06話 義元討ち取っただと、何てことしやがるっ
善照寺砦を経て、中島砦に至ったボクら織田軍五千は急停止し、そのまま途方に暮れていた。家来らの手前、救援するぜと豪語していた丸根砦や鷲津砦がとっくの昔に陥ちていたからではなく、桶狭間とかいう土地が周囲から丸見えの場所だったのである。
「へぇ、そうか。桶狭間って言うから窪地と思ったけど、そうじゃなくって山だったんだ」
要するにうかつに近づくと火傷する。どころか死亡さえしてしまう危険行為だと判明したためである。
ただ例によってボクとしてはそこを敢えてゴリ押しし、中央突破で綺麗に玉砕! が「いいね!」って感じを狙ってんだけどな。
ヤツらは桶狭間山を起点に陣を張り四方を囲みながら休憩している。おいおい余裕だねぇ。
「旦那。いかがいたしましたょう」
「我らの動きは敵に丸見え。奇襲も何もあったものではございません」
「てか、大高城に入った松平元康が妙におとなしくしているのも気になるでござる!」
どーでもいーよ。面倒くさいよお前らの悩み話は。とにかく前進あるのみだろ。けれども相手に警戒心は与えちゃならぬ。だって可能な限り本陣に近付いてパーッと華々しく、見事な散り際を演出したいからなぁ、ボクはな!
「てか、こそこそ裏から忍び寄り、隙を突く。超卑怯な作戦! それしかござらぬでしょう」
「林。お前来てたの? ウザイよ」
「ひいーっ。冷たいお言葉。てか、泣けてきます。せっかく良いアイディアだと思って進言したのに。あんまりです」
「それ! それだよ、その言葉っ! 《アイディア》ってナニ?! お前、戦国時代の人でしょうが。だったららしくしろよ、らしくよ!」
「ひーん。てか、旦那がいじめるシー」
あーうっとおしい。
「旦那っ。ご注進ですっ」
「藤吉郎か。なんだ?」
「サイコーのビュースポットが見つかりましたですよー。キキッ。敵の大将のカオが丸わかり。ププ」
「なんだよ? なんでそんなに笑ってんだ?」
「いやー。敵の大将、今川義元さん。すんごいお化粧だったんですよー。見てくださいよー」
「どれどれ」
え? 義元って女か? 藤吉郎が撮った写真を見た。
「うえっ、ナニコレ、どうしたの彼? メッチャ目立ちたがり屋、この暑いのに」
「どれどれ、わたくしにも。え? てか、別に普通ですが、何か?」
「炎天下なのに化粧でカオ真っ白だよ? じゃなくってさ、オマエもっと写真自体を見て驚けよっ? 何度も言うがYOUは戦国人なんだろーが!」
「てか、コイツは白粉にお歯黒と申しましてな、京かぶれしたシャレオツな連中の間で超ブレイク中のファッションなんですわ」
「分かっとるわっ! 前に会ったことがある足利将軍も真っ白だったし。じゃなくてボクが言いたいのは、こんな面白いヤツに負けちゃう悲惨さがたまらないって言ってんだよ! っていちいち説明さすな」
「てか今川殿は京の文化に通じた風流人。インスタ映えしてるのはそのせいですな」
いいからもう……。もうオマエ、明日から令和人になれや。あ、平成くらいかな、昭和でもいいや。
「信長旦那」
「今度はなんだ?」
「服部小平太と毛利新介がワーワー喚きながら敵陣に突っ込んでいきました」
「誰だソイツら? なんで突然暴走しちゃったの?」
「厚化粧のオッサンを倒したら、嬉しいご褒美がもらえちゃうゲームが始まったとかデマが流れて。それで」
藤吉郎が指差した先にドローンが飛んでいた。市が内蔵したスピーカーから可愛い声を発していた。
『さぁ。《死にたい奴らは前に出ろゲームう!》 っスタートぉ。ハデに暴れた人には、わたしから素敵なご褒美あっげちゃうよー』
「うおおおっ!」
自軍から、地鳴りに似た喚声が上がった。
「てーか! バカな二人に後れを取るな、褒美を得るのはワシらじゃあ! 続けぇ!」
「おおおうっっ!」
「な、な、な、な、ちょー……」
藤吉郎が興奮して飛び跳ねる。
「ま、けどこれで今川の大軍に蹴散らされて、見事な全滅劇が撮れますよー。ウキウキッ」
織田の突撃に合わせ、突如雷雨が起こった。局地的な突風も吹き出した。今川軍は最初織田の攻撃よりも雨風を凌ぐ方に懸命になっていた。
で、それがヤツらの命取りに……。
あ、義元さん討ち取られてしもた〜〜……。