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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第四章 兄妹乖離(歴史物じゃねぇの?)

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54話 兄も、妹も。⑦ 衝撃

 ― 兄・信長 ―



 電話が切れた。

 ボクの頭は混乱していた。


 「市。オマエ、どうしてボクの前からいなくなった? イカスルメルに帰ったんじゃなかったのか? どうして連絡してこなかった? どうしてだ? なんでなんだ?」


 矢継ぎ早に浮かぶ疑問、そして疑念。

 どうして浅井長政のところにいるのか。なぜ、長政(ヤツ)は黙っていたのか。


「ふたりは一緒に居た。結婚するとか言ってやがった」


 ああ。ふたりして、ボクを騙していたのか。


「殿。いかがしました? えらく長く頑張ってましたね?」

「いや。トイレじゃない」

「あ、それじゃあ陣中でいかがわしい行為など? いい加減になさってください」


 本陣に戻ると、丹羽くんが相変わらずの調子でボクにツッコミを入れて来た。ボクは無言で床几に腰掛けた。


「……。何かありましたか?」

「……いやなんでもない」

「この先、木ノ芽峠を超えると、朝倉方が性根を据えて反撃を開始するでしょう。こちらも心して掛かりませんと」

「あーそうだな」

「殿、やはり何かありましたね? 何か言いたそうな、うっとおしいカオですので直ぐに判ります。全て白状してください」

「丹羽くんさ、ごめんなんだけど、ちょっと気が動転してんだよ。まともな返しができないよ」

「いつもの調子はどうしたんですか? はっきりズバズバ言ってくださいよ? 逆にこっちが調子狂ってイライラしますんで」


 それもそーか。そーだよな。


「じゃあ、言うとしよう。……実は今、浅井長政としゃべってた。『朝倉攻めを止めろ』とよ。まあ、そう言われりぁ、そりゃそうだ。浅井と朝倉は親友(ともだち)同士だからな。親友がやられそうになってんのに、見捨てるヤツぁなんていないわな?」

「それで、浅井は結局なんと?」

「挟み撃ちにするってな、通告してきやがった」

「へぇ」

「へえって丹羽くん、なんだよそれ? えらくカンタンに流すじゃねーか」

「いやー。そういうことって今まで散々ありましたよね? 逆に殿、そういう状況って、メッチャ喜んでましたよね? だから変だなぁと。そう思っただけですよ。――というコトで、他にも何か気がかりがあるんでしょ? むしろ、そっちの方が自分の中でウエイト高いんでしょ? どうぞお気遣いなく洗いざらいぶっちゃけてください。給料分の助言くらいはしようと思いますんで。……さ、どーぞ?」


 ジョークのつもりで軽口叩いてんだろうが到底それをジョークと捉えるゆとりなんて無く。でも、それでも丹羽くんの心遣いは伝わった。とても話しやすくなった。ジンと心に染みた。


「お市がな、妹がな、……裏切りやがった。妹はイカスルメル星になんて、帰ってなかったんだ。浅井長政の根城に転がり込んでやがったんだ。しかもナガマサのヤツ、ずっとそのことを黙っていやがったんだぜ? それに、妹もな。要はボクは、あいつらに裏切られたんだ」


 それを聞いた丹羽くんは至って冷静だった。


「それでそう思った殿自身は、どう対応するおつもりで?」

「え? ボク自身?」


 ボクは本陣をぐるりと見渡した。柴田勝家(かついえ)滝川一益(いっちゃん)明智光秀(みっちゃん)松永弾正(ダンジョー)、他にも織田攻撃軍の主力メンバーたちが本陣に集まりつつあった。

 ボクと丹羽くんのやり取りに、ただならぬ気配を感じた秀吉(サル)が、緊急召集をかけたようだ。

 一呼吸置いた丹羽くんが言った。


「あらためて苦言を申しますが、今は戦時下(ぎょうむちゅう)です。ここにいる全員、従軍している将兵たちはみな、殿に命を預けております。なにとぞ、的確なご采配を」

「あー……」


 多分、平常のボクなら、説教など意に介さず、ふてぶてしく笑ってから、ここに居並ぶダレか、例えば光秀(みっちゃん)あたりを名指しし、かるーく何らかのハラスメント行為をはたらいて、その反応見てさらにおちょくって、それから、何の前触れもなくお手盛りの采配をふるってムチャ無謀な指示を与えて、自ら先頭に立って行動開始するんだろうがな。

今日ばかりは弱々しく、「ちょっと考えさせて」と断ってから、幔幕をくぐって外に出ようとした。一同、アゼンとしたのは同じだったかもしれないが。


「なんですって? よく聞こえませーん。もっかい指示してくださーい」


 背後で丹羽くんのからかい。わざと軽口で。

 でもボクは、


「すまん。ボクの勘違いかもしれんし、もう少し時間時間をくれ」


 マジメに返した。


「……殿」

「すまん 」


 秀吉がついてこようとしたが、独りになりたかったので、振り向きざまに数発、パンチを繰り出した。ヒョイヒョイとそれをかわしたサルは、ボクと目を合わせてから、まばたきをし、ゆっくりとお辞儀した。そして何も言わずに引き下がった。



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