18話 宴会まだ続くんだ?
料理長ご自慢のフルコースメニュー! だそうだ。丹羽くん、そーだな? キミが責任取り給えよ?
肴の味噌焼き。味噌味の煮物。焼き味噌。香の物。湯漬け。最後に干し柿。ホントに無難だな。
んーボクは美味いと思ったが、義昭公と、フジ……えーと、何とかオジサンは、「オーノー」としかめっ面だった。だったら、いっそサイ〇リアのミックスグルメでも良かったんじゃね? 安いし美味いぜ?
スックと立ち上がった藤……孝さんだっけが、「ご膳のお礼に余興をひとつ」と一礼した。そして他の家来に竹と藁で出来たマネキンを五体、設置させた。
ちょっとそれ、面白いんだろーな?
光っちゃんこと、光秀オバサンが解説する。
「塚原卜全直伝の演武を披露されます」
藤孝さんは、ジリ……と藁の前に立ち、柄に手を当てた。と、思ったら居合とともに刀を抜き放ち、ふたたび鞘に収める。一瞬の出来事だ。既に藁がふたつに分かれている。さらに次の瞬間には、すぐ隣りの人形が斬られていた。
まるで刀を回すようなダンスを見せられながら、人形がタテ・ヨコに離れ離れになる様を眺める。技というより自然体な流動。鞘に刀が戻るたびに一体一体が処理され、我に返ると五体全部が片付いていた。
「では、次はアカペラで米津を熱唱……」
「それは要らないそうです」
義昭将軍の見事な指示大書に、藤孝さんは渋々自席に戻った。
うん。たしかに要らないね。
結構アンタ目立ちたがり屋だな、藤孝さんよ。でも刀の舞はよかった。年の瀬の忘年会に呼んでやるとしよう。
今度は光秀オバサンが立ち上がった。舞台上の藁と竹が片付けられ、代わりに黒い丸を描いた菱形の板が二枚、縛られたサルのアタマの上に器用に載せられている。
「では、次に短筒の演武を披露します!」
「処刑か! ククク。サルの死にざまが見ものじゃ」
「帰蝶ちゃん、アホなの?」
「はー? アホ言う方がアホなんじゃ」
コラ、市と帰蝶。二人ともケンカすんな。
でさ? さっきっから室内で物騒なかくし芸してっけど、寺側の許可取ってんの? お坊さんに叱られても知んないよ?
――バンッ!
光秀オバサンは、腰にやるとサッと何かを取り出し、放った。
銃か? 銃だ!
「すんげー! 黒い部分に当たった!」
「あーあ。外れた。サルのヤツ、死んでない」
「違うって! 帰蝶ちゃんのアホっ」
ボクは、光秀オバサンの腕前に感動し、短筒を見せてもらった。
戸惑ったオバサンだったが、照れたように丁寧に解説してくれた。
「短筒というのは長筒を短くして持ち運びやすくし、自由な姿勢で使えるようにした簡易銃です。ただし欠点もあります。銃身が短くなったため飛距離も延びません。また必然的に命中精度も落ちます」
「へぇ。母星のレーザー銃より重いな。当たり前か」
バーン。ヒュ。バフッ。
ちょ、待て!
ボクの目の前を何かが通ったよ? ヒュンって言ったよ?
「恐れながら、手っ取り早く、続いて長筒の演武を披露しました!」
縄を解かれた藤吉郎が手にしていたもう一枚の板のど真ん中も、弾が貫通していた。的は動いていたのに?! サルはちびった様子で舞台上でオロオロしている。
「あの子だよ、お兄ちゃん!」
部屋の最も手前、末席に居たイケメン少年が手慣れた手つきで弾込めし、素早く構えて次弾を放った。
バンッ。ビシッ。
ほーっ、躊躇ないね―。
「お兄ちゃん! スゴイよー! 今度は帰蝶ちゃんのお箸に当たってるよっ? それも一発で二本とも折ってる!!」
「また外したのう。ワシのヒタイはココじゃ、ココ!」
「やっぱ帰蝶ちゃん、アホっぽいー。でも愉快ーっ」
こっ、これは……。
なかなか面白いかも。市も喜んでるしなぁ。……部屋の中がずいぶん硝煙くさいけど。
「義昭公。明智殿とそこの少年と。京の都に一緒に同行させたいのですが? もちろん費用は全部こっちで面倒みます」
義昭公に頼み事をするボク。我ながら前代未聞だ。そしたら義昭公は筆を走らせた。……いい加減、口使えよ。
いちいち藤孝さんが読み上げる。
「信長の元で働くのも当方で働くのも同じ事。なんならずっと出向してても良いぞ。それより上洛はいつになるのか?」
「上洛?」
「京の都にはいつ着けるのか? と聞いてるんですよ、旦那」
サルに日本語を教えてもらうボク。
「宇宙船なら瞬時に?」
「マジメに答えた方がいいですよ? 妙な期待しちゃいますですよ?」
「あーそれじゃ、一ヶ月? で行けますかね?」
とりあえず適当に言っとく。京の都って近かったっけ?
将軍さんを見送った後、光秀オバサンにお辞儀をされた。こっちも礼を返した。チラリと長筒の少年に目をやる。色目を使っている帰蝶を一顧だにしてない。むしろ長筒に触れようとしている市に、鋭く注意の目を向けている。
「……あのイケメン小僧はアンタの子?」
「いいえー。。雑賀の荘で知り合いました。まだまだ子供なのに、鉄砲の名手なんですよ?」
「あのさー、うち給料いいからさ。……気にすんなよ?」
「えー、まー、将軍家って意外に給料しみったれてましたんで、気にしないことにしますー」
帰蝶が走り寄って来た。ボクに、じゃなくって光秀オバサンに用らしい。
「のう! 久しぶりじゃったなぁ。えらく美人になりおって、まあ。こんなことならもっと早く手を付けといたら良かったわい!」
「……怖い」
何がどう「怖い」んだか。いろいろ思う所がありそうだ。
このオバサンは美濃国出身らしいから、同郷の帰蝶と知り合いだったんだろうと安易に想像がつくが、それ以上の詮索は今後ゆっくりと行っていくとしよう。
まぁ、今日は気晴らしにはなったか。
やれやれ。




