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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第七章 織田信忠の野望(vs浅井)

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88話 織田信忠の野望⑦ 


 本丸の屋根に上がり、虎御前(とらごぜ)山を眺めていたお市のとなりに、「よっこらせ」と浅井長政が腰を置いた。

 何もしゃべり出さない長政にさりげない気遣いを覚えたお市は、彼の肩にもたれ掛かった。

 織田の旗指物が時間を追うごとに増えていっているが、まるで絵空事のように気にならなくなった。


「朝倉義景さんの最期、なにか聞いた?」


 朝倉の本拠地、一乗谷が陥落したという悲報を受けてから、まだ一週間も経っていない。

 それなのにもう織田軍は、北国敦賀から、ここ北近江の小谷まで引き返して来つつある。


 およそ百年、五代続いた北の雄、朝倉氏の、あっという間の滅亡劇だ。どれほどの凄まじい追撃を受けたのかと、お市は戦慄せざるを得なかった。


義景(あに)は最期、重臣らに裏切られ腹を切ったそうだ。首は即刻織田(ヤツ)のもとに届けられたらしい」


「……家族は?」

「主だった家族は全員殺された。市の故郷の国じゃ異常なんだろうが、この国では当たり前のことだ。織田軍は、朝倉諸子の無数の死骸が転がっている北陸路を片付けながら、続々とこっちに戻って来ている」


 市は顔をしかめた。

 もう慣れっこだが、やはり惨たらしい話には未だ嫌悪感が抜けない。


「わたしね」

「なんだ?」

「……昨日、牢屋に行って、例の怪しい男に会ったの。……その人、どう見ても」

「?」


「どう見ても、お兄ちゃん、なの……」


「な、なんだって!?」

「でも違ったの。本物のお兄ちゃんはもっと若いし、あんなに病人みたいじゃない」


 言葉を区切って、市は首をひねる。


「得心いかんが、どういう?」

「いえ。それでわたしも動揺してたらね。突然わたしの横に女の子が現れてね」

「? 子供?」


「自分は《コペルくん》だって言うの」

「ん? こぺるくん?」


「うん。イカスルメルが誇る高性能人工頭脳。学習型コンピュータAIのコペルくん。わたしの国の、人間以上にチョー頭いい、からくり装置なんだ」


 市の前に予告もなしに現れたコペルは人の姿をしていた。ただ《くん》と呼んでいた割には、女の子だよね? と、市はくだらぬディテール部分で納得いかなかったのだが。


 人の成りをしているのはリラックスしてもらうため。女の子なのは、市の目にはそう映って見えるだけだと説明された。確かにそばの衛士は何の反応も示さない。衛士には《コペルくんが見えていない》のだ。


「――で、ソイツはどうして市に会いに来たんだ?」

「コペルくん、この地球を平和に導こうとしてるんだって」


 市はますます困惑するナガマサを気の毒に思い始めた。


 でも彼女だってモヤモヤしていた。自分独りの胸に収めれるほどの軽微な話ではないのだから。誰かに聞いてもらって、いろいろ意見が聞きたかったのだから。


「……まあ、いいさ。ドンと話せ。なんでも聞いてやろう」

「ありがとうナガマサ」


 コペルはますます加速する宇宙開発をより円滑に進めるため、あらゆる星の生態、環境に気を配っていた。その中で太陽系の《地球》と言う星は、特に資源に恵まれていて、将来有望な星のひとつとして前々から認知されていた。

 この地球を自然豊かに美しく保つためにはそこに住む高等知能生物、つまり人類が大きな障害になるとの見解を示していた。


 しかしである。


「数年前、この地球とイカスルメル星が《同一星》なんじゃないの! っていう、ビックリ仰天な新分析結果がはじき出されたの。コペルくんによって」

「はあ。要は……えーと、同じ仲間なんじゃないか? と?」


「そう! つまり、この地球と、イカスルメル星は、距離による隔たりだけじゃなくって、時間軸による隔たりも有しているらしいぞって! ある星域を通過するときに通常あり得ない量の未知の粒子が発生するんだけど、この粒子の帯が、並行する世界の時間軸に何らかの影響を及ぼしているんじゃないかって話……」


「市。済まんがオレ、笑えて来た」

「そう言いながら泣いてるよ、ナガマサ。ごめんね、わたしこそ。もう本題に入るよ」


 コペルの出した分析結果を政府は荒唐無稽だと断じて取り合わなかったが、まったく邪険にもせず《特殊観察対象》と位置付けて、原住する知的生命体、すなわち地球人の一掃処分をしばらく留保する措置をとった。

 ただし地球人が道を誤らないように常に監視する態勢もとるようにした。


 織田信長なる人物が極東の日本という島国を、多少強引であるが安寧に導こうとする行動を予見し、積極的に肯定したのもこのためだった。


 ここでさらに誤算が生じた。


「わたしたち、実は何度も戦国時代を繰り返してるらしいの」



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