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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第七章 織田信忠の野望(vs浅井)

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82話 織田信忠の野望①


 織田信長が自室から出てこなくなって半年が経った。


 生きているのか死んでいるのかくらいの確認は、家臣たちもしている。ときたま「ぎゃあ」とか「うわあーっ」とか悲鳴に似た奇声が聞こえていることだし、二日に一回程度は部屋の前に置いた食事も食べた痕跡があったので。


ただ、織田家当主としての機能は、全く果たされていなかった。




「浅井軍が鎌刃(かまのは)城を攻撃しています」

「やっとこさ誘いに乗って攻め寄せて来てござるか、ききっ。国友鍛冶ご自慢の重装機銃がやっと実戦で試せるでござるな」

「誠に良いのか、藤吉郎? 浅井と事を構えて」


 蜂須賀小六が念押しした。


 ――木下藤吉郎秀吉は生粋の猿だが、人間と同等以上の知能と行動力とバイタリティを持っている。その彼が不敵に笑った。


「織田家が目指すのは天下である。浅井など眼中にないわ」


 この時期、木下の陣営には以前軍師であった竹中半兵衛の姿はとうに無かった。意に添わぬ役目に嫌気がさし、出奔したのだ。ゆえにそれまで彼女が軍律というか規範(モラル)を持たせていたのだが、現在では藤吉郎秀吉の言動、命令がこの集団にとって《是》のすべてになっている。


「ウキキ。これで浅井が先に講和条約に違反したと宣伝できる。せつかくの平和をぶち壊したのはヤツらじゃ。ヤツらは天皇の意向に背いた反逆者なのだ、キッキー」


 それでも浅井側には言い分があった。


 半年前、天皇による調停があったとき、織田信長は浅井領からの完全撤兵を約束していたのである。その対象には秀吉が現在も軍備を維持したまま駐屯している横山城や、鎌刃城、そして数か月前に無血開城した磯野丹波が領した佐和山城も含まれていた。


 だがその取り決めは守られなかった。


 浅井側が再三要請し、抗議していたにもかかわらず、織田家は、浅井家の主張を一顧だにせず、返還する意思も示さないままズルズルと時を過ごし、それどころか佐和山城まで、圧力をかけて我がものにしてしまった。


「松永弾正と連絡を取るでござる。《浅井が動いた。大義は成った。比叡山殲滅作戦の敢行良し》と」

「はっ。ただちに」


 秀吉直臣の生駒親正が、蜂須賀小六とともに腰を上げる。


 彼らは主、秀吉の意図をよく汲み取っていた。

 四面楚歌の織田家が難局を乗り切るためには、生半可な手段ではムリであること、非情にならなければならないこと、悪に徹さなければならないことを痛いほど承知していた。


「叡山一帯を丸焼けにし、浅井と朝倉の籠城を出来なくしてやるのだ」




  ◇    ◇ ― ◆◆ ―  ◇     ◇




 彼の宣言通り、数カ月後、暴挙は断行された。稲葉山攻略で行った《サルの軍団戦術》の再来だった。


「お市さまから直電です」

「ほっておけ。うっとおしいだけでござる」


 秀吉は考えていた。

 小谷の存在は邪魔以外の何物でもないと。地上からの浅井の抹殺は、織田家の今後にとって、必要不可欠であると。


「しかし悪事を行うときの松永どのは、実に手際が良い。それに比べて明智のお嬢めが」


 明智光秀(みっちゃん)は、最後まで比叡山焼き討ちに反対していた。


「柴田勝家は鈍いし、丹羽は小生意気、明智はなにかと反対意見ばかり。なんとまとまりのない織田家じゃ」

「しかしそれを強引に束ねている殿の手腕、見事でございます」


 ヨイショする男の名は石田佐吉。

 のちの石田三成である。


 佐吉は、観音寺と言う寺の小僧だった。

 秀吉が近辺で大々的に就職フェアを開催し、それに応募してきたのが彼だった。数々の入社試験を突破し、並み居るライバルを打ち倒してトップの成績で新興の武家・木下家に入社を果たした。よく歴史物で語られるような、《三杯のお茶》を出し、気に入られた的な、秀吉の安直な直感採用では決してなかった。彼は全力で就活し、みごと成功した。彼には強い信念と野望があったのだ。


 立身出世。

 これが彼を掻き立てる最大無比の意志であった。秀吉についたのは彼に惚れ込んだからに他ならない。佐吉にとって木下藤吉郎秀吉は最高の模範者だった。


 入社わずか半年で彼は、それまでの竹中半兵衛に代わり、秀吉の側近中の側近として頭角を現している。


「織田信忠さまが参られました」

「通せ」


 ふすまが開くと同時に秀吉と佐吉が平伏する。

 そこへ、足早に少年が入ってくる。


 和装ではなく、イカスルメル製の流行りの若者ファッションに身を包んでいる。


「また将軍(うえさま)がだだをこねております。もうそろそろ不要と考えます」

「本願寺に何度も密書を送っております。武田の上洛も頻繁に督促しております」


 まだまだ幼顔の少年は、秀吉と佐吉の報告を理解しているのか、ちょっと首をかしげて考える風を見せて言った。


「サル。まずは浅井と朝倉だ。どーにかして二つを潰せ」

「は」

「武田の侵攻はいつくらいになる?」

「されば半年以内か……と」


 唇を噛みしめた少年は頬を上気させ、


「小谷城を一刻も早く落とせ。それと将軍だ」

「は。何らかの嫌疑を掛け、カタをつけます」


 秀吉と佐吉は再び深々と頭を下げた。


 


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