16話 自称信玄のニートとゲームバトルしたった件④負けちゃった!
〇市のワンポイント解説だよー
「こんっにっちはぁ! 市だよーっ! 毎日メチャクチャ暑いけど、夏バテダイエットしてるーっ? 宿題いっぱい残しちゃってるー? えー? もう諦めたのー? 根性なしだねぇ」
「おー」 (お兄ちゃんの声を録音したもの)
「返事だけは、イイ子だね。それじゃ! 今回は前回の続き。まず初めに《リュウオウクエスト2》の説明だね。これは、有名なドラゴンクエスト2のもじりだね。勇者トロの血を引いたお兄ちゃん王子と、次兄トンヌラ王子、そしてわたし、お市王女が、世界を駆け巡って人々を困らせているモンスターたちを退治しつつ、大審判パゴーン(=スケルトンカセット師匠)の野望を阻止せんと奮闘するロールプレイングゲームだよ。ちなみに真ん中のトンヌラ王子は常時カンオケ(死亡)状態だから、空気そのもので全然役に立たずなんだー。わたしはというと、《イルクーツクに消ゆ》で勝利したお兄ちゃんが、アイテムゲットでわたしを召喚してくれたんで、ずっーと一緒! とっても幸せ! 嬉しさいっぱいで魔法使いまくりの魔女っ子なのだー!」
「おー」 (お兄ちゃんの声を録音したもの)
「次に《信長の野心・全国版》。これは説明不要だよね。信長の野望・全国版のもじりね。全国五十カ国くらいあったかなー、どこかの大名を選んでレッツプレー! 最初に自分の能力値を決めるあたり、異世界ものの冒頭シーンとかで有ったりするよね、ワクワクの瞬間だよね。でゲーム中盤の隣国との合戦、農民一揆や謀反を乗り越えつつ、全国統一を目指していくんだよー。はー、ざっくり説明だー。このゲームではわたしはお兄ちゃんの名軍師役、実質ただのギャラリーだよ。スケカセ師匠は……えーと、タケダ何とかって武将を選択したよ」
「おー」 (お兄ちゃんの声を録音したもの)
「ふー解説終わり―。長かったね。じゃあみんなー。いちおー本編のはじまりだよー」
◇ ◇ ◇ ◇
「オレを大審判バゴーンと知っての振舞いなのかーい、無礼者めがっ! とくと恐怖を味わうがよいわ!」
「違うよーっ、あなたは武田さんだよー! ひゃっ。ほっ。えーんっっ」
「任せろっ! とっととオウチに帰りやがれー!」
ボクは全力でストレス解消した。
「勇者お兄ちゃんの剣がバゴーンの脳天に突き立ったあ! むごーい! イタそーっ」
「ぐおお。くちおしいっ。ま、まさかキミごときにやられるとは! 我が転生神スケカセ・パラダイスよ! ここに生贄を捧げ、我が魂の行く末を託すう、げふっ!」
ああ。そうそう。帰りかけたところで真のラスボスが出てくんだよな。
「市ーっ。全力全開で回復魔法を頼む!」
「あいあいさー!」
「はやぶさ・破壊の剣、装備オッケー。悪魔の鎧は初めっからフィット! 会心の一撃、喰らいやがれぃ!」
「ずっりーぞ、織田くーん!」
「お前こそ、さっき死んだのにノコノコ、転生とか言って実質パワーアップしてんじゃねーか、師匠よ!?」
キレた武田がカッパ大王みたいな爆炎をパッパパッパ吹きまくりやがる。市のスカートのすそに火が付いた。てんめえ、破廉恥極まりないぞっ!
「ぬあああぁぁっ!」
一度に二度攻撃! どーだ!
「お兄ちゃん、スケパラさんのHPが減ってないよ!」
スカウター的なメガネを付けた市が悲鳴を上げた。……オイそれ、そんな便利な代物、どこで手に入れた?
「こ、コイツ! 無限HPバグを用意してやがったか!」
「ぐっはっは。いい加減そろそろ勝たしてもらわないとねー。悪く思うわないでね?」
確かファ〇通かなんかで書いてあったのは、ある特定の数値以下になると、攻撃受けても自動的に減算しなくなるスイッチが入る……と言うことは、スイッチが入る前に、一気に数値をゼロにしてやればいいのか!
※このくだりは作者のオリジナル設定ですので、あしからず。
「市っ! スケパラのヤローに《バホイミ》かけてくれ!」
「えー? 敵に回復魔法かけちゃうの?!」
「いーから! 早くっ! ボクを信じて!」
分かったよ、お兄ちゃんを信じるっ! と健気な一声を上げ、市のステッキが光った。
スケパラの頭上に《光のふりかけ》がパラパラと舞い落ち、ヤツのHPが心なしか上昇した。(市の報告)
「相打ちだ、師匠! カッコつけて、カッコ悪く共倒れで死んでやるーっ!」
突進・一撃必殺のカウンターを覚悟。今までクリアしたゲームのオイシイトコ取り、見よう見まねでのヤケクソ攻撃だ。
とにかく一打でやっつけなくちゃなんない! 中途半端だとまた無敵スイッチがオンしちまう!
見るからに弱点っぽい感のする《これ見よがしな》オデコの星印を目掛けて、勢いよく剣を刺し貫く!
案の定、星がまっぷたつに割れ、その隙間からドロドロのマグマが噴出した。まともにそれを浴びたボクのHPゲージが、たちまちゼロに迫った。
「おにいちやああん!」
「いもーとよお、ヤツは?!」
「セリフも、絶叫も出ないまま。コロンって即死しちゃったよぉ」
「よおっしゃぁぁ!」
で、ボクも昇天。しかし市が生き残ったおかげでゲーム自体はクリア。辛勝でも勝ちは勝ちだぜ。
「わーい。じゃあザオイク(蘇生呪文)するねー」
ぷっはー。生き返ったあ。
「きっさまー。何なんだよォ最後の技はぁ? 完全にドラ〇エじゃなくない? 特撮ってか、羽の生えたエルフっかってーの? なんで三メートル以上もジャンプとか出来るんだよっ」
「ゴチャってんなよ、師匠。アンタの負けは負けだ。素直になれ。仕方なかろう。ボクにはヒーローかアイドルの神さまが憑いてるんだから」
「憑く……ってんのが気味悪くて許せる気がするが、とにかくムショーに悔しーなぁ」
マンゾクした。久々にバカも出来た。じゃあ、帰るか。
「ちょい、待てい。最後のゲームがあるだろー? チャレンジしなきゃでしょ!」
「読み手はもう飽きてんだよ。文字数も自己規定数を超えてんだ。もういい」
現に市だって、帰り支度なのか、別売りのコントローラをスカートの中から取り出した。それ裏技ですか?
「違うよ。伏線張ってたんだけど、活用できなかっただけだよね? ねぇ作者さん?」
「ああ。ホントは外からサルに何らかの操作をしてもらって、助けてもらおうとしたんだっけな? 作者よ?」
「そうそう。詰めの甘さが露呈しちゃったねー。めでたしめでたし」
ボクと市はさっさとクローズしたいんだ。でもスケカセ師匠はしつこい。
「聞いてよ、お前ら! 最後のゲーム、してくれよ! 信長の野心! ね? 頼むから」
「分かったよ。サルー聞こえるか―。なんらかの操作だけどなー、ちょっと待ってくれー。あと一戦して帰るからー」
天空から「ウキー」と神の奇声。
◇ ◇ ◇ ◇
で、信長の野心。
ボクと市のコンビは、気持ちよく――負けた。
負けた?
「あ。織田家、滅びちゃった」




