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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第五章 姉川合戦(ラブコメなのか?)

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61話 姉川④ 頓挫

 ― 妹・お市 ―


「だからついて来るなと言ったんだ。クー、おまえもだ」

「……ごめんなさい」


 額にのっけられた手ぬぐいがヒンヤリして気持ちよかった。


「……でもね、もう大丈夫だよ。ちょっとばかり気が動転しただけ。……だって戦国時代なんだもんね、わたし、そのこと忘れてたよ」


 余呉(よご)から峠越えして敦賀(つるが)入りし、金ケ崎まで来たときにわたしらは無数のお墓に遭遇した。

 近隣の村人が埋葬したものだという。自分たちだってそんな余裕、持ち合わせてないだろうに。今日明日の見通しさえつかないってのに。亡くなった人への心遣い、頭が上がらない。


「そんな生優しいモンじゃない。そこらに葬られた者の中には村人(ヤツら)に殺された連中も大勢いる……」

「え? どーゆーコト?」

「落人狩りだ。疲労困憊した落ち武者を徒党を組んで襲う。武器や持ち物を奪うためにな。ヤツらは償いのつもりで遺骸を埋めてるのさ」

「彼らは何よりも祟りを恐れる。村に災いが来ないかを案じているのだ。ゆえに殺した者の成仏を祈っておるにすぎん」


 淡々と説明するナガマサとキエモンさん。

 村人たちがわたしたちを襲って埋めてるシーンを、ついつい想像した。そうしてわたしは、さっき食べたお芋をその場でぜーんぶ吐いちゃった。

 クーはわたしより先に気絶しちゃってる。


「動けるか?」


 ナガマサのあたたかい手に自分の手を重ねる。


「あたりきよぉ。……でも、クーは? だいじょうぶ?」

「は、はい。酔い止め飲みましたので」

「そんなの効くの? わたしにも頂戴?」

「信じる者は救われます」


 もう少し先には戦場があるらしいけど、近づかない方がいいとと言われた。

 乱雑に散らばってる墓石を見て回る。

 織田の兵、ずいぶん死んだんだな。近くの大岩に墨で《織田ノ士》って書かれてる。そこら一帯、全部がそうだ。お兄ちゃんに殉じた人たちだ。

 お兄ちゃんが「裏切者」って怒ってたの、いまなら理解できる気がする。

 こんなの、不幸以外、なにものでもない。



    ◇     ◇      ◇



 ところで。

 わたしたちの旅は、ここでぷっつりと終わった。

 理由はふたつ。


「甲賀に潜伏していた六角一味が久政様(おおとの)と示し合わし、江南の織田駐留軍を攻撃したとのこと。織田方の佐久間と柴田がこれに応戦し撃退した模様。以上、お姉ちゃんからのメッセージです」

久政(オヤジ)……」


 悔しさに震えるナガマサに、さらにもうひとつ、追い打ちの悲報が届いた。


鎌刃(かまのは)城の堀次郎秀村が、織田に寝返ったそうです」

「殿。ただちに小谷に戻りませんとなりませんな」

「……ああ。そうだな」


 言葉を無くしたわたしは、ナガマサの手を握り締めるしか出来なかった。


 お兄ちゃんが何を考えてるのか、ゼンゼン分からない。京でナガマサとした約束はいったい何だったの? 確かに浅井は一枚岩じゃないけど、ナガマサがまとめるって言ったんだよ? どうしてそれを信じて待ってくれないの?

 久政(ひさまさ)さんと朝倉(あさくら)義景(よしかげ)に説得するって誓ったんだよ? ナガマサは。

 戦が無くなれば、お兄ちゃんの怒りだって生まれなくて済むでしょう?


「わたしに任せて。一乗谷にはわたしが行くよ。朝倉義景はわたしが説得する!」

「いや。済まねぇが、ダメだ。ただちにオマエも小谷に帰ってやれ。モンモンが心配だ」

「ど、どうして?」

「堀次郎を織田方に寝返らせたのは、竹中半兵衛ちゃんだ。モンモンが彼女の一門だとオヤジに知れたら事だ」


 な、なんで!

 半兵衛ちゃんが、そんな!


「どうして半兵衛ちゃんがそんな任務を?!」

「命令されたからに決まってんだろ? 信長に忖度した木下秀吉あたりにな」

「と、藤吉郎……」

「ヤツはヤツなりに半兵衛ちゃんを思い遣ったんだろうと思うぜ。浅井(オレら)との橋渡しをしろって暗躍させてた手前、どう繕って織田に帰参させてやろうかってな」

「そんなの、藤吉郎が悪いんじゃないっ。お兄ちゃんに黙ってそんな命令しちゃったから……! ……あ!」


 ちがう。

 ちがう!

 ちがう!

 ……そうじゃ、ない!


「もう、何も言うな。だれが悪いとか、そんなのは無い。とにかく帰ろう」

「……わたしの、せいだ。……わたしが、お兄ちゃんには黙っててってお願いしたから」

「だから、言うな。忘れろ」


 後悔ばっかりだ。

 なんでこんなに、自分がイヤになることばっか起こしちゃうんだろう?


「ナガマサぁ」

「オマエな。後悔してるってカオ、してんじゃねぇよ」


 ギュッと握ってた手を引き寄せられ、彼の胸の中に飛び込んだわたし。汗のにおい。でもキライじゃない。むしろ、ずっとこうしてたい。


「ごめんなさい」

「だから、謝んなって。さ、戻るぞ。小谷に」

「うん」


 ……よくよく考えてみれば、キエモンさんとクーが見守る中、墓地のまんなかでわたしたちは、互いの心を確かめ合っていた。自分たちだけの世界をつくって。


 あー。




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