26話 織田市サイド② 猫の手は盆に還れないんだね
「わあっ! すっごーい! 琵琶湖、とってもキレイだねーっ」
「クソ景色見て喜ぶ市に、泣きたくねぇ気分だぜ」
今日は浅井長政くんに、小谷のお城に連れて来てもらったの。歩くのちょっと疲れたけど、こんなに良い景色が見れたんだからヨカッタ! とっても爽快だよ!
「ありがとう、ナガマサ」
「いやいや。こっちこそ。この服の仕返しだぜ」
「それを言うなら『お返し』ね」
「うむ、お返し、な」
大柄のナガマサに合いそうな服はこの時代には無いってゆーから、ネット通販専用のウニクロで買ってあげたんだ。たいそう気に入ってくれてみたいだから、わたしもマンゾクだよー。
「何言ってんの。このところ毎日お世話になってるんだから、このくらい当然だもんね。それにそのくらい、わたしのお小遣いでだって買えるんだよ?」
「あ、いやオレもまったく不快にならねぇよ。大泣きできねぇし」
「違うよ? ここは素直に『嬉しい』って言うところだよ?」
「う。……嬉しい」
「そーだよ。そして、『ありがとう』」
「……あ、ありがとう」
「うんっ。わたしの方もね」
オキニのフラップリュックからスマホを取り出して、ナガマサに「はい、どーぞ」。
「コレさ、《スマホ》ってゆーの。離れててもお話できるからすごーく便利なんだよ? 二台あるから一台あげる」
「は? すまほ?」
「そースマホ! あなたは戦国人だけど、若っかいんだからスグに使いこなせるようになるよ。試しに、コレをこうして、指を当てて……ここ。こーしてみてー?」
「わっ。市、急にくっつくな」
「いいからさー! この指をここに、こーだよ! ほら、画面が開いたでしょ?!」
わたしは久しぶりに熱心に、楽しー気分になれた。ナガマサもすぐに使い方を覚えてくれたし、これでやっと友達ゼロから抜け出せたなー。
「ナガマサぁ、あのね」
「な、なんだ?」
「わたしもうじき飛行機のチケット取れそうだから、田舎に帰ることにするね」
「へ?」
「わたしの故郷、イカスルメル星に帰るの。離れててもこのスマホで遣り取りできるから、ちゃんと連絡してきてね」
LINEで「ありがとう」と送った。
ポカンと口を開けたナガマサ。
「今なんて言った?」
「だからわたし、もうすぐバイバイだから、だからスマホをキミに……」
「だから、『バイバイ』ってのは!?」
「帰るのよ、イカスルメル星に。わたし、もうすぐ」
「兄貴の、織田信長のところへか?」
「だから違うよ。お兄ちゃんのところじゃないし」
ナガマサ、押し黙ったかと思ったら急に。
「ダメだっ! お前は絶対に尾張には返さん! ずっとこのままここに居るんだ!」
「えーっ?! ヤだよーっ! わたし帰りたいのっ。それにいつまでもお世話になるわけにもいかないでしょー?! てかさ、尾張じゃないしっ」
「とにかくダメだ、ダメだ、ダメだぁぁぁっ! 断じて帰らせるもんか!」
何よォ、いきなり! このォ! チョップ! キックー! そこを退いてよーっ! もおっ、ビクともしない。
「殿。お取込み中に失礼申し上げる。大殿(=久政)さまがお呼びでございます」
「なんなのだ、こんなときに?」
「市殿もご同行願いたく」
「んーっ? わたしもーっ??」
◇ ◇ ◇ ◇
小谷城、狭くなかった! 小っちゃいお城なんて言ってごめんなさい。
ものすごい大きな広間に案内されたわたしは、奥御座の真横、一段低い段に矍鑠として正座していたおじいさんに話し掛けられた。
「そなたは誠に織田家のご息女、市殿であるか?」
「は? ウ、ウン、そーだけど?」
ざわざわとご家来衆がざわついた。ひょえー、まーまー人がいるう。みんなわたしに注目してるの?
「長政殿。この娘が真に織田信長の妹君であるという証拠はあるのか?」
「は。違うという証拠がないので」
またまたザワついた。
「息子よ。この場では忌憚なく本心を述べよ。貴殿はどう思うのか?」
「父上の疑いの心がウザイくらい、オレはこの娘を信じてますが? だから何が言いたいので?」
「息子よ。小さいときに苦労させたワシが悪かったが、少しは家臣共の手前、父に礼儀を示した言葉遣いをしてくれ」
「口と心が一致せんだけです。思ったことと反対の言葉を使えと父上からずっと怒鳴られてましたので、こればかりは仕方ありませぬ」
瞑目のお父さん。うーん。親子ゲンカなのかなぁ。
「ち、ちょっと待ってください、おじーさん。別にわたしがホンモノでもニセモノでもどーでもいーっちゃーいーと思うし、あんましナガマサを困らせないで欲しいんだ。ナガマサもだよ? 考えながらしゃべってたら、もう少しいい言葉遣いが出来るんじゃない? それにわたし、もうお暇するんだし、これ以上浅井家にご迷惑はおかけしませんの。だよ?」
「暇乞いはならん」
「なあっ! そこはなんでナガマサと同じ意見なの?! ワケが分かんないよ!」
家臣の代表らしい人がふたりの代わりに説明する。
「あなたさまが本物の市殿であろうと無かろうと、織田家から来た人質には変わりありません。申し訳ありませぬが先日の竹中半兵衛殿との会話はすべて盗み聞きいたしました。少なくともあなたさまは織田家中の縁者であると判断しましたので」
盗み聞き。うわー、歯に衣着せない人たちだー。
「許せ、娘。我が浅井家にとって、いま織田家は、無くてはならない同盟者なのだ。近江国の民の安寧に合力頂きたい」
「勝手すぎるよ!」
ナガマサが深々と頭を下げた。家臣の前なんでしょ、ヤメてよっ!
「わたし、イヤだもんっ! 幾らお世話になったからって人質とか言われて、すっごく不愉快! 帰る!」
立ち上がろうとしたら男の人たちに囲まれた! イヤーっ!
「やめろ、お前らっ! 市に手出しするな!」
わーん。ナガマサー。
「市、済まねえ。でもひとつ聞いてくれ。お前、今は兄貴に会いたくねーんだろ?」
「ん? まー……」
「近々、お前の兄、信長が大軍率いて京の都に上洛する。そのときにこの浅井領も通る」
「え? そーなの?」
「そりゃあ、美濃から京へ行くためにはそーなるさ」
「うーん……」
「それまでに《ひこーき》とやらはうまく行きそうなのか?」
「わ、わかんないけど」
「だったらヤツが通り過ぎるまで、ジッと隠れとくしかねぇだろうが? 目立ったことしていいのか?」
ナガマサ、ズルイ!
「ひとつ聞いていい?」
「なんなりと」
「と言うことはね、浅井家は織田家に《わたしが》来てるコトを報告してないんだよね?」
ザワザワザワ!
「そ、その通りだ娘よ。そなた、聡い女子よな。しかし女子に聡さは要らぬ。要るのは愛嬌よ」
「クソ親父! 死にたくなったらもう一度ぬかしやがれ!」
「長政、きさまっ!」
「もっかい島流ししてやろーか!」
※親父は昔、ムリヤリ長政に家督を盗られてます。
「なあっ! おのれぇ」
ザワザワザワザワザワッ!
「市は道具じゃねぇ! 人なんだ!」
「分かった口を利くな!」
「ケンカはヤメテ! ふたりを止めて! わたしのために争わないでぇ! こォれーいーじょーおー」
ナガマサー! このタイミングで胸キュン発言ズルイー!
あと、コメディ、大キライ!




