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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第七章 織田信忠の野望(vs浅井)

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90話 織田信忠の野望⑨


 浅井の本城である小谷城北側の山岳部に、裏の玄関口と言える大嶽(おおずく)山の砦が築かれていた。最重要拠点だった。

 朝倉軍の機先を制してここを奪取した織田軍は、わざと敗残者を逃がし、朝倉に陥落したことを報告させた。動揺の広がった朝倉軍緒将に、統制のとれた軍事行動を求めるのは最早不可能だった。


 盲目的に本拠一乗谷館を目指し退却を始めた。その慌てぶりを待っていた織田信忠軍に、背中を襲われた。北陸に向かう街道は、逃げ散る朝倉将兵の死骸で埋もれた。


 一乗谷を落とし、朝倉義景にとどめを刺した織田軍は反転し、大嶽(おおずく)山砦に再集結。表の玄関口である清水谷口とともに、北方の裏ルートからも大攻勢を仕掛けた。


 大嶽(おおずく)山砦は浅井長政から数えて先々代、浅井(あざい)亮政(すけまさ)の時代、小谷城の本丸であったと伝承され、ここから現在の小谷城の《京極(きょうごく)丸》に山道を経て繋がっている。京極丸は長政率いる本隊が籠る本丸と、堀切で区切られたその北奥の砦になる小丸、山王丸のちょうど中間に位置し、ここを衝くと小谷城の横腹にえぐり込む形になる。


 朝倉に続き、浅井の終焉も刻々と近づいている。



 お市の説得に応じ、従者数人のみを連れ、京極丸口から小谷脱出を図ろうとしていた浅井(あざい)久政(ひさまさ)浅井(あざい)万福丸(まんぷくまる)は、急いていた歩みを止めた。 

 先導の織田家家臣木下秀吉配下、石田佐吉が突然、立ち止まったからだ。


「いかがしたか?」


 久政は、目線を左右に渡らせた。

 不思議なことに京極丸の内に、浅井の者が一人も見えない。もし討たれているにしても、その死骸すらないのはあまりにも妙だった。あやかしの術なのか、巧妙な策なのかは分からぬが、何らかの特殊な罠に嵌められたのだと彼は覚った。


「やはり。たばかったか」


「いいえ。時空を少しズラしているだけです。周囲は激しい戦闘を行っています。よく耳をお澄ましください」

「……剣戟? 悲鳴?」


 言われてみれば確かに。

 味方が居ないだけでなく、織田軍(てき)も見当たらない。それなのに、異様でいて馴染みのある気配がそこら一帯に漂っている。


 言うなれば、それは殺気。敵の者同士が放ちぶつけ合う――。

 ――戦場(いくさば)の空気。


 薄目で目を凝らした万福丸が「ワッ」と声をあげて久政にしがみついた。


「わたしたちは今、彼らと同じであって同じでない空間におります。相手からも、わたしたちからも、お互いの姿が見えていません。――さあ、あの乗り物へ」


 京極丸屋敷の真ん前に《コスモ・エアライン》とロゴされた白い飛行物体が着陸している。見たことも無い奇怪な形状の金属体にふたりは言葉を無くし、佐吉が誘導するまま、素直にそれに乗り込んだ。


 いや乗り込もうとした。

 が、その寸前に久政が踵を返した。


「万福丸。ワシは忘れ物を思い出した。先に行って待っておれ」


「もう出立しますが?」

「しばし待て。小用じゃ」


 久政の我儘を佐吉は受け入れた。


 トイレなど機内にもある。それに、久政が京極丸屋敷内ではなく、浅井兵が詰める小丸砦の方に歩いて行くのに、何の咎め立てもしなかった。


 久政が小丸砦に消えたのを見届けると、佐吉はスマホを取り出し、どこかに連絡を取ろうとした。


 その手を払い、落としたスマホを踏みつけた人物がいた。


 竹中半兵衛だった。


「ダレに連絡するんですか? 秀吉さまですか?」

「……竹中半兵衛さん。お久しぶりです。もう故郷(イカスルメル)に帰ったのかと思ってましたが?」


 逆質問された半兵衛は答えず、目線を外して、佐吉にそちらの方向を見るよう促した。

 後ろ手に縄でしばられた安藤社長が、クー(竹中重矩)とモンモン(竹中重門)に引き立てられている。


「ありゃ、安藤さん。抜かりましたか」

「答えてください。秀吉さまと石田くんは何がしたいのですか? いったい何を企んでいるのですか?」


 問われた佐吉、薄く笑うと真顔になった。


「同じ(・・)ですよ、竹中半兵衛さん。――あなたと」


 佐吉の背後で宇宙船がゆっくりと上昇を始めた。

 窓の内側に万福丸が張り付いていて、何やら懸命に訴えている。聞かなくても分かる。久政がまだ搭乗していないと報せているのだ。


「コペルくんの意志に従い、わたしたちはこの国を平和に導きます」

「だからと言って、自分たちの思い通りに進めていいはずは無いでしょう?」

「あの老人のコトですか? 彼は自らの意志で死ぬことを選択したんです。一切強制なんてしていませんよ」


 半兵衛は戦国時代の着物衣装ではなく、イカスルメル星人の一般的な服装をしていたが、そのポケットからスマホを取り出して佐吉に差し付けた。


「先週終わった夏コミの本、その中に《コペルくん預言本》ってタイトルで出された同人誌があったわ。あなたたち、ここに描かれた歴史をなぞろうとしてるの? 本気で考えてるの? 神さまか何かになったつもりなの?」

「面白いじゃないですか? ただの一般庶民が描いた低俗で、くだらない本に犯された低級な世界の低級な歴史が存在したというのも。というか、あなたのチェック力も半端無く高レベルな低級さですが」

「そんな話、どうだっていーのよ! あのね、あなたたちはコペルくんの予知を利用して、単に自分の欲望を満たそうとしてるだけだって、そういうのがサイテーっだてわたしは言ってるの。理解できてる? 理解できてんなら改心してよ」


「改心? 何に対して? コペルくんは美しい地球を保つために平和を求めてる。でもその道のりについてはこだわってない。違うかな?」

「でも地球人たちがムダな血を流すことも望んでない。だって地球は、地球人ふくめての地球だもの! だから見守るって言ったんでしょ? そうですよね、お市さま?!」


 半兵衛が同意を求め見上げた場所、京極丸の屋根の上に、お市が三角座りで待機していた。

 佐吉のカオから血の気が引いた。


「お、お市さま?!」



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