03話 マムシの道三の話を一応しておく
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「なんだ? 市よ」
「今度の今川義元戦、下手したら勝っちゃうよ?」
何を言いだすんだ、聞き捨てならんな。
市の説明はこうだ。まず、今川は万単位の大軍でこの尾張に攻めて来る。当然、油断している。
一方我々織田軍は全軍かき集めてもせいぜい五千。だからみんな死ぬ気になっている。つまり士気がバカみたいに高いだろう。
やる気のない人間が何人いようとも、敵じゃないと。狂気じみた本気モードの人間が立ち向かえば、圧勝できる! との彼女の持論だ。
「よく理解した。だったら取るべき作戦は一つだな」
ボクは引きこもり作戦を敢行することにした。
《トップが本気の姿勢を見せなければ、おのずと部下はヤル気を無くす》などと、何かの本に書いていたからな。
早速実践してやろう!
切羽詰まった家来たちが幾ら訴え出ようとも、ムシ。お城の奥に閉じこもり、妹と二人、ゲーム三昧で時を過ごした。(《伸長の野望》というゲームだ。ちっとは滅びの参考になるだろ)
「殿っ、お下知を!」
「今川先発隊が掛川城を進発しましたぞ」
「義元本隊が沓掛城に着陣っ」
「義元配下の松平勢が鷲津砦に向かっております!」
「殿っ、とのおおっ!」
天井からストンと木下藤吉郎が降り立った。
「信長旦那。森、林、佐久間、河尻、柴田らが目を怒らせて隣の間に詰め掛けてますけど?」
「かっかっか。読み通りだな。これでボクに愛想をつかしたアイツらは一斉に敵に寝返って、見事な滅びを迎えられると」
「さすがお兄ちゃん! 今のセリフとドヤ顔をアップしたら、PV激上がりしたよ?」
舞い上がる市。おっかぶせて否定するサル。
「……いえいえ、とんでもないですよ。それどころかアイツら、決死の覚悟を決めて織田家に殉じるんだって泣いて叫んでましたよ?」
「な、なんだとぉぉぉぉ!」
バカなのかっ? アイツら、ひょっとして、格別にバカなのかあっ???
「どーするの、お兄ちゃん?」
「うう。ちょっと待て、考えるから!」
とは言え、そんなカンタンに妙案が思いつくはずもなく。
「あっ、そーだ! ここはあの《ロリババア》に知恵を借りるとしよう」
「えーっ、わたしあの子キライー」
「ま、そーいうな」
ここで数話前に勿体つけて保留した斎藤道三が登場するのだが。
コイツはそう。いまは帰蝶と名を変えて、ここ清須の城に住んでいる。このオヤジはなんと、形式上、ボクの正妻になっている。
「お兄ちゃん。あのロリバ……あの子にまたたぶらかされるよ? もしかしてお兄ちゃん、わたしよりあの子の方が好きなの? (怒怒怒)」
「バカなコトを言うな、妹。ボクはアイツをビジネスパートナーとしてしか見てないっ」
いや、ホントややこしいんだって、アイツ。
面倒だからかいつまんで話すが、前にあいさつに行ったって話したと思うが、そのときに妙に気に入られちゃって。根掘り葉掘り、質問してくるんだよ。
もちろん「ボクは宇宙人ですが?」 って話したよ?
そしたらますます興味をもたれて、「エライわねぇ」とか「しっかりしてるわねぇ」とかまったくイミフな感心され出して、ついには息子のグチを始めやがった。
義龍って息子が反抗期だとか、親の言うことと反対の行動をとるとか、どーとか。そんなん知らねーよ。
あ、ひとつ言い忘れてたけど、この斎藤道三、ホントは女の人だったんだよな。つまりおばさん。
これって大事な話? まーいーか。
昔はツルツルする化粧品? か何かを売りつけるセールスレディだったらしいが、そのときに美濃国の殿さまをたぶらかして国をずっぽり篭絡しちゃった系らしく。
で、息子はグレてると。んで自分は肌の衰えを感じるっていうから、ついイタヅラ心を芽生えさせちまった。
母星イカスルメルで大流行の薬、若返りの薬。その名も《コナソドリンク》。
一応ちゃんと説明して。ボクも少し飲んで。
その上で「人はどこまで若返られるのか?」「甦れ、若りしわたし!」 と声高にあおったら、なんとこれが一気飲みしやがった!
わーっ、バカっ! っと叫んだが後の祭り。
完全幼女・いわゆるロリババアの爆誕というわけだ。ボクは知らんよー。
で、稲葉山城に帰るに帰れなくなって、清須城に居候するようになったっていうわけさ。
でもさー。もともとのオバサンの姿を知ってるしょ? しかも立派なお子さんも居るわけだしね。けども邪険には出来んし、美濃国から来た姫として厚遇するしかないよな。
市はその措置が気に入らなかったらしく、ロリババアに要らんちょっかい仕掛けて、いつも返り討ちにあってるそうだ。
「わたし、あの子になんて会わないもーんだ」
「ああっ! 市っ!」
うう~ん。乙女心はかくもフクザツだ。
「ヨオ、呼んだか若造! 甘酒はもー飽きたぞ! 鬼ころしだせ!」
「はあ。道三よー、お前さ、歳考えろよ? いまはロリっ子だろーが」
「ロリロリ言うな! これでもわたしゃ、マムシの道三なんだぞ!」
はいはい。マムシさんね。
相談しようとしたボクがバカでした。