11話 獣人王・パロルド
うわ、日付越えちゃったよ……。すみません、二日空いちゃいましたが、どうぞ!
アポロンウルフの住処。
それは、森の一部分を円形上にして展開されていることが一般的で、強力な結界が張られている。
ただ、強力とは言っても、結界に触れると電流が流れるとか、呪いにかかるとか、この段階ではそういったことは起こらない。
そうではなく、侵入者が入ってきたと、その住処内部にいるアポロンウルフ達全員に認知されるという意味で、強力だということだ。
だから――
「久方ぶりだな、魔王エルシャラ。我らが黄金宮に何をしに来た」
わたしとロナは、すぐにアポロンウルフ達に感知され、奴らの住処の中心である『黄金宮』に誘導させられた。
もちろんだけど、人間とか、半端な種族の奴が感知されたら、速攻でまず牢獄に入れられてしまう。
そこから色々呪術をかけられたりするわけだけど、わたしは別だ。
先の動乱でかなりの数のアポロンウルフを殺したものの、それでもわたしを最強の魔王だと認知している者は多いみたいで、怯え切った様子でここまで連れて来られた。
形そのものは普通の小さ目な城だけど、外壁とか、中にあるもののほとんどが金ピカなのだ。
そんな金色にまみれた部屋の玉座に座る一人の獣人。
奴は、周りにいる他の下っ端アポロンウルフと違い、わたしを怯えることなくジッと見つめ、ゆっくりと口を開き、問うてきた。
まあ、わかってるのに聞いたとか、そんな感じではないはずだ。
ロナは隣でわたしの手を握っているけど、まさか魔王が人間を助けに来たとは到底思っていないはずだ。
ロナのことだって、これから城に持って帰る子ども奴隷としか思っていないだろう。残念ながらそういうわけでもないんだけど。
「いいわ。当ててみなさいよ、獣人王パロルド。わたしがここに何をしに来たか」
わたしは試すようにイジワルっぽい口調で言ってやった。
それを受け、獣人王の眉間にはしわが寄る。瞳の色はわずかに冷たいものとなった。
「貴様、我の性格を知っているだろう? 用件を早く言え」
「わたしだって早く色々終わらせたいわよ。けど、答えてみなさいよ。絶対に答えられなと思うから」
「茶番はいい。早く言えと言っている。言わなければ、領地侵害とみなし、ここにいる獣人全員で貴様を討つぞ」
「へぇ、できるの? 前、わたしに絶滅一歩手前まで追い詰められたのは、どこのどいつだったかしら?」
「そんなものは知らん。どうでもいい。我らはあれからさらに強くなったのだ」
「ぷっ。だって、ロナ。どう思う? こいつら、わたしよりも弱いくせにこんなこと言ってるのよ」
「ふぇ……」
怯え切ったロナはギュッとわたしの手を強く握るだけで、それらしい返答をしてこなかった。
まあ、仕方ない。ここにいれば大人の人間でさえ、普通は震え上がるものだ。獣人王の殺気は凄まじかった。
けど、だ。
「っ!?」
今のわたしは、とにかく面倒ごとを終わらせたい気持ちでいっぱいだ。
そういうわけだから、さっさと本気を出させてもらう。
一切手加減なしで力を解放させた。
ふざけた幼稚園用のエプロンは、漂うオーラによって消滅し、長袖シャツとひらひらしたスカートも書き換えたように消えていく。
そして代わりに、過去の動乱時に使用していた装備へと変わり、収めていた漆黒の羽も大きく開かす。
黒基調のローブに身を包んだ姿。一番魔力の発揮しやすい、わたしの正装だった。
「パロルド、どうでもいいけれど、茶番に答えないなら、あなたの意識はものの一秒で消え失せることになるわ。久々にわたしに会えたというのに、それでいいの? 思い出作りはしなくていいかしら?」
「っ! ふ、ふざけるなっ! わ、我はあれからさらに――」
「はいはい。そういうのいいから。茶番には付き合う気ないみたいだし、もう聞くことにするわね」
言って、隣にいるロナの顔を見ずに指さし、続ける。
「この子の父親はどこにいるの? 殺さずにどこかへ隠しているんでしょう? 労働現場でも、城の中でもどこからでもいいから、連れてきなさい」
「な、なんだと……!? 貴様、魔王のくせに人間を助けに来たと言うのか……!?」
「不本意ではあるけれどね。あんたたちがわたしに怯えるように、わたしにもちょっとした目の上のコブみたいなのがいるのよ」
「っ……!」
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。さっさとこの子の父親を出して。誰の子かわからない、とか、その父親がどこにいるのかわからないとか、そういうのは無しよ。あんたたちの鼻がいいのはわかってるんだから。さ、早くしてちょうだい」
「っっっ! 舐めるなァァァァッ!」
――早い。
攻撃速度と突撃速度、そのどれを取っても、獣人王パロルドのそれは簡単に見切れるものじゃなかった。
けれど、残念ながら相手はわたしだ。
幾万の戦闘を重ね、幾万の力を振るい、幾万の攻撃を敢えて受けたことのある、魔王エルシャラだ。
その程度の速さ、わたしには通用しない。
包み込むかのように、静かにパロルドの攻撃を受け止めた。
指一本で。
「あのねぇ、パロルド。わたし、同じことを何度も言うのは嫌いなの。この子の父親を出しなさいって言ってるわよね? 苛立たせるんじゃないわよ」
「なっ……!? わ、我の攻撃を……! ――っぐぁぁぁぁぁぁぁ!」
まだ答える気がないらしい。
面倒だ。少しだけ痛みを与えるため、わたしは瞬間移動を使い、パロルドの背に回った。そして、背後から奴の両腕を掴み、ギリギリと締め上げていく。
「早く言え」
「うが……ぐっ……! う、ウルフたち! 何をボーっと見ている! 魔王を、エルシャラを全員でかかって始末するのだ! やれぇっ!」
「ちっ」
パロルドの余計な指示により、怯えていた配下共は意を決してわたしに突っ込んできた。
一匹一匹相手にしてもいいのだけど、残念ながら今わたしは手がふさがっている。軽く、オーラだけで近付く者を吹き飛ばした。
それから、苛立ちを表現するかの如く、パロルドへの締め上げをきつくする。
「早く言えと言っている。これ以上言わないつもりなら、あんたの両腕をしばらく使えくさせてやる。さあ、どうするんだ?」
「うぅっ……! くっ、ぐぐっ……! く、くそっ! わかった! わかったから離せっ! 離すのだっ!」
「先に居場所を言え。離すのはそれからだ」
「月夜の華の間だ! そ、そこに人間のガキの父親はいる!」
「あそこね……」
ようやく居場所を掴んだ。
わたしはとりあえずパロルドを解放してやり、月夜の華の間に行った時のことを少しばかり考えるのだった。




