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36話 信長サイド⑤ 京都上洛新婚旅行(後編)


 ボクらの新婚旅行だが、戦国期の京都というなかなかレアな風情を体験するツアーとなった。もっとも吉乃(きつの)にとってはごく当たり前の《都会見物》に過ぎなかったろうが。


 三井寺、東福寺、清水寺などと、大寺ばかりに泊まる羽目になったのは別にボクらふたりの都合じゃなくって、織田家家臣団、とりわけ公称六万人とか大法螺吹いちゃってる兵士たちの寝床を確保するための止む無しの措置だったわけで。


「尾張のお侍さん、エラなったもんどすなぁ」などと明快なイヤミをのたまう公卿衆にバンバン金を投下して黙らせるのが快感でたまらない。本当にその通り「エラなった」と実感できる瞬間だぜ。


 ボクと吉乃(今は「キツノン」「あなたさま」と呼び合っている)が通りかかっただけで、全員地べたに土下座、もしくは直立不動で出迎えてくれる日々。

 なんとも、カン違いしてしまうこと甚だしい状況なのである。

 ウーチューブのコトなんて、最近ほとんど意識しなくなっちゃったし、秀吉(サル)が管理してくれてるドローンやらアクションカメラやら撮影システムも完全に任せっきりだし、正直、視聴数を気にする熱意だのがまったく過去のボク、的な感覚になりつつある。


「あの、キラキラしてる建物、あれが鹿苑寺金閣かしら?」

「ああ! そーだろうよ、お前も負けずに《キラッ》してやれっ!」

「……え? き、キラ……ですか?」


 し、しまった! またやっちまった。


「あ。あぁ、す、スマン。ち、ちょっとヘンな事、言ったな」


 キツノンはニッコリ笑って首を振る。うすうす察したかもしれんが、優しく受け流してくれて、ボクの手を握った。


「……ねえ、あなたさま、京の町に来たんですから、せっかくだからあの、帰蝶(きちょう)さまがおっしゃってた《京ア〇しょっぷ》とやらにも行ってみましょうよ?」

「時代錯誤が極まってるが、ああ、そーだな。行こう!」


 財布に物を言わせてオリキャラアイテムをしこたま仕入れ、ホクホクするボクを見て、キツノンが一緒に《ホクホク》っと腕を組んで来た。

 ああ。なんて幸せだ。


 この幸せを誰かにもお裾分けしてやりたいぜ。

 そう考えていたら、護衛の列の中に浅井(あさい)長政(ながまさ)が居た。足利将軍を宿舎に送り届けての帰りらしい。


「よぉ、長政くんっ! いつも以上に仏頂面だな。すこしくらいボクの幸せを分けてやるぞ?」

「結構だ。こっちはご機嫌じゃないんだがな」

「だから言ってんじゃん、不機嫌だなって。……なんかあったのか?」

「……い、いや。なんも」

「ったくよぉ、女の子とケンカでもしたのか? 『わたしと言うものがありながら、別の女の子にチョッカイ出すなんて』とか。オマエ、そりゃサイテーだぞ?」

「ブフッ! ゲヘゲヘッ……。な、何を言いやがる!」


 長政くんの目が異常に泳ぎ出した。って図星なのか?!


「さては隠し子でもいたのか?」

「い、いるかぁ! ……あ。居ませぬ!」

「しょーがないヤツだなぁ。とにかく洗いざらい正直に白状して、その上で平謝りする。それしか無いだろ? それで相手が許してくれなきゃ、もう諦めるしかねーよな?」


 せっかく人が助言してやってるってのに、ボーッと、キツノンを眺める長政。


「ちょっと待て! キツノンにまで色目つかうなよ、オマエ!」

「お、おわっ! 違いまするっ! ……信長殿」

「なんだ?」

「本当の事が言えん場合はどーすりゃいーですか?」

「はぁ? なぜ、言えん?」

「それは……。子供がショックを受けるからです」


 言っとるイミが理解できんが、つまり、言い訳が出来ないってことか。


「じゃ、別れるしか無かろう」

「え?」

「わたしもそう思います。あなたが本当に相手の事を思っているのなら、心の中のモヤモヤを洗いざらい伝えて、その上で一緒に悩んでもらう。相手の方だってそう望んでいるはずです。……もし、あなたのことが好きならば、そう望むはずです。それすら出来ないのでしたら、もうその恋は終わりだということになります」

「でも、相手がオレの事が好きかどーかが……」

「それも、ちゃんと聞くしかないでしょう? だいじょうぶですよ、ちゃんと聞けば、まっすぐに答えてくれますよ」

「ああ。確かにオマエが好きならな」


 とんだ恋愛相談会になったな。


 長政と別れた後、キツノンがボクにポツリと尋ねた。


「お市さん、あれから連絡がありましたか?」


 無い。

 実家に連絡してみたが音信不通だし、気になってる。心配させたくなかったが、先に聞かれてしまった。ボクも長政(ヤツ)を攻められんな。


「気を遣わせちまったな」

「だから、あなたさまもダメなんですよ。長政さんと同じです」


 ああ、やっぱり。

 言われると思った。


「……あの、わたしから大事なお話があります」


 チラ、とドローンに目をやったキツノン。


「あれ、いま動いてるんですか?」

「さっきまで居なかったんだが、急に現れやがったな」

「……。じゃあ、夜にでも話します」


 ええっ? 気になる! 気になるじゃねーかっ!

 秀吉(サル)っ、どこに居る? ジャマだ、ドローン失せさせろっ!


「いや、気になる。いま話してくれ」


 キツノンはポッと顔を赤らめ、


「子供を授かりました」


 ちっちゃな声だったが、はっきりと聞こえた。


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