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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くらの
第七章 織田信忠の野望(vs浅井)

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84話 織田信忠の野望③


「ああ、ワシとしたことが。なんたる失態……」



 織田信長が引きこもり生活を始めて、もうすぐ2年になる。


 武田信玄がいよいよ上洛の途に就くと聞いた帰蝶は、さすがに居てもたってもいられなくなり、彼の部屋を訪ねた。


 しかし、ミイラ取りがミイラになる結果になってこのざまか……と、彼女は自分で自分のアタマをポカリと殴りつけた。


「あー? 帰蝶、どーした?」

「いや! なんでもないわい! ただの自己嫌悪じゃ」


 寝ぼけ眼で歯ブラシを動かしている信長の横顔に、やるせなさを感じた帰蝶は、ゲーム機のコントローラーを握り直し、テレビ画面に映るドットキャラの動きに集中した。


「おわっ、やったぞ?! ハーゴン倒したぞー! 見ろ、みてみろっ信長ぁ! どーじゃワシ、強かろー?」

「あーそーだなー。よくやったな、貫徹乙! だが、まだまだ気を抜くなよー?」


「は? ――わっ! な、なんなんじゃあ、炎に囲まれたぞっ?! ぎゃああぁ、新手の敵が現れおったぁ! で、デカイッ! シドーだとォ?! の、のぶながぁ、メッチャ強そーなヤツがぁ」

「あー、それがラスボスだ。がんばれー」


 こんな調子で丸一日ほど入り浸ってしまった帰蝶は、後悔と幸福感をハーフ・ハーフ(笑)で味わいながら、ようやく信長に向き直った。


「なあ。そろそろここから抜け出さんか?」

「いいよ。ここは昔、吉乃が使っていた部屋なんだ。居心地がいいんでな」

「居心地、なぁ」


 和洋折衷、二間つづきの地味な部屋だったが、信長なりに深い思い入れがあるのだろうと、帰蝶は室内を見回した。


「……なんだ? あのバカにデカイ箱は?」


 部屋の奥のカベに立て置きされた物を指差す。帰蝶の目から見れば、どう見ても《カンオケ》だった。ドラクエをプレイしたが故に、初めて気付いたものだ。


「カンオケだ」

「いや、そりゃ分かっとる! そーじゃなくって、なんであんなもんが部屋の中にあるのかって聞いておるのだ」

「いや。タイムマシンを買おうとしたんだがな、何かの手違いでコールドスリープが届いちまったんだ。……それでな、買い直そうとしたんだが、返品不可でな。しかも、肝心のタイムマシンが国家予算並みに高かったんだ」


 帰蝶には信長の言っていることがまったく理解できなかった。なんせ地球生まれ、地球育ちの戦国人なのだから。


「……ヌシよ。よー分からんのだが、要はヌシは、故郷のイカメシ国とやらに帰りたいわけか?」

「正確にはイカスルメル星な。……いや、帰りたいと言うか、過去に戻りたい」


「過去? でもな、信長。過去は変えられんのだぞ? それよりも未来を見詰めろよ」


 信長が寄って来たので、帰蝶は両腕を広げて彼を迎え入れ、そっと抱き締めた。


「ヌシが幾ら悲しんでも吉乃はもう帰ってこんし。むしろヌシが悲しめば悲しむほど、あの世の吉乃も悲しむと思うぞ?」

「……別にそんなんじゃねーよ」

「じゃあ、なんじゃ?」


 信長は帰蝶の小柄な身体を押し倒し、上から覆いかぶさった。


「ち、ちょっと待ていっ! なにをするかっ!」

「おまえ、オレの正室なんだろ? いまさらナニ狼狽してんだ? ……おまえ、オレのこと好きなんだろ?」

「はあっ? ヌシ、とーとつになんじゃ! 気でも狂ったか」

「そーだな、ずっと狂っちまってるのかもよ? でも、おまえはどーなんだ?」

「え?」

「何回も質問させるな。帰蝶はオレが好きなのか、それともキライなのか?」

「……なにを」


 帰蝶が赤面したのを確認した信長は、彼女の上から退き、カンオケにもたれ掛かった。


「あの寺……、正徳寺だっけ? はじめておまえに会ったとき。あのときは済まなかったな、ヘンな飲み物飲ませて。あのことが無かったら、おまえとオレ、今ごろどーしてたっけなあ。オレと長良川辺りで大決戦くりひろげてたかなあ? 織田と斎藤の頂上決戦、とか言って」


