14話 自称信玄のニートとゲームバトルしたった件②イラついちゃった!
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。前回に師匠のスケルトンカセットさんに挑発されたの、まだ覚えてるかな?」
「ああ、忘れてないさ。さっき郵送物が届いて怒りが再燃してたところだ。チョーファミのソフトで対決するんだったよな」
お城ごとすっかり丸焼けになった(半ば意図的に?)稲葉山のてっぺんに掘っ立て小屋を急増し、そこに居を移したボクらは、意外と毎日、忙しかったので、そのつもりがなかったものの、ウーチューバーとしての使命を疎かにしていた。
アクセスがほとんど無い状態もつづいてるしな。
「お兄ちゃん。何度も言うけどこれは絶対にワナだよ? あんな挑発に乗っちゃダメだからね?」
「いや。そーゆーワケにはいかんだろ。ワナなんてむしろこっちの望むところだ」
いくら市の言うことでもこればかりは譲れない。ウズウズが止められねー!
ボクは届いたブツを確認した。
まずはチョーファミのソフト。
スーパーマルモシスターズ2、イルクーツクに消ゆ、リュウオウクエスト2、そして信長の野心・全国版だ。リスト通りの物が届いている。
次に本体。わぁ、こりゃ懐かしい。ボクがまだ幼稚園だったころ、パパ(って呼んでたんだよ、ワリィか?!)が、油汗流して必死にプレイしてたっけ。大声でコントローラ投げつけるほどストレスたまんなら止めときゃいいのに、なんて思ったものさ。
パパー、天国のパパー、ボクはもう大人になりましたよー。……なんてな。それはじょーだん。パパはいまだ現役バリバリのエリート公務員だ。ボクと市の素行が劣悪すぎて実家出禁になってるんで、ま、死んだも同然だが。(お互いに)
――ゲーム好きのパパの宝物のひとつだったチョーファミ。全然使わしてくれなかったのを未だに覚えてるぜ。(根に持ってるぜ)
それとコレ。特筆すべきは《被り物ー》!!
かのナーヴ〇ア! ヘッドギアタイプのVRデバイス!
こっわあ、これはびびるう!
マジで?!
こんなの被ったら帰ってこれなくなるんじゃないの? 色んなイミで!
パパのゲーム機には当然こんなのは付属されていなかった。代わりにコントローラは全く見当たらなかった。よく見ると《別売り》と明記されてる。
戦国時代そっちのけの機器登場で、ボクの頭ははち切れそうに興奮した。
「さっそくチュートリアルモードを試す!」
「お兄ちゃん!」
「ま、試すだけだ。気にすんな!」
不格好だがヘッドギアを装着し、妹の止めるのも聞かず、何となく心の中で「リンクスタート」と唱えてみた。要は心持ちだ。意地と気合で乗り越えてやる!
「ひょほー、ポリゴォォォーン!」
幾何学的な図形が大量に行き来したかと思えば、突然、全方位真っ白な世界があらわれた。天も地も、何もない無の世界だ。
そこへまあるい銀色の、天使の羽根をくっつけたロボットが浮かび上がった。どうもコイツがナビ役らしい。
「――ピロポン。脳波、脈拍サーチ。性別、年齢、面容、体格を確認。これよりチュートリアルモードに入ります。ビビッ。ようこそ。VRチョーファミの世界へ。声紋登録をします。お名前をどうぞ」
「うっほん。ボクは、織田、信長だ。さっさと始めてくれ」
「OK、トライヤー。こんにちは織田信長さん。試したいゲームを選択してください」
そーだな。じゃあ、スーパーマルモシスターズ2にしとこう。アクションゲーがもっとも難易度が図りやすそうだからな。
「ワッホー!」
ピポッポ、ピッポポーピ。
今度はレゴブロック調の景色が突如360度方位に広がった。
天空から小柄な作業着姿のオバサンが降って来た。手にピンクのハンマーを握っている。ボクが戦慄を覚えのけ反ったのは、彼女が口ひげを生やしていたからである。む、むごい!
「信長。オレの名前を言ってみろ」
「オバサンなのにその野太い声。昔パパが遊んでいたのを横から盗み見したマリモオバサンのイメージそのままだ。ちょっとカンドーしたぞ。アンタの名前は、マリモ。……そう。スーパーマリモだ」
「ウヘップー。オッケー! それじゃ、そのナヨった根性を叩き直してやるわよん」
といきなり何の予告もなく、ハンマーを横殴りに振り回して来やがった。
ボクは慌てず紙一重でその不意打ちを避け、そのまま一回転して反撃の回し蹴りをくれてやった。それはマリモの顔面にクリティカルヒット。頭部がちぎれたかと思うほど上体部が歪み、吹っ飛んだ彼女は、その先に待ち構えていた大型クイボウの大きな口に吸い込まれていった。
「待て。死んでる場合じゃないだろう? 早く解説とかしろよ」
「そっちこそ待ってろや。初心者だと思って手加減しちまったわよ」
地面からポンと湧いて出たマリモは、一転、丁寧な説明を始めた。丁寧すぎてイラついた。
要点を絞るとだいたい次の通りだった。
・ゲームスタートと同時に、ボクはマリモに代わってゲーム攻略に挑む。
・ゲーム中に死んだら蘇生するが、生き返りは三回まで。三回目に死んだときにはヘッドギアから強烈な電気ショックが流れて強制終了。すなわちゲームオーバー。負けだ。
・対戦相手はスケルトンカセット師匠(自称、武田信玄)すなわち当ゲームだとコイツが成りすましているカッパ大王。
・毎回、互いの大事にしているアイテムを賭け合う。賭けで得た物は次戦に持ち込める。
・対戦相手をゲームオーバーに追い込む、またはゲームそのもののクリアで勝者確定となり、賭けた物を我が物にできる。逆に負けると賭けた物を相手に渡さなければならない。
「注意事項をひとつ。これはとても大事な話だから、現実世界の仲間にもしっかり伝えといてね。もっとも連絡が出来るならね。ゲーム中に別売りのコントローラをセットされて操作されたらゲーム中の自分の意志に関係なく、操作通りの行動を取ってしまうから。また本体からセットしていたゲームソフトを引き抜かれたり、電源を落とされたりしたら自動的に即負けになるの、よく分かった?」
生ぬるいルールだぜ。こんなんで、最高の不幸が表現できるのか、はなはだ疑問だな。
「OK。そこまで言うんだったらこーしましょ。勝てば、願いをひとつ叶えてアゲル。当然、あなたも同様ね?」
「いいよ。受けて立ってやる」
「最後にひとつ。このゲームはチュートリアルを始めた時点からゲームスタートとします。つまり、既に中断は出来んのでよろしくネ。あと、賭けのアイテムは対戦相手に選択権があるわ。マリモオバサマは、カッパ大王様の代理で市ちゃんを賭けるわね」
「なあっ!」
や、やられた。
「く……じ、じゃあボクはオマエの持ってるスマホにする。ただちに市に連絡を取らねば」




