04話 木下藤吉郎は本当にサルだったんだよ
「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ」
「なんだ市?」
「織田家のエライさんたちが信長の悪口ゆってるよ?」
それは聞き捨てならん。そんなヤツらは斬り捨ててしまえ。……いやいや、冗談だからね? 良い子のみんなはマネしないでね?
市に手を引かれ、その部屋の脇まで来た。確かに家来たちはケンケンゴウゴウ悪口も交え、一向に答えの出ない会議を続けている。しかも僕の部屋の隣で。
「いいぞいいぞ。滅亡寸前の王朝みたいだ。指揮ダダ下がり。大いに結構」
「キキ。それではワシがとどめを刺してキヤショウ」
「おお、藤吉郎、そこにいたか。頼む」
僕はとにかくいい加減、この織田家をつぶしたい。殿様ゴッコは飽き飽きだ。
猿の藤吉郎は天井裏に跳ね上がり、そこから部屋の反対側に回った。僕は市とともにもう少し家臣らの観察を続けることにした。
「で、どーしますか」
「信長旦那は奥に引きこもったまま。いったい何を考えているのやら」
「てか、貴殿から旦那にガツンと申せば良い。『オマエ、何すっとぼけて寝てるんだよ。いーかげんに目を覚まして仕事しろよ、バーカ』って」
「いやはや。その役目は非常に大事。それこそ筆頭家老である林殿の役目。『ガキのクセして隣国の美人幼女にモテテんじゃねーぞ、バーカ』って、はっきり申し上げるべきじゃ」
「あ。てか、そのセリフはしっかり者の佐久間殿に譲る」
「いやいや」
「てか、いやいや」
「『どーぞどーぞ』のくだりはいらぬわ! それよりも今川の超大軍をどのように全滅させるのか? 観客を喜ばせるのか! それが重要ではないのか、この軟弱者らめっ」
「ぜ、全滅……、大きく出たな」
「出らいでか! 何事も大風呂敷がモットーよ!」
「頭のオカシイ類の意見は放っておけ。……てか、オマエ誰?」
「キキキ、ワシか? ワシは木下藤吉郎でござる」
「……なんじゃ、ただの猿じゃ」
「おお。猿じゃな ……てか、猿?!」
「猿ではないか!」
「自分でキキキとか言ってるし。てか、名前名乗ってるし。てか、しゃべってるし!!」
藤吉郎をグルリと囲んだ家老衆は、一斉に腰に手をやった。(※注意 腰に手をやっただけだから。暴力は働きません)
「今はどのように今川軍を全滅させるかを話し合うべきじゃろう。キキキ、クカカ。それにワシは信長旦那の一番のオキニだぞ」
林が皆に代表して言った。
「ヨシ。てか分かった。貴殿を織田家臣のひとりと認めよう」
「キキッ、本当でござるか?」
「ただし。今後、キキカカ啼くな。てか某賭博漫画の〇愛会長のパクリみたいだし、聞いてて不快じゃ! てか第一、キキキはともかくカカカはオカシイ! それと、只今からオマエはサラリーマンの序列に組み込まれたんじゃ、ウチは上下関係が特にうるさい組織、それをとくと認識せよ」
「キ……。つまり?」
「木下二等兵は役員会議に出る資格はないっちゅーこっちゃ! このモブがっ」
「いてっいたっ! もし偉くなったらお前らなんて追い出してやるっ」
「バカか。信長旦那の信頼厚い我らがリストラされるワケなかろーが!」
「くーっ。なんか理由付けて旦那に追い出してもらうからな。覚えてろよ! 林! 佐久間!」
「あー。てか、また口答えしたー」
「くそーっ。ごめんなさい……。木下二等兵はこれにてアフターファイブに入ります。ドロン」
藤吉郎は忍者のように懐から煙を吐き出し、忽然と部屋から消えた。
唖然状態だった家臣らだったが、やがて気を取り直し、円陣を組んで、
「ダメじゃ。殿に頼ってばかりでは、考働できん無能社員扱いされるぞ」
「てかなぁ。あの猿めの言うことも腹立つが尤も。我らの本気を見せるのは今かも知れぬ」
「こうなれば今川四万よりも我ら弱小織田五千の方が強いと世間に知らしめてやろうぜ」
「オウ!」
「ヤロウ! ヤルゾ!」
障子のすき間からそっと様子をうかがっていたボクは、傍らの藤吉郎をこづいた。
「バカモノ。オマエのせいで逆に盛り上がってんじゃないか」
「キキ。あれ? こんなはずじゃあ無かったんですが。てか林、てかてかうるさくて」
「言い訳すんな。ヒラに落とすぞ?」
「あーそれダメなんだー。パワハラーパワハラー」
妹の市がチョンチョンとつついて来る。
「得意の変人ぶりを見せつけたらどーかな? お兄ちゃんっ」
「変人って言うな。ウン、それもそーだな」
障子を開け放ったボクは、部下らの前でダンスパフォーマンスを披露した。小学六年の体育祭で発表したラップ付きの自信作だぜ。
「人は死ぬ。黙ってても死ぬ。死んだら終わり、ジエンド。儚く短い一生、ムダにすんな、オウイエ」
「だ、旦那っ!」
「信長さまっ」
「てか、お下知をっ!」
「おまえらっ。それより僕のダンス見てくれた? 今の? キレッキレだったっしょ?」
ポカンとすんな、それっ。オマエと、オマエもっ。無反応なのが一番キズつく!
「お兄ちゃん! 今の編集してすぐ流したらPV爆上がりしたよ」
「まことか?」
「サムイサムイってミンナ笑ってる」
「今日はもう寝る!」
家臣一同「えええええーーーーっ!」