44話 番外 雑賀の荘 その二
実際、この同人誌は前のように、特定の人物や団体をPRしたものではなかった。
タイトルの「サイカのトビラ」の《サイカ》は、雑賀荘の事であり、現在の和歌山県和歌山市にある紀ノ川の下流域に実在した惣村群を指していて、これが明智の光秀の自叙伝という形で紹介されていた。彼女は実際に自分の足で《雑賀荘》を訪ね、その入口を叩いてみたんですというイミがタイトルに込められているそうだ。
帰蝶が物知り顔で解説してくれたが、「おいおい真面目過ぎやしないか?」と心配になったぜ。何といっても当作品はテキトーがモットーだからな。
内容を語ろう。まずは第一巻。
主人公の《わたし》。明智光秀のことな。
彼女が朝倉家に仕え、田地開発や座の管理などの内政に勤しむ毎日が淡々と描かれている。
そんな中、朝倉家の本拠、一乗谷に入ってくる積荷の中から《鉄砲》を発見したわたしは、規則に照らし通関検査のため一時預かりしたたものの、実は自分自身が鉄砲についてほとんど知識が無かったことに気付く。そして検査後、荷受け人にいろいろ話を聞くことが出来たというものだった。
そのときにあらためて「雑賀荘」の存在を知り、彼らから鉄砲演武を披露してもらえたことで激しい衝撃を受けたという。「わたしの決意は固まった」などと仰々しいポーズで天を仰いだ主人公が、見開きいっぱいに描かれていた。
だが、朝倉義景に現地視察を願い出るものの、何度も却下される。ついにわたしは辞職覚悟で辞職願を出し、とうとう許可してもらえたのであった。
へー。若さだなぁ。と、このあたりは素直に感心できた。
で、次の章でいきなり雑賀荘に着いちゃってる!?
早っ!!
紀州って……んー、和歌山だから堺よりは南だよな。まあ、この時代だから舟でも使ってささっと行ったんだろうなーと、作者に好意的に解釈する。
……で、出迎えの細マッチョな色男とご対面。名刺交換とともに朝倉の殿に書いてもらった紹介状を渡して丁寧なあいさつを交わす。
「鈴木重秀と申します。ちなみに独身です!」
わざわざ独身だと自己PRするこの男。はっきし言ってメチャメチャ男前に描かれている。ボクの変顔キャラと大違いだ……。
だが、この、《わたし》のアップのコマ、モノローグには「独身? フーン」としかセリフがない。まさかのイケメンスルーか!
そしてなんと次のコマではもう師匠ン家。
恋展開ではなかった! 正直肩透かしだと思いきや、次もイケメン師匠とやらが登場。
うん? だが、その彼の初登場セリフは、
「土橋守重だにょん」
さっきの鈴木くんとはまた違うタイプのイケメン、だけど、こっちは変人の部類にくくられている。「だにょん」って、なんだ? 本人が実際に発言したのか? 印刷ミスか? 分からん。
バストアップ絵では、目つきがドぎつい。ボク並みにひどい扱いだ。
「愉快じゃろ? ワシぁ、世の中の広さをあらためて悟ったぞ」
「んーはぁ、そーかな? 流れは地味ながら絵とコマ割りでグイグイ読ませるな、とは思うが?」
「オマエ、根っからのクールガイじゃなぁ。もっと行間を読め。作者の奥深い心情が伝わってくるじゃろう?」
「はぁ? オマエこそ、もうちっと戦国人らしい言葉遣いしろよ、エラソーに」
「むふふ。お互いさまじゃ!」
ここで、一巻が終了。二巻はうって変わって、鉄砲のうんちくで多くのページを費やしている。マニアック度が高くて、つまり字が多くって、まーまー読破が苦痛。
それと、雑賀ノ荘が五つ有るとかで、それらの郷についても、詳しく併記されている。
そんな折り、物語の中で、ある日数人の子供達が荘に連れられてきた。
下は六歳くらいから上は十五歳くらいと幅広い。みな一様に薄汚い身なりをしている。
土橋師匠は彼らをひとりひとり顔付きや様相を吟味し、そのうちの二、三人の手を引っ張った。「この子らはオレが担当するっぺ」とまた、奇妙な語尻をつけたセリフを吐いた。
「守重さん。この男の子たちはいったいどういう子なのですか?」
土橋師匠は、堅苦しさを嫌い弟子にも師匠とは呼ばせず、下の名前で呼ばせていた。
「この子は戦争孤児さ。オレ達は半農だがそれだけでは食っていけねー。だから、ここの村に連れて来て傭兵か武器商人に育てるのさ。オレはこの三人をいっぱしの傭兵に仕立てる担当さにょん」
「はぁ」
「ナットクいかなってか? そりゃそーか。子供に武器の扱いを教えるってのは、非人道的だってなー。だがな、実際こいつが戦国を生き延びるには相応の力がいるだろう? オレらならこいつらに力を与え傭兵にしてやれる。生きる糧を得る術を教えてやれる。教えて叩き込んでやるのは、オレたちの役目であり義務なのさっぴょん」
……はっきりと理解した。語尾はわざとだ。マジメなセリフであればあるほど、「わざと」ケツにヘンな言葉を付けてやがる。……うう、そんなキモイセンスに妙な快感を覚えるのはナゼだ?
主人公の《わたし》は、目からウロコを落としまくっている。それを案外リアルに描写してるから、おえっとえずいた。
「……キミ、お名前は?」
三人の中では一番年長さんの少年に、優しい口調でわたしが尋ねる。だが緊張のためか、答えないので肩に手を置き、さらに腰に手を回し、ついにはカオをそばに唇を近づけ……。お、お? どーゆーシチュだ? 次のページが気になるぞ、いろんなイミで。
少年が不安を滲ませながら、やっと口を開く。
「……牧」
「牧くん……ね?」
ん? このガキ、なんか見たことあんぞ?
えーと。
はっ!
思い出した。足利将軍と宴会した時に、座興で鉄砲ブッ放しやがった……! ははあ、あのガキかよ!! あの、ボクの顔の横スレスレに弾丸かましやがったヤツ!! 今でもよっく覚えてるぜ。
ややもすると思い出し怒りがこみあげてきそうだ。
しかも今度はジャ〇ーズJr.の登場だぞ!? どんだけ幅広にイケメン揃えりゃ気が済むんだ? やや引き気味にページをめくる。
すると、修練のシーンがぶつ切りで描かれ、「そして十カ月後」という文字で決着してしまった。一生懸命努力するシーンなど、どーでもいいんだな。牧少年は種子島長筒、《わたし》は短筒を習得したと言い切ってるし。マンガってのは便利なもんだなぁ。でも確かに実際も相当な腕前に上達してたか。
ところで牧少年以外の子供はどこ行った? ……あ、背景のにチラッと描かれてる。あーつまり、モブっちゃったかぁ。
「それでは本日、習得度を測るための最終試験を行う。三人ずつ実戦形式の演習を行うのだ」
……というところで、二巻が終わる。
次が最終巻のようだ。




