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31話 信長サイド④ 京都上洛新婚旅行(中編)


 今は近江国の佐和山城ってトコにいるわけだが、いわゆる《要衝》ってヤツだな。


 琵琶湖の東岸中央部辺り、北陸と中部地方が交わる、いわば京都に向かうための東の玄関口になるのかな。ここら一帯も、戦国(この)時代の中原を成して主要道が寄り集まっているため、ずっと以前から当たり前のように万物の離合集散が行われていたという具合。

 ただ悲しいことに、これまでは近郊近隣の勢力同士仲良く連携しようなんて発想、これっぽちも無かったろうから、互恵的経済成長の機会は絶望的に寡少だったろうと推察するがな。


 そこでだ。


「このあたりさ、湖周の広範囲を重点的に都市開発したら、かなーり都会度が上がるんじゃねーかな?」

「観音寺城の近くに小高い山がありますが。それはつまり、また(きょてん)を造れと? 金なら持ってんぞと?」


 丹羽くんの遠慮の無い睨み。


「そ、そこまでは言ってね―よ。んーまーでも、そーゆーコトかなー」

「琵琶湖を望む眺めもサイコーだし、城下の平民どもを見下ろして天下とった気分にもなれるし。……ってトコですか?」


 ――う。丹羽(コイツ)め、最近ますますボクの本心をズケズケ読むようになったな。


「バ、バカ者っ。ボクはな、戦争のためのお城ではなく、人々が楽しく安心して暮らせる町づくりのための、政治を行うためのお城づくりをだな、真剣に夢想祈念しているのだよ? そう、天下泰平豊穣楽土、メツチャいいんじゃなぁい?」

「ははぁ。ナルホドですねー」


 心こもってないぞ、テメー!


「そうね。わたしも皆が安寧に過ごせるお城づくりは賛成です。山城ではなくって平地に、誰もが訪れ利用できる、そんな優しいお城があってもいいのかなぁって」

「そうそう! 吉乃(きつの)ん ナイスアシスト! というコトで丹羽くん頼むよォ。造ろうね? 皆のための明るい政治改革が叶う城」


「はぁ。分かりました。新たな城づくりに着手します!」

「ボクぁ金持ってるけん、遠慮せんといてやー?」

「はいはい。金使いまくってええんやな? ラジャアです!」


 首を振り振りしつつ丹羽くん退去。で、なぜかすぐまた戻って来た。


「殿、浅井長政殿が面会です」

「ああ、そうか」


 通した部屋に赴くと、小さな奥座敷に押し込められたかのようにドッカリと鎮座するナガマサくんがいた。


「よォ。そういや二人だけで会うのは初めてかな?」

「は。言われてみれば二回目じゃないっすね。時間余って無かったすからね。……あ、足利義昭公とは不首尾にならず、別れずに済みました」

「義昭公、どんな風だった? ゴキゲンだった?」

「細川藤孝殿が詫びじゃない手紙を読んでくれました」


 うーんと首をひねって、「感謝の手紙を」と言い改めるナガマサくん。大丈夫だよ、どうにか言いたいことは通じてるからよ。


「六角氏討伐はお見事。仇敵を倒してくれて有難う。こんな趣旨ですね」

「ま、戦闘になったのは成り行きだったがな。完全に向こうが挑んできたんだからさ。別にこっちはケンカ腰じゃなかったっしょ? ただ安心安眠で京都に行きたかっただけだし」

「不安じゃねぇようにしたいってのは同感です。それとこのたび、浅井(うち)と同盟を結んでもらった事は、とても有難かったと感謝してます」


 ヘンな言葉遣いじゃなく、素直にお礼を口にしようと努力するナガマサ。いや、照れるし。


「感謝? そうなの?」

「ええ。これからも、末永く同盟を続けてください。よろしくお願いします」

「改まって言うなよ。固いじゃねーか。ナガマサくんよ」

「いや……。なんか、お兄さん……ゴホッゴホッ、もとい、信長殿には感謝を伝えたかったので」


 フーン。

 あ、そーだ。ついでだ。


 ボクはいったん席を外し吉乃を連れて来た。この機会に挨拶させようと思ったからだ。


「うわあああっ!」


 吉乃を一目見たナガマサが突如、故障した。彼は時々こうなる。前回もそうだったな。でも逆にこっちも驚いた。


「どーした? ナガマサくん?」


 だが彼の目はまっすぐに吉乃を見詰めたまま離れなかった。うわごとのように、


「ち、ち、ち、ち、ちょっと。……オマエ、ど、どーして……?」

「は、はぁ? あの……わたし?」


 吉乃に対するナガマサくんは明らかにキョドってる。ボクなりの分析ではコイツ、極度の対人恐怖症なんだ。大目に見てやってくれな? 吉乃。

 絶句していたナガマサくんが、かすれた声を絞り出した。


「ひ、ひょっとして、逃げて来たのか? オレが不甲斐ないせいで?」


 問われた吉乃はチラリとボクの方を窺ってから、


「はぁ。……わたしが、でございますか?」

「オレだって、オレだってなぁ。結構尽くそうって思ったんだぜ? ……でもそーか。やっぱり見切りをつけて帰っちまったんだな」


 ナガマサくん、ついに号泣!

 さすがに黙ってられず。


「気をしっかり持て! 彼女はいい子なんだ、保証する! 大丈夫だ! それにボクがいるじゃないか!」


 彼の肩にポンと手を置いた。情緒不安定この上なし。だが今のボクにとっては非常に心強い旅の友だ。


「うっ!」


 ビクン! と上背を跳ねさせたナガマサくん。


「し、失礼!」


 慌てた様子に急変し、正座していた体勢のまま四つん這いで廊下に飛び出していった。


「……な、なんだ?」

「わ、わかりません」


 ふすまの向こう側で「なんだと!?」「双子っ!?」「カン違い?!」などなど、イミの通じん単語を連呼し、やがてスッと身を滑らせて部屋に戻って来た。


「それがし、浅井長政と申す者、以後お見知りおきを」


 何事もなかったかのように平静そのもので、威風堂々の挨拶をしてきやがった。つられた吉乃も、


「申し遅れました。吉乃と申します」


 そう言って改めて三つ指をついた。なんだか知らんが、これでいいのか?



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