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プロローグ

「ふぁ~……むにゃむにゃ……」


 玉座にダラッと座ってあくびをする。


 割と自分でもびっくりするくらい間抜けで、気の抜けたものだと思った。


「……むー……」


 けど、そんなことはどうでもいい。


 わたしがどれだけあくびをしようと、だらけていようと、怒れる人なんて一人もいない。


 なぜならわたしは強くてえらい魔王だから。


 みんなに恐れられる存在だし、世界のラスボスだし、配下もたくさんいて、お金も食べ物も城もたんまり持ってる。


 何一つ不自由ない生活を送れてるわけだ。


 あ~、今日は今から何を食べようかなぁ~。


「エルシャラ様、失礼いたします。一つご報告が」


「ん、なに?」


 昼ご飯のことを考えていると、第一側近のルーメリアがワープ魔法でわたしの目の前に現れた。


 縦ロールのブロンドヘアをしていて、メイド服に身を包んでいる。たたずまいも厳かで、表情が固いのもいつも通りだ。


「解体致しました東大陸の軍隊に続き、西大陸の軍隊も暇を持て余し始めたそうです。理由はこれも同じく、魔王様に敵対する冒険者の減少と見られております」


「あぁ、そうなのね。……ねえ、ルーメリア。そんなことより、今日の昼ご飯はなに? わたし、お腹空いてきちゃった」


「……は、はい……?」


 ルーメリアは困惑したような表情を作る。


 けれどわたしは関係なく続けた。


「だから、お腹空いたの。わたしの頭の中は今ハンバーグとか、グラタンとか、ケーキとか、そういうものでいっぱい! あ、もちろん野菜は抜きね。とにかく、軍隊とか退屈な話より、今はご飯なのよ! わかる!?」


 言い終わった後、「ぎゅるるる」とお腹が鳴った。


 そういうことだ。今はとにかくお腹が空いてる。ハンバーグとかグラタンを想像したらさらに空腹度合いが増した。


「承知致しました。お食事の方はすぐに用意させていただきます。ですがエルシャラ様、西大陸の軍の処遇は今すぐにでもお決めください。暇すぎて人間たちの娯楽にそそのかされている者も出始めているとのことですので」


