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08話 稲葉山は箕面じゃなくて美濃だ!

「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ! 藤吉郎が出発するって。お見送りだよ、お兄ちゃんっ」

「うむっ、そーかそーか。美濃(みの)って美味いお土産なんだっけ?」

「ちがうよー。稲葉山ってお城を攻めに行くんだって。例によってまたみんな張り切ってるよ?」


 僕は高笑いした。


「んな。また失敗して泣かされて帰ってくるだけだし。いいぞいいぞ! そうして尾張(おわり)がドンドン疲弊して、美濃斎藤さんの逆襲を受けて、今度こそ滅びられるんだ! 他人の不幸が大好きな母星のやつらもさぞかし喜ぶぞ! 再生回数もアップアップ間違いないなっ」

「でもそんなことゆってさ、前の今川の時もおんなじパターンで勝っちゃったでしょ? だから気を抜いたらダメ!」


 それもそーか。いっつも油断と慢心で身を亡ぼすんだった。……ん? この場合は結果的にこっちが勝ってるから滅びてはいないのか?? んーまぁ、どっちでもいいや。


「サル、サルっ!」

「は。ここに」

「相変わらず、登場が早いなぁ。ういヤツだ。ところでサル。オマエ、こないだの大失敗を覚えてるか?」

「は。その節は誠に申し訳ござらぬです、すみません」


 一見猿で正真正銘の猿だが、脳改造を受けて人間のような理性と知能を備えている、僕の最高のペット、その名も木下藤吉郎秀吉。


「あのさ、藤吉郎。お願いだからサムライ語か現代語かどっちかにしてくれる? 文で読んだら誰がしゃべってるか分からんくなるからさ? でさ、あの《墨俣一夜城》。なに成功しちゃってんの? あれのオトシマエはつけてくれるんかな?」

「あれはただの冷やかしだったでごザル。サル山を斎藤さんちの目の前に作ってやろうとしただけで……。まさかあんなリッパな建造物が出来ちゃうなんて思いもよりませんでした。キキ」


 シュンとしている猿、藤吉郎(サル)


「ま、いいよもう。過ぎたことだ。でも今回はゼッタイに頼むな?」

「キキっ。えへっ。心・配・ご・無・用!」


 大河ドラマが好きな四十代以上なら、どこかで見た覚えのあるだろうポーズで陽気さを取り戻す藤吉郎。でもなオマエそれ、ただやりたかっただけだろ?


「で? 作戦は?」

「サルの軍団攻撃でさぁ!」

「それをやってこないだは失敗したよね? 学んでる? キミ、学習能力あります?」


「お兄ちゃん、それパワハラ! 放送倫理コードに抵触するよ?」


「おっとっと。今のちゃんとカットしてくれな?」

「あいあいさー」

「キラッで誤魔化しといてくれな」


「うんっ! キラッ!」


 藤吉郎、いつも以上に顔を赤くして何か言いたそうにしている。ああ、スマンスマン。


「で、作戦だったな。猿の軍団作戦な。どんなの?」

「え? 作戦はそれですが?」

「? だからー、どんな作戦なの?」

「えーとえーと、箕面(みのお)の山で遊ぶ?」


「なんでー疑問形なーんーだー? ボケッ」

「イデッ」


 思わず頭をどついてしまうボク。


「はいはい。箕面(みのお)美濃(みの)、な。……ちなみに箕面ってのは大阪の地名で、美濃は岐阜県の旧名な。とうぜん分かってる上でのボケな?」


「キキッ。すいやせん、つい間違えて大阪に出かけるところでしたっ。ところで信長旦那。令和時代の地名は、この物語では御法度ではないですか? 大阪とか岐阜とか、室町期にはまだありやせんぜ?」


 ……やっぱりな。ちゃんと分かってるじゃねーかっ!


