9話 三分の一の本気
「それで、ロナはいつからいなくなったのよ!」
「正確にはわからないんです! 家の前で普段通り遊ばせていたら、気付けばいなくなっていて……! 私がしっかり見ていれば……」
「ったく、バカね! ほんとにその通りよ! 自分のガキにくらい、監視魔法の一つでも施しておきなさいっての! わたしなんて部下全員にしてあげてるのに!」
「はい……すみません……すみません……」
いきなりわたしの部屋の窓を叩いてきたロナ母。
かれこれ、二時間ほど前だろう。ロナのお迎えにやって来て、その時は特に何もなく、また明日、みたいな挨拶をして別れた。
それで、今夜からわたしはアポロンウルフの根城へ単独向かおうとしていた。
けれど、ササッと一仕事終わらせて、面倒ごとはすぐに片付けてしまおうと思ってた矢先にこれだ。
ロナの失踪。
皮肉にも今夜は満月で、父親が消えた日と重なる。
わたしは母親がロナに吹聴していた、「満月の日に父が帰って来る」という嘘を思い出した。
大方、あのガキはこの言葉を信じ切り、待てないとばかりに父の元へ行こうとしたのだろう。
哀れなもんだ。嘘かそうじゃないかくらい見極めなさいよ、とも思うけれど、よくよく考えたら生まれて三年とか、四年らしいし、仕方ない部分はある。
だったら、この場合悪いのは母親……とも言い切れないのが忌々しい。
その嘘は、腐っても一時的にロナの平常心を保たせていた。
よくよく考えたら、どこも責めようがないのだ。この失踪事件はなるべくしてなった。しいて言うのなら、わたしが予測できてなかったのが悪かったってこと。面倒ごとが起こる前にどうにかしておけばよかったんだ。
……なんかそれもまたそれでムカつけど。なんでわたしがそこまで気を回さないといけないの……。
「幼稚園の先生だからです」
「だから、心の声読むのやめなさいってば! それされたらプライバシーも何もあったもんじゃないでしょうが!」
浮遊魔法で空中移動しながら、わたしは叫んだ。
問題発生とあり、創造主もなんか駆けつけてきたのだ。今は実体化してわたしの隣を飛んでる。
「それにしても、エルシャラ。母親は連れてきた方がよかったのでは? いないようでしたら、私はこうして実体化できるのでいいのですが」
「別に連れてくる理由なんてどこにもないじゃない」
「同じ遺伝子を持つ者が傍にいるだけで、少女ロナは格段に早く見つかります。それはあなたも理解しているはずでしょう?」
「……ちっ」
「まったく。あなたは本当に人間思いなのですね、魔王エルシャラ」
「勘違いしないで。これから起こる戦いに、あんな劣等種の女が傍にいたら、足手まといになると思ってるだけだから」
「……はいはい」
「じゃあ、飛ばすわよ。最高スピードで行くわ」
「お好きにどうぞ」
言って、わたしは久しぶりに本気の三分の一ほどの力を出して飛び、捜索魔法の方にも力を込めた。
その勢いに雲は吹き飛び、眼下にあった木々は折れるのではないかというほどに曲がり、揺れる。
すべては、アレが聞こえたからだ。
久方ぶりのアポロンウルフの遠吠えが。
いつもより短めでした。すみません(汗)
また明日、本来の文量まで戻せそうです! よろしくお願いします!




