのか、ベルルと呼ばれた最後尾の男獣人は、一気にその殺気を濁らせた。


 どうやら、先頭のあいつが一番強いらしい。


「魔王様、創造と破壊のお話ですが、私もそれに関しましては同じ思いでございます」


「あっそ」


「はい。あなた様のような圧倒的なお力を持つ者以外には、理解し難い領域の話だとは思います。失礼でございました。私から謝らせていただきたい」


「それは別にいいけれど、その言い方からして、わたしと同じ話が分かるあんたは、わたしの持つ力と同じほどの力を持ってるって言ってるようにも聞こえるわよ?」


「……ははっ。それはそれは。あり得ないお話ですのでご安心を」


「……」


 ……見え見えなのよ。


 どいつもこいつも、わたしがちょっと前線から離れた途端にこれだ。すぐに舐め腐る。


 パロルドにあれだけの力量差を見せてやったのに、まだ隙あらば一泡吹かせようとしてくる。攻撃的な気を消そうともしない。


 恨みのせいか、それとも王を侮辱された怒りか、はたまた王よりも力があるとでも言いたいのか。


 どれでもいいけれど、人間であるロナをいつまでもこいつらと一緒にさせてやるべきではない。


 早いところ父親を救出しないと。


「さ、着きましたぞ。月夜の華の間でございます、魔王様」


「ええ、頼んでもないのに、わざわざ着いてきてくれてありがと」


 嫌味たらしく言ってやり、魔法扉が開いた、その先へと視線をやった。


「……は?」


 そこには、想像していないほどにおびただしい数のアポロンウルフがいた。


 ガラス張りの天井から差す月光だけがその部屋を照らすすべてだが、しっかり見えていないのにも関わらず、どいつも正気を保っていないということがわかった。


 獣らしく、唸り声を低く上げ、闇の中で光る眼は赤黒い。


 とてもじゃないけれど、そこに人間がいるとは思えなかった。


「……あんたたち、騙したわね? わたしはこの子の父親がいるところに連れて行けって言ったはずだけど?」


「クククッ」


「何が可笑しいのよ? わたしにこれから消されることがそんなに嬉しいかしら?」


 冷たく問いかけてやったが、反応は幹部たちから返ってこない。代わりに、わたしの胸に抱かれているロナが返してくれた。


 指先を暗い部屋の中へ向け、震えながら口を開く。


「……まおー……さま……。あそこ……」


「どうしたの? あそこが何よ?」


「あれ……パパ……」


「え?」


 そこにいたのは、どう考えてもアポロンウルフだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やばいパターン来ましたね…… 幻覚か親子の絆をか… 獣には獣の生き方があるのかなあ 信念というか [一言] 皆殺しかな? 楽しみにしてます!
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