「それとな。改めて言っとくがオマエ、大前提を忘れてるぞ?」

「なんでござるか?」

「ボクらは《宇宙人》だ。平成だの令和だの、カンケーないっ! 詳しすぎるだろっ」

「恐れながら旦那。こだわってるのは信長旦那の方っすよー! キキキイー」


「あー?」

「あ……いや、全部設定が悪いっす! 作者らの打ち合わせ不足っす! 拙者のしゃべり方もぜーんぶ!」


 ……なんだかますますイライラしてきた。八つ当たりできるヤツはいねーかなー。


「おーい。丹羽ぁ」

「は。ここに」


 うわっ。いたのか!


「あのさー。引っ越ししよ? 飽きた。この清須(しろ)

「はぁ。そうですか。それなら、そのようになされば良いのでは?」

「アリガト。じゃ頼むな、段取り」


「ぬなっ……。……と、はぁ。別にオッケーです。適当に場所探して城作っておきます。で! 完成したら本当にちゃんと引っ越ししてくださいよ?」

「あいあいさー」


 ってあまり動じなかった。チクショー、人選誤ったか。イライラ募るなー。


「お兄ちゃん、どーしたの? サイテーの不幸顔してるよ? 撮っとくね?」

「……おうサンキュー。市」


 去りかけた丹羽くん、クルッと振り返った。


「ところで城づくりは構いませんが、正直言えば清須(くら)の蓄えが心もとない故、明日からしばらくおかずは、コロッケ一個にさせて頂きます」

「わたし、コロッケ大好きだよ。お兄ちゃんもだよね? ヤッター!」

「あーよく分かったよ。城づくりなんてヤメロってんだな。だったら余計やめないモンねー。せいぜい立派な城を作ってくれよ?」


「はぁ。それじゃいっそ、城の名を火の車とかにしましょうかね。ゴロゴロ転がれるから、いつでも引っ越ししまくりで最高ですよ? 良かったですね!」


 怒りやがった怒りやがった。やっと少し清々した。


「へー。火の車ってタイヤついてるの? たのしー」


 OH!

 市のボケは、時に刃物のように鋭いわー。


「火車輪でいいだろ? な? そーしとこうな、丹羽くん?」


「御意。お気に召すままに。勝手にしなされ」

「そー怒るなよ、仲間増やしてやるから。おーいサルー」


「空気読んでとっくに逃げたよー」

「ちっ。じゃあ林ー」


 バッとふすまが開いて、林でなく佐久間が平伏した。


「お呼びですか? 殿」

「あー? まぁいい、オマエで。佐久間さんよ、オマエ……もとい君さ、丹羽くんの奴隷になって……あ、いや仲間になってお城づくりしろ! して? コレ命令な?」


「はあ……」

「言うことあるだろ、御意とか、恐悦至極とか、有難き幸せとか」


 口を開けたままの佐久間。何か言いたいけど言えないのか? 仕方ないな。言いにくいことなら、代わりにボクが言ってやろう。


「清須には、いま金が全くない。よって建築費用は、ほぼ佐久間さんち持ち! 決定」

「……え? えーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ?!」


 丹羽くんがポリポリ頭を掻いてフォローしてきた。


「二ノ宮って場所に、バカ安い土地があります。そこを押さえますから。だからもーいい加減勘弁くださいませ」


 再び別のふすまが開いた。


「殿っ、てか林はこれに!」


 バカだな、このタイミングで来やがって。イジラレキャラ全開だな。


「林くんか、いいところに来たね。でさ、キミさ、二ノ宮に行って土地買い占めて? 理由は聞くなよ?」

「ははっ。てか、そんなヘンな場所に自費で城を建てるなど、イヤでございまするー」


「……お兄ちゃんの話、立ち聞きしてたんだね」


 急に丹羽くんが仕切り出した。今回の話のクローズを図ったとみられる。


「分かりました。引っ越しはマスト事項! それじゃお弁当持って、みんなで候補地探しにロケハンいきましょう。ロケハン。いいですね?」


「わーい、遠足だぁ!」


 分かったよ。せいぜい景色の良いところ、見つけてやろうじゃないか!


 ああ……にしても、引っ越しなんて。言い出すんじゃなかった。ちっメンドーくせー。



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