43話 番外 雑賀ノ荘 その一
今回は番外ってことで、雑賀ノ荘にまつわるお話だ。雑賀荘とは言っても、アパートではないらしいからな、気をつけろ。……ってボクはダレに言ってんだ?
◇ ◇
さて先日、京から帰って自室に戻ってみると、ロリババアこと、帰蝶がマンガ本を読みふけっていた。
かたわらにはセンベエとかアメ玉、それと、フルーツを大量に潰しまくった超ぜいたくジュースを飲みさした天目茶碗が乱雑に置かれていた。てんめえ、人の部屋をすっかり自室化してやがるな。
「おい、ボクの部屋でナニしてる。……ああ?」
「ふげっ!」
とりあえず、寝転がっていた帰蝶の背中をグリグリ踏みつけながら、丁寧に教育を与える。そして彼女が手にしていた本を奪い取った。見覚えあんぞ、コレ?
「こんな本、読んでんじゃねぇぞ、コラ」
「いや、これは前のとは違うんだぞっ! 今回はおまえさんは登場しとらんよ!」
「えっ?」
「こらぁ! さっさと返さんかっ! 踏んづけるなっ! 足のけろっ! 本返せっ! ふわーん!」
……しげしげと確認する。ほほう。確かに違ってるな。絵のタッチからして作者は明智のみっちゃんなんだが、内容はてんで別の物。
「なんてタイトルだ? ええと……」
「サイカの扉、じゃあ! えーん」
帰蝶、今日は特に幼児化を促進させやがって、この、可愛さ倍増ババアめ。だが、容赦せん! 人の部屋を荒らしたバツだ。
「もうちっとちゃんと説明しろ。このっ、このっ」
「ふぎっ。ふぎっ。こ、これは前に読んだ本より、もっと前に書かれたもんじゃて」
「はーん?」
奥付を見る。
「フーン。ボクが上洛する二年前か、みっちゃんが朝倉家に居た頃か。あの女、圧倒的に暇だったんだな」
描く時間があり余ってたんだろ。じゅうぶん納得できた。
「そういや、みっちゃんと帰蝶は知り合いだったっけ?」
「というか親戚じゃな。もっと言えば元ワシの部下じゃな」
ゴロゴロと板敷を転がってボクの足から逃れた帰蝶はフウと息を吐いた。
「いたいけな幼女をもっと大切にしろ。しかもワシは正室じゃろ?」
「ロリを正室にしているのか? ボクは?」
「事実なんじゃからしょーがなかろう」
ボクは帰蝶の横にあぐらをかき、同人誌を広げた。
「ん? 三巻? この本シリーズ化してんのかよ」
しかも実はこの本、ペラく無い。それなりに厚みがある。
「はーっ。よぉーっぽど、ヒマだったんだなぁ!」
これにはロリも同意を示しうなづいた後、
「こないだの号外とは違って、クオリティがさらに高い。絵もさることながらストーリー自体もな」
クオリティとかストーリーとか戦国期には不適切と思われる単語がバンバン出るあたり、ツッコみを入れるべきなんだろうが、どーせ今更だ。それよりボクも、ほんのわずかだが久々にマンガ本、じゃなくって歴史書! の勉強がしたくなった。同人誌ではないぞ、歴史書だ。
ボクは登場してないらしいしな。
「さぁ最初のページからじゃ」
「おっ!! 上手いなっ」
スゴい、スゴいぞっ。まず第一に絵のレベルが格段に違うぞ!! 芸術的なまでに細密な絵、繊細な線で丁寧に描かれた着物衣装のデザインもベリーナイス!
ん? 変なキャラがいるぞ?
「ぬらりひょんが出て来たぞ」
「朝倉義景じゃ」
朝倉義景?
あー、えーと確か北陸の、山代温泉……山中温泉の方か? 羨ましい大名の。
「どーゆー覚え方しとるんじゃ! ま、ワシも似たような覚え方じゃが」
「にしても、可哀そうな描かれ方だな? 必ずヘンな容貌のキャラクターがひとりは出て来るが、これってみっちゃんの趣味なのかな?」
「いいや。写真みたいに本人そっくりじゃ。ほれ!」
――旅館一乗谷と書かれたチラシに《わたしがオーナーです》と書かれた朝倉本人の顔写真が載っていた。
「ソックリだー!」
体中の血が逆流した感があった。
「絵など良い! それよりも、中身も見よ!」
「へいへーい」
ロリに促され、読みふけりだした。
時刻、夜の十時前。やや眠いが、もうちょっとだけロリに付き合ってやるか。