「ふーん。まあ、いいんじゃない?」


「い、いいのですか? 我々魔王軍と人間が仲良く交流し始めているのですよ?」


「だってさー、なんかもう戦うのもめんどくさいのよねー。こうやってお城の中で生活してればわたしは幸せだし、領土もいい感じに手に入っちゃってるしー」


 これ以上何かを手にする必要もあんまり感じられない。


 世界征服するぞーって最初は思ってたけど、なんかある程度手に入れたらそれでもうよくなっちゃったのだ。


「し、しかし……」


「いいのいいの。伝えておいて。西の大陸軍も解体よって」


「は、はぁ……」


「なんなら、そこに住みたい者は住んでもいいよってことも伝えておいて」


「わ、わかりました……」


 ルーメリアは「これでいいのだろうか」みたいに首を傾げ、一礼してからまたワープ魔法を使い、そこから消えた。


 まったく。ああいうとこ真面目だからねルーメリア。


 本性は可愛いものに目がない普通の女の子なのに。


「まあいいや。ご飯食べに行こー」


 わたしは玉座から立ち上がり、食事部屋へと向かうのだった。



 ごはんを食べた後は、すぐに眠たくなった。


 こうなったらもう何もできない。


 自室のベッドに寝転がり、睡眠睡眠。ぐーぐーぐー。


 普段なら夢なんてまったく見ないわたしだったが、なぜかこの時ばかりは夢の中にいるとぼんやり気付いた。


 意識はハッキリしない。


 ぼんやりとしていて、白塗りの空間に突っ立っているわたし。


「……なんなのこの夢……?」


 そう呟いた時だった。


『……魔王エルシャラ……魔王エルシャラ……』


 どこからともなく声がした……ような気がした。


 意識もぼんやりしてるし、聞き間違いかと思って無視していると――


『魔王エルシャラ。貧乳で貧しい体型なエルシャラ』


「な、なんですってぇ!?」


 こればっかりはハッキリ聞こえた。それと共に意識も覚醒。


 さすがに聞き捨てならない。どこのどいつだ。そんなことを言うのは。


「誰よ!? 姿を見せなさい! 魔王の前で事実を述べるなって教わらなかった!? 八つ裂きにしてあげるから出てきなさいよ!」


『あら怖い。どうやらかなり気にしてることのようですね。イライラしていると貧乳がさらに加速しますよ? 気を付けないと』


「ううううるさいわね! 別に気にしてなんかないし、心配してるような感じで言うのやめなさいよ! ムカつくわね! 姿見せなさいって言ってるでしょ!?」


 わたしが叫ぶと、声の主は『うふふ』と笑った。


 そして、突如目の前に煌々とした光が発生し、その光の中から何者かの姿が浮かび上がった。


「ごきげんよう。魔王エルシャラ」


 現れたのは、白い薄布に身を包んだ長身の女性。


 水色の長い髪の毛を綺麗に伸ばし、瞳はグリーンで、これでもかというほどに美しい。ちなみに胸の方はわたしへの当てつけともとれるほどに大きかった。


 これだけで殺意がさらに上昇する。


「何者なのよあんた。わたしの夢の中に出てきて失礼なこと言ってくれて!」


「私ですか? 私はこの世界の創造主です」


「……は? そ、創造主!? 創造主って、魔王よりもえらいあの!?」


「そうです。あなたよりもえらく、スタイルも抜群な創造主です。今日はあなたに大事な話があって、夢の中にまでお邪魔させていただきました」


「うぐぐっ……! 一々一言余計ねあんた……!」


 悔しいが、相手が創造主と知れば、わたしとてうかつに手は出せない。


 認めたくはないけど、この人は間違いなくわたしよりも強い。


 存在自体聞いたことはあったけど、まさか夢の中で出会うとは……。驚きだ。


「……それで、大事な話ってのは何なの? 暇つぶしに煽りに来たとかそういうのじゃないでしょーね?」


 憎々し気に問うと、創造主は首を横に振った。


「私があなたに話しに来たのは、世界のこれからと、あなたのこれからについてです。魔王エルシャラ」


「は? 世界のこれからと、わたしのこれから……?」


 何のことだろう。心当たりがない。なんか変なことしたっけ?


「その様子だと、何の心当たりもないようですね。まったく……」


「な、なによ!? 悪かったわね! 何か問題でもあるっての!?」


 つくづくムカつく創造主だ。


 わざとらしくハァとため息をつかれた。


「端的に言えば、世界が平和になりすぎてしまった。そして、魔王であるはずのあなたが世に絶望と恐怖を最近与えなさすぎるという点が問題なのです」


「は、はぁ!?」


 何を言ってるんだこの人!


 魔王的にこんなこと考えるのは問題かもだけど、それっていいことじゃない! 平和だったらそれでいいじゃない!


「訳わかんないこと言わないでよ! じゃあ何? あんたは創造主のくせしてわたしにもっと世界を破滅に導けって言うの!? バカみたいじゃない!」


「バカではありません。すべてはバランスなのです」


「ば、ばらんすぅ……?」


「そうです。創造と破壊。この二つが同じ程度存在し、繰り返す。これがなくなると、世界は途端に崩壊し始めるのです」


「なんで? 創造がたくさんあったらいいことだらけじゃない」


「いいえ。それではこの世にモノが溢れすぎてしまう。モノが溢れすぎてしまえば、世界は途端に破綻します。人も、魔物も、生きているものすべてが狂い始めるでしょう」


「……だとしても、そんなのまだまだ先でしょ。どう考えても……」


「先とはいえ、そんな未来が待っていることは創造主として黙ってはいられません。集のコントロールを図るのは私とて難しいですが、今回のこの問題は、破壊側である魔王、あなた個人のせいでもありますからね」


「なっ!? なんでわたし!?」


「決まっているでしょう。ろくに征服活動もせず、朝から晩まで城の中でゴロゴロゴロゴロ。極めつけには魔王軍の解体まで各所で行い始める始末……。物申さずにいられますかこんなの」


「ギクッ……!」


「人間たちもそのせいであなたへの恐怖心を無くしていっています。早く征服活動を再開させなさい。今日はそれを言いに来たのです。いいですね?」


「い、嫌よそんなの! めんどくさい! せっかく最近城に冒険者が来なくなり始めてたのに、征服再開させたらまた来始めちゃうじゃない!」


「だからそれをめんどくさいと思うのがそもそも間違いなのです。いいですね。何度も同じことは言いませんよ。再開させなさい」


「い・や! ぜーったいに嫌っ! わたしはもう貯えもあるし、好きなことを好きな時にしまくって、美味しいものたくさん食べながらダラダラ暮らすの! 絶対にもう戦わない!」


「エルシャラ……あなたは本当に……!」


 創造主の怒りが募ってるのがビンビン伝わってくる。


 けれど、わたしだって引かない。戦いだってこの際引き受けるつもりだ。平和なゴロゴロニートライフを守るために!


「もう何を言っても無駄よ。わたしは戦わないんだから。戦わないために、あなたと戦ったっていいわ。魔王の力を存分に引き出してやるっ」


「どこまで腐りきっているのですかあなたは……。……しかしその言葉を聞いて、案を一つ思いつきました」


 案……? 何のことだろう?


「今日はもういいです。どうしても戦いたくない。そういったあなたにピッタリなことを思いついた。それで充分です。それでは」


「? 何よ? えらく簡単に引き下がるのね」


「ええ。あなたと戦って無理やり征服活動を再開させてもいいですが、それでは勢いあまってあなたを亡き者にしてしまいそうですから」


「うっ……」


「起きた時、あなたにも変化が訪れているでしょう。それでは、楽しみにしていなさい」


「あっ、ちょっ……!」


 まばゆい光と共に創造主は消えていった。


 最後に思いついたと言っていた創造主の案が不安ではあったものの、わたしの夢はそこで終わり、また穏やかな眠りの中へと意識を埋没させていくのだった。


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[良い点] 文が整えられていてとても見やすいです キャラ付け・世界の設定もしっかりしていて面白いです [一言] ブックマーク&星5付けました
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