「さあ。どーかのう。ワシは過去にはこだわらん主義じゃし、想像などしたこともない」

「すぐそれか。じゃあ、行く末はどーなんだよ? オレとおまえの」


 フンと、帰蝶はふたたびコントローラーを手に取った。ラスボス・シドーに会心の一撃を当て、「ヤッタぞ」とはしゃぐ。


「小谷のお市は、新しい家族を持ったそうじゃ」

「……」


 あれ以来、信長は外部との接触を一切絶っている。スマホは帰蝶がずっと預かったままだった。返せばその場で叩き壊しそうだったから、意図的に隠しているのだ。


「お市は未来に目を向けておるのかの」

「……」

「反応なしか?」

「……いや」

「なんか言えぬのか? ひたすらショックか?」

「……へえ、そーかとは思ったよ」


「行く末、のう」

「……」

「……ワシはな、ヌシのかたわらにずっと付き従う。死に顔まで拝んでやるつもりじゃ」


「き、帰蝶」

「キショイ! しがみつくなっ!」



  ◇    ◇ ― ◆◆ ―  ◇     ◇



「武田の件、どー対応するの? ボーヤ」

「戦えば負けるだろ?」

「そりゃヒャクパーね」


 無礼者の松永弾正を見据える丹羽五郎左と木下秀吉。

 ボーヤと揶揄された織田信忠は板敷の上であぐらをかき、沈思黙考した。

 そして、


「徳川に足止めさせる。3ヶ月、いや1ヶ月でもいい。その間に将軍を京から追い払う」

「容易ではありませぬ」


 丹羽が反論した。


「弾正どの」


 重苦しい空気を破ったのは秀吉だった。


「弾正どのが放った忍びが、まんまと信玄のお眼鏡にかなったそうでござるな?」

「いーえ。そんな話まったくのデマよ。……で、それが何か?」

「弾正どのは天下一の知恵ものでござるなぁと。それだけでござる」


 信忠は幼い頬を膨らませ気味にし、


「ふたりで内緒話するな」


 と怒鳴った。そして、


「その昔、今川義元が尾張に侵攻してきた時に、パパ上は無謀な突撃をしたそうだけど、ホントウか?」

「ホントウでございます」

「こたびは、その役目を徳川にやらせまする」


 秀吉が畏まって応える。


「武田につくんじゃない? 徳川家康は?」

「いいえ。カレは性格的に……オコチャマには理解しなくていい話ね、ごめんなさい」

「イライラする。また子ども扱いかよ」


 丹羽が咳払いする。弾正の、信忠を見る目に嫌悪を感じたのである。

 弾正の口が小さく動いた。


「悪くない。悪くないわ。光秀お嬢の趣味が理解できる気がしたわ」

「うっほん、うっほん!」



  ◇    ◇ ― ◆◆ ―  ◇     ◇



 元亀3年10月のはじめ、武田軍2万5千は、甲府・躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)を進発し、信濃国(=現長野県)を経由して、徳川領である遠江に到達した。


 二俣(ふたまた)城など各地の支城をいともたやすく落とし続けた彼の軍は、家康の居城であった浜松城をガン無視し、まっすぐ三河方面に突き進んだ。


 期待……もとい、緊張で張り詰めていた家康は総員を率いて追尾を開始し、浜松城から北西に位置する三方ヶ原という地で決戦を挑んだ。


 織田からの加勢を入れ、1万の軍勢での大勝負だった。


「戦術も何もあったもんじゃねーな。お望み通り、徳川家康には強烈なムチを与えてやるよ!」


 家康には前々から寝返りを働きかけていたのだが。


 どういうわけか返事は回を重ねるごとにヒートアップしていき、しかも終始一貫した強気の拒否文だったので、彼が《イジメられ》に喜びを感じるヤツだと知った時には、武田信玄(=スケルトンカセット師匠)は「失敗した!」 と叫んだという。


「それだったらただ一言、『躑躅ヶ崎のプレイルームに招待してやるぜ?』 で済んだものを。……クソメンドくせえコトしちまった!」



 で、結果は徳川方の惨敗。援兵の織田勢も四散した。



 家康は絶頂の恍惚カオをさらして浜松城に逃げ帰り、最期の時を迎える準備に入った。彼の通過した後は、ここでの表現は差し控えたい《ブツ》で悪臭まみれになっていたと伝えられる。



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