02話 尾張統一の過程はざっくりと流す
「さっそく、東の大名が圧力かけてきたぞ」
今川家。
かなり大きい戦国大名らしい。
「今川家の当主は今川義元さん。……この人スゴイよ、三河、遠江、駿河の三国を支配してる大大名だって。お兄ちゃん、今度こそホンキで滅びられるよ?」
滅びられるという言い方も変だが、それは実に結構なことだ。
戦国時代での生活もだいたい半年が経ち、妹の市はぼちぼち飽き始めている。気持ちよく滅亡しちゃって、とっとと星に帰りたいらしい。
この間にボクらが行ったちょっかいは以下の通りだ。
・萱津の戦い「親族を退治してみた」
何が気に入らなかったのか、親せきすじの織田大和守っておっちゃんが攻めてきた。なぜか織田信光叔父さんが味方してくれたおかげで勝ってしまった。
・清須城殴り込み「おっきなお城を分捕ってみた」
叔父の織田信光さんに誘われてノリで攻めたら、大和守さんが降参しちゃって、そのままお城が手にはいっちゃった。
・将軍にあいさつ「マジ白塗りキメエ」
室町幕府の将軍とかいう、この国の王にあいさつに行った。これは興味本位。ウケ狙いでエッチな本あげたらメッチャメッチヤ喜ばれて。結果的に織田家の株を上げちゃった。
・弟の死「骨肉の争いハンパねぇ」
マジメで織田家の行く末を心から案じているいい弟だった。でもボクがこんなだから、とうとうキレて兵をあげてきた。コイツになら滅ぼされてもいいなって思ったんだけど、何故か家来らが奮起して勝っちゃった。その過程で弟は誰かに成敗され命を落としたらしい。
弟の件はずっと心苦しい。なんでこんなことしてるのかと、今更になって悩んだ。でもフォロワーの反応は半端なかった。アクセスランキング上位に初めて名前を連ねた。
尾張国って地域をいつの間にか統一してしまったらしいが、達成感どころか腹痛と吐き気に悩まされた。
ある時、市が手招きするので素直についていくと、そこには弟の信勝が坊主の姿で正座していたじゃないか!
「ノブカツ! お前、生きてたのか!」
「兄上もお元気そうで」
「そんな改まんなよ! 生きててよかったよ! それよりもう一度、一緒に暮らそうぜ」
「いいえ、それは出来ません。わたしと兄上は性格が違いすぎます。また同じことを繰り返すだけでしょう。……それにわたしは気付きました」
「何を?」
弟は拝むようなポーズで手を合わせ、
「兄上には幸運の神がついております。織田家は兄上が支えるべきです」
「あっ、ヤバッ、《幸運》とか、うかつな発言すんなよ! 市、今のカットな? ……弟よ、それは間違いだ。オマエの方がしっかりしてるし、正直全員オマエオシだぞ」
「いいえ。挑みましたがわたしは敗れました。負けは負けです。今後は兄上が率いる織田家を陰ながら見守ります」
うへぇ。そーきたか。弟はお坊さんになって諸国漫遊の旅に出るという。いーのかそれで。
「ときどき帰ってきます。道々で仕入れた情報を兄上にお伝えしますので、ぜひ役立ててください」
「さよけー」
「バイバイ、信勝お兄ちゃんっ!」
市は気持ちの切り替えが早い。というか早すぎる。もう手を振って追い出そうとしている。
藤吉郎にいたっては、旅セットをそっと差し出して、自分も途中までお供するつもりで旅衣装を決め込んでいる。
「分かったよ。そこまで言うんなら仕方ない。ジブンの好きにするといい。他国の情報、期待して待ってるよ」
「ありがとう、兄上。では、さらば」
行っちゃった。あーあ。これで、尾張国内でボクに逆らうヤツは誰も居なくなった。
「……お兄ちゃん」
「なんだ? 市よ」
「今日アップした動画の再生回数伸びてない。イイヨ! の数も上がってないよー!」
視聴者はボクらの不幸・終焉を期待してる。
織田家の滅亡を待ち望んでいるんだ。これじゃあダメだ!
「市っ、作戦会議しよう! 今日の投稿は止めよう。明日の撮影までに方策を寝ずに練るんだ」
「え? 寝るの? 寝ないの?」
「寝ずに練る! ダジャレじゃない! ホンキだ!」
イラついていると、家臣の林秀貞さんがふすまを開け、入って来た。
「殿っ! 一大事でございまするっ」
「おおっ、一大事大歓迎!」
「鳴海城の山口親子が今川方に寝返り申した! ……って、大歓迎?」
「ああっ、いやっ、こっちの話。ゴホン。なんだとおお。こりゃケシカランなあっ。さっそく成敗せねばなあ」
ところで。
「……今川方って、あの今川義元っておっさん大名?」
「ええ、そりゃそーです! あの仇敵、今川治部大輔義元でございます。他に誰がおりますか!」
「あーごめんごめん」
とにかくこれはチャンスだ。
今度こそ、ゼッタイに滅びてやる。
「市っ、部屋にこもるぞ!」
「あいあいさー」
林さんの引きつったカオが追いかけてきた。ああ、うっとおしいわ!
「ち、ちょっ、殿っ! 御沙汰を」
「果報は寝て待て。以上」
イメージラフ (構想中のお市)