45話 兄も、妹も。① 心変わり
―信長サイド―
多忙だ。まったく多忙だ。
充実しすぎている。
これってホントウにボクの人生なのか? ボクは本当にボクなのか? まるでキャラが違うって。こんなに一生懸命働いてるなんてよ。イカスルメル星から日本に遊びにやって来た頃には想像もつかない、いまのボク。
伊勢から帰還した滝川一益の報告を受けたボクは、岐阜城渡り廊下で久々にサルに会った。
「信長旦那ぁ!」
「おおう、秀吉! 寧々ちゃんは元気か?」
「へいっ、おかげさまで! アイツ疲れ知らずでこっちがヘトヘトにされちまいますっキー!」
「……オイ! 誤解を招きかねない発言には注意しろよ? いっつも尻を叩かれてるってコトだな?」
「はぁ? そーゆーコトでござりますが? 拙者なんかヤベー発言しやしたか? ……へへっ、最近は弟と二人掛かりでホイホイ励んでおりやすぜ!」
……ボクがイカンのか、コイツの言い方がイカンのか。……まぁいいや。
「来客みたいでな、もうちっとゆっくり話できりゃあいいんだが。とにかくオマエ、近頃ますますエラくなってるよーだから、くれぐれも増長するなよ? 寧々ちゃんにもヨロシクな?」
「キキッ! そっくりそのまま旦那にも今の言葉、お返ししつつ、かしこまってござる! では、再び京にとんぼ帰りするでござります! あしからず」
――秀吉には半兵衛ちゃんを通じて、密命を昨晩の内に伝えてたのだ。
足利義昭が妙な動きをしてるよって情報をくれたものから。かたっぱしから、ヤツ発信の通信物を押さえろって命じた。
せっかく京周辺が平和になったってのに、わざわざそれを打ち壊すことをしようとしてんだから、ナニ考えてんだか分からんぜ、ったく。
◇ ◇ ◇
「やっほー。ミショーくん、じゃなかった信長くーん。おひさー。元気にしてたー?」
「あ。客っていうからダレかと思ったら、イカスルメルのプロデューサーさんか。いったいどーしたんです?」
禿げ頭にカツラ置き、メガネオネエでデップリ中年のプロデューサーは、オーバーリアクションでグイグイ首を振った。
「いや、いや、いやー。ダメよぉ信長ちゃん。あなたの動画、ここのところさぁ、ドッサイテー街道まっしぐらなのよぉ?」
「どーゆーコトっす?」
「どういうコトって、そりゃあなた。……あ、そーか、あなた、ゼンゼン自分の投稿を確認してないでしょ?」
「……はぁ」
してねぇよ。
と言いますか、全オートで撮影・配信してっから、無関心の域にまで達しちゃってるし。もう辞めちゃってもいーし。そもそもアンタ、そっちから契約打ち切って来たっしょ?
イラっとしながら、わざとらしく時計をチラ見する。
でもさすが敏腕剛腕男。これっぽっちも気にする様子もない。
「例の人工知能未来予想ロボ、コペルくんもね、あなたの行動を随分警戒してるわけなのよ」
「へー。ソウナンデスカー」
「ホーホー、この子まったく興味もヤル気もないってカオね。まぁいいわ。ちょっとでもホンキで矯正して欲しいから、今日は特別にゲストを連れて来たの。どーぞー入ってぇ」
入ってーって、ここはボクんちなのだから、そのセリフはボクが言うべきじゃないかなぁ。
「よ。信長よォ。ずいぶん挨拶くれてないなぁ」
「あっ! スケルトンカセット師匠!」
「おいおい。武田信玄さまと呼べい」
「ワハハハ。何、その獅子舞みたいな被り物? お祭り帰りなの? ウケすぎなんだけど?」
「カッコよくない?」
「……いや、ちっとも」
相変わらずの師匠。なんでボクはこんなのを師匠と呼んでいるんだろうか? 過去の黒歴史を真っ白にしたいと心から思ったよ。
だがコイツはコイツでどーもボクのコトがキライのようだ、挙止挙動がとにかく反抗的だ。お互い同じだろう。まるで鏡だ。
「オマエさ、不幸になりたいんだよな? 織田家を滅ぼしたいんだったよな? 何回も叫んでたよなぁ? 一時オレも力を貸してあげたりしたっけなぁ」
「あ? けど、今はそんな気ねーよ」
「そりゃ困るわよーっ、あなたの売りは《人生の不幸を体現すること》。イカスルメルの人たちはそれを期待してるのよー?」
「だったらボク、もうウーチューバー辞めます」
ええって悲鳴をあげてプロデューサーがしがみついた。こっ、こら、中年が伝染る! 離れろっ!
「そんなコト、今更言わないでよォ! 契約違反よぉ」
「……ボクはもう不幸を目指すのは止めたんです。妻ができ、子供もできた。そして、こんなボクなのに慕って付いてきてくれる家臣たちもいる。そんな人たちのためにも、ボクは自分が幸せになり、みんなも幸せにしたいって思い始めたんです。なんかイカスルメル星にいた時の自分がおかしかったのかなぁって感じ始めたんです」
「は?」
「妻や子や家臣、民たちを幸せにしたいんですよ」
こっぱずかしいコト言わせんなよ、アンタら。それに契約なんて、もうとっくにしてねぇじゃねーか! 何回も繰り返すな。
そしたら、とつぜん師匠が大笑いを始めた。




