13話 自称信玄のニートとゲームバトルしたった件①ムカついちゃった!
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。ムズかしいカオしてるねぇ? 悩みならわたし、なんでも聞くよ?」
「ああ、市。カワイイ我が妹よ。お兄ちゃんな、スポンサー契約切られてから、どーもヤル気が出んのだわ」
《TAKE-NAKA》などという女の子ユニットに完敗したボクは《不幸》マニアのなけなしの慰め評価を得たが、それも一時の事。半日もせんうちにPVヒトケタになり、三日経った現在ではゼロ行進が続いている。
いっそ半兵衛ちゃんみたいに視聴者層変更して《萌え系》か《2.5次元》攻めで行くか。……いや。何をいまさら。
ボクのファンはボクの不幸を見たがってんだ。
うう。背負っている期待が重い。
「お兄ちゃん、コレ。はい」
「ん? いまどきビデオレター? 母星イカスルメルから?」
いかがわしい内容の物じゃなかろーな? 市の前で鑑賞していい類のものなのか? ええ? 作者さんよ。
「早くかけてよー、おにーちゃん!」
「ああ、待て待て。分かったから」
どーなっても知らんぞ。はい再生っと。
ヴー。
っと、ブルー画面のまま雑音が数秒続いたかと思うとブラックアウトした。「何だよ」と文句言いかけたところで唐突に中年オヤジが現れた。
「ヨォ、織田君、久しぶり。元気だった? あ、オレ? 相変わらず脱サラニート! エへへへ、焦ったってしょーが無いよね。人生マンモスハッピーが一番さ」
「市。停止していい?」
「ダメだよ、最後まで見てