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【完結御礼】新説信長公記! ― シスコンお兄ちゃんが大好きなんだけど、モテすぎだしハラスメントな信長さまだから、織田家滅亡のお手伝いをするね! ―  作者: 香坂くら
第四章 兄妹乖離(歴史物じゃねぇの?)

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52話 兄も、妹も。⑤ 長政の決意

 妹・お市


「織田信長が越前朝倉征伐を決めた。内々に《合流せよ》と連絡があったのだ」

「京に集結した織田、徳川連合軍は、現在敦賀に向け出撃したところです。名目は若狭の豪族を始末するとのことですが、実際は、越前表、朝倉領内への侵攻が狙いです」

「な、なんでお兄ちゃん、……信長は、そんなに積極的に侵略戦争なんてしてるのっ?」


 ナガマサと半兵衛ちゃんに食ってかかるわたし。不幸は不幸しか生まない。不幸より幸せの方が嬉しいし楽しいに決まってる。そんな当たり前、お兄ちゃんだってとっくに気付いてるはずでしょ?!


「……信長は朝倉攻めの前に、オレに詫びを入れて来た。《手前勝手な振舞いをしてスマン》と。……だが、浅井家と朝倉家の友好は長年続いていて、深い縁で結ばれている。それを知っての詫びってワケだ。詫びりゃあいいってものじゃねぇだろ? オレは迷っている。ヤツは本当に、どうしようもなく手前勝手だぜ。ちくしょう」


 キエモンさんは、仁王さんみたいなしかめ面で腕組みしたまま。ナガマサの横顔をジッと見詰めてる。わたしもそれに倣ったワケじゃないけども、半兵衛ちゃんとクー、そしてモンモンを眺めてみた。とても奇妙な心持がした。


「……なんだかフシギだね。浅井家の大事な密談に、織田の娘とその仲間たちが交じってるなんて?」


 感じたままに口に出した。

 でも、そのセリフはその場の全員にムシされた。あまりに軽はずみな言い方だったから?

 ……そりゃ、だよね。でもキエモンさんがわたしの心情を察してか、律儀に応えてくれた。


大殿(ひさまさ)さまは、六角の手の者と繋がっています。また、すでに朝倉家に早馬を飛ばした頃でしょう。すべては朝倉家を擁護せんがため。更に申せば、あのお方は初めから織田と結ぶ気はござらんかった」

「まぁ……な。だが父とは逆に、遠藤(きえもん)は、かねてより織田家の前途を有望視しておったな? やはりオマエは織田に味方するか?」

「何をバカな申しようでござるか。ワシは浅井家の家臣であって、織田家の家臣ではござらぬ。ただただ浅井家のために想い、尽くすだけ。それだけの事」


 ナガマサは泣いたように笑ってポツリ、「浅慮だった。スマン」。


「市。今夜から万福丸とともにオレの屋敷に住め。これは命令だぞ?」

「うーん。……半兵衛ちゃん。さっきさ、信長が《出陣命令》って言ったよね? ……要請じゃなくって命令なの?」

「え、ええ。命令、です。浅井家に対して」


 ふーん。命令、ね。


「……どいつもコイツも。ホントにオトコってヤツは、みーんな手前勝手だね。そんなんでいーのかなぁ? ずいぶんエラそうだ」


 わたしの嘆きにクーが同調した。


「少なくとも浅井家もお市さまも、《命令者のしもべ》じゃないんですから。聞く耳もつ必要ないですね。それがくだらないと思える命令なら」


 わたしとナガマサは同時に苦笑した。


「下らぬ命令か」

「ナガマサはどーなの? 信長の命令、聞くの?」

「オレは。……織田信長に従おうと思う」


 きっぱり言い切った。

 キエモンさんが低く唸るように問う。


「念押しでござる。つまり、織田に降る、と?」

「違う。市と一緒に居たいだけだ。一緒に居るための選択だ。そのためなら何でもする!」

「朝倉を見捨てると?」

「それも、違う! 織田の進軍を止めた後、信長に与するよう朝倉を説得する。浅井、朝倉は織田と共にこれからも生き延びる」

「……ひいては市殿のために?」

「そうだ! 悪いか?」


 わたし以外、みんな、「は?」っていうカオをした。モンモンなんかは「はあっ?」と聞えよがしに小バカにする声を出した。

 わたしは……どんな顔つきをしたのか想像したくない。

 半兵衛ちゃんがボソッと、「まるで中学生男子みたい」と失言を漏らすと、クーも同調して「それでも戦国武将かしら」と放言した。

 けれども当の本人はひたすら赤面し、天井を仰いでいる。……ナガマサ、あのね。ハズいならしゃべんないで!


「……殿のご意向はとくと承知しました。……ただ」

「ああ。オレが父を説得する」

「難しいと存じますぞ?」


 うーんと考え込んだナガマサ、けれどカラっと破顔して、


「あれでもオレの父だ。オレらは親子だ。腹を割って話す」


 ドタドタと部屋を出ようとする。ツイと振り返り、


「市、分かったな? オレの屋敷で待ってろよ?」

「……さっさと行きなよっ」


 やや猫背になったナガマサは、廊下の暗がりに消えていった。


「半兵衛殿ら。この後いかがなさる?」

「わたしたちはお市さまを守るよう密命を受けた身。お供いたします」

「……では頼みますぞ。それがしは殿を追い、大殿の説得に加わります」


 キエモンさんの背を止める。


「キエモンさん。……どうか」

「承知しております。殿の事はお任せくだされ。では」


 尻切れトンボの言い方しかできない自分がもどかしい。キエモンさんの優しさにホッとした。


「では参りましょう。ここにこれ以上の長居は危険です」


 半兵衛ちゃんらに伴われ、わたしは万福丸を連れて住み慣れた下屋敷を後にした。夜道、目に入る清水谷の町は、いままでの穏やかな日常となんら変わらなかった。

 先導の提灯明かりが、この先の未来も、ずっと照らし続けてくれる気がした。

 暗がりの先から、お兄ちゃんとナガマサが肩を組んで現れそうな、そんなノーテンキで、夢心地の期待が浮かんで仕方なかった。


「泣かないでください。市さま」

「ごめん」


 そして。

 そのまま、ナガマサは朝になっても屋敷に帰ってこなかった。



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