73話 兄・信長包囲網④ 連戦連闘
― 兄・信長 ―
全身泥だらけの一団が賑やかしく帰還した。
「いやー。まいったまいった。あの居並ぶ種子島の豪射、全身粉々になるかと思ったわい」
「とか言いながら、このおチビちゃん、なかなかの戦巧者ぶりだったわよォ、悔しいけど、なんだか尊敬しちゃったわぁ」
「なんのなんの。変人なお手前こそ劣勢をものともせん豪胆ぶり、まさに武者の鑑でござった! 天晴れじゃ!」
おチビちゃんの帰蝶と、変人な松永弾正は本陣の幕をまくるなり、ガッチリと握手。……なんだ、おまいら? 肩まで叩き合ってるし。意気投合したのか、単に張り合ってんのか、どっちだ?
「それにつけても本願寺の教徒ども。塀高く堀深くを見事に体現した城塞じゃ。しかも、備える火器のなんと多いことよ。あんなのを落とせるのは、進撃可能な巨人くらいじゃよ」
「しゃーないわね。こっちも機関銃を実戦導入しましょうよ。マキシム式なら安価で売ってるかも。ちょっとアマ〇ンさんでポチッてみるわね?」
アホかコイツら。
「こら、そこのマンガ大好きババア、もう少し建設的かつ有益な発言をしろ。それと変態ヤロー。マキシム式とかいつの時代の代物だ? ここは二百三高地か。逆に骨董扱いで高けーわ。てーか、頼んで届くのか、それ?」
「法に触れなきゃ届くわよ」
「じゅーぶんっに触れとるわいっ」
オレらはあくまで一般市民。少なくともイカスルメルではな。地球でのことは不問に付されても、地球へ至るまでの行程は公的な事柄か特例でもない限り、何かと規制される。
以上、後付け設定だ。
「それは困ったのう。困った困った」
帰蝶オマエ、イカスルメルの法令なぞ、知らんだろが。なんでそんなに物知り顔でうなづく?
「おいっ、安藤社長!」
「呼んだかーい? 信長くん?」
「ドローンを飛ばせ。城中の様子を調べるんだ」
「えーっ。金掛かるよォ、幾ら出すの?」
そんなコト言える立場か。しゃちょーよ? オレはちゃんと知ってんだぞ?
「姉川ではずいぶんと世話になったな。無断撮影料と放映料、いったいギャラどんだけ出してくれるんだろーなぁ、タノシミだなぁ」
「わーった、わーったよぉ、今回はぜーんぶ安藤プロダクションが持つから! 過去は全部水に流そう。ね、ね?」
社長は逃げるように自陣に戻っていった。
「信長よ。ワシと松永もある程度は調べたぞ?」
「へー。敵情を? そうか、さすがだな! 報告してくれ」
帰蝶はマイリュックからキャンパスノートを数冊取り出し、ペラペラめくった。「あ、これ違う。うー」などと、マンガを模写した落書きノートを照れながらしまいつつ、ようやく一冊選定した。その挙動、さりげにカワイイ!
「えーっとじゃ。まずは本願寺顕如。浪花のオッさん。ゼニは来るもの拒まず、去るもの咎めず。次に教光院如春尼。顕如のヨメ。公卿の娘で六角の縁者で、『ほんまにウチ、信長はん好かん』が口グセ。本願寺教如。顕如の長男で、朝倉義景の娘の婚約者。脳筋ボーイじゃ。そして次に……」
「……ちょっと待て」
「なんじゃ?」
「かわゆく首かしげるな。……もーいい。オレが知りたいのはそーゆーのじゃない」
わっはっは。と帰蝶。
「たのしーじゃろ? こーゆーフザけた話でもせんと息苦しくなるのでな。んじゃ、ワシ、行水でもしてからちょっと寝るわ。ダンジョーよ、あとヨロシク」
「まあまあ。マイペースなロリっ子ねぇ。じゃ、しゃーないからわたしから。下間頼廉。お寺に詰めるヤクザ。あと鈴木重秀。雑賀衆の頭目のひとり。孫市を名乗るひとり。よーするにヤクザ。みーんなヤクザ。全員ヤクザよ」
「……オマエも。それしか言うことないのか?」
「無いわね」
松永弾正も相当疲れ切ってやがるな。
「分かったよ。オマエもいい。下がって休め。とにかく二人とも無事で良かったよ」
「まあっ! ウレシイッ。ホントはバッドニュースがあったんだけど、今日は報告するの、やめておいてアゲル」
「待て待てっ! なんなんだ、そのバットニュースってのは!」
「……だって。この話題を出したら、ノブちゃん怒るもの」
「この場合、言わんほうが怒るわっ」
ダンジョーの耳打ち。
ヤツの生あったかい吐息に鳥肌が立った後、その報告内容でアタマが真っ白になった。
「な、なんだと……。浅井と朝倉の連合軍が、近江を抜け、京の都に迫っているだと……!」
市……! なんでなんだ!




