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05話 桶狭間前夜の漫談

「よおーし! オマエらがそこまで言うんならボクも覚悟を決めた! 城と討ち死にするくらいなら、いっそ華々しく玉砕した方がマシ、そーゆーことだなっ!」


 家臣一同を睨みつける。


「あ、い、いや……。そこまでは申しておりません、というか、その……」

「人生最後のダンスも踊ったし、ボクももう思い残すことは何もない」

「信長旦那っ。今日はもう寝るのではなかったですか?」

「何を言ってる! 今から全員で突撃だーっ!」


 部屋を飛び出し、廊下を駆け、馬小屋を目指す。玄関先で藤吉郎に出くわした。


「ご乱心の旦那っ、馬はこれに!」

「まずは草履だろっ! 気の利かない猿だなっ! 行くぞ!」

「はっ。キキっ」


 ヒョイと器用に馬の背に飛び乗ってくる。


 ボクと猿一匹は弾丸のように清須の城から弾け出た。頭上に(いち)が遠隔操作で飛ばすドローンが従っている。サービスで手を振ってやった。だいぶ走ってから後ろを振り返るとアタフタした様子で家臣共がボクたちを追いかけている。みんなヨレヨレの格好だ。鎧が間に合わずに担いでいる者はまだマシな方で、寝間着のまま走っているヤツさえいる。


 愉快だ。笑え笑えっ。そういうボクだってジャージ姿だぜっ!


「ウッキー旦那、今度こそ成功しますかね?」

「そりゃ間違いないさっ。士気ガタ落ち、少人数、武器だって不ぞろい。勝てる要素ゼロだろーが」

「そろそろ新シリーズおっぱじめないと視聴者は離れ始めてますからねー。そりゃこんな僻地の星、ただでさえ興味無いんですから、母星のやつら」

「念のため神頼みしとこう。適当にあの神社でいーや」


 馬を付けポケットをまさぐった。


「あ。小銭忘れた。賽銭が無い」

「しょーが無いですねぇ、旦那は。衝動的に飛び出すからですよ。ちゃんと計画性をもって行動しないとまた失敗しますよ」

「ウルサイなぁ。いいよ、家臣に金借りるし」


 だけども待ったら待ったでイライラした。徐々に追いついてくる家来どもの誰もお金を持ってないのだ。オマエらいい加減にしろ!

 ようやくおっとり刀で最後に到着した丹羽がわずかにお金を持っていた。出かける前の常識だとかなんだとか嫌味な話を片耳で聞きつつ彼から小銭を分捕ると、賽銭箱に投入。どうにか願いを神様に伝えられた。


「さ。帰るか」

「何しに来たんですかぁ」

「忘れた。朝めし食べに来たんだっけか? ウソだよ、ちゃんと覚えてるよ。ここの巫女さんに会いに来たんだよ。……ごめん冗談だよ」


 さて。マジメな話どーすっか。


「せっかくですから今川の本陣でも見学に行きますか?」

「うーん。ま、それも一興だな。おい丹羽、ここからどのくらい掛かる? 敵の陣地まで」

「はあ、ここ熱田から大高まででしたら一刻もあれば」


 やや面倒くさい距離ではあるが遠足がてら行くのも別に構わない。このあたりで織田軍を終焉させるのもいいけど、もう少し華々しさも演出しなきゃだし。


「旦那っ。わたしのマブダチが面白がって今川義元(てき)の追っかけをしてますが、どーも大高じゃなくって桶狭間村の方角に方向転換したらしいっす。そっちに行ったら会えますよ」

「へえじゃあ最期にご尊顔を拝んでから突撃かまして行っちゃうか。藤吉郎、悪いけどさ。先に行って本陣覗ける絶好のビュースポット見つけといて」

「あいあいさー。キキキイッ」


 置かれた状況がいまいちまだよく呑み込めずに諦めきったカオをしている家来たちに振り返る。


「安心しろ。お前たちの花道は用意している。ボクを信じて付いて来い。みなで散り行こう」


 林が代表して聞いた。みな同じ気持ちなのだろう。


「てか信長旦那。もはや死ぬ気で相手に挑むつもりで?」

「そりゃそーだろう、勝てるわけね―ジャン。おまえらどういうつもりでここまで追いかけて来たの? 作戦なんてないよ。それとも逃げるなら今からでも間に合うよ?」


 一同、どよめく。そりゃそーだろ。死にたく無いヤツにはもう少し早く言っといてやるべきだった。


「んじゃ、ボクもう行くわ。じゃあな」

「と、殿ォ!!」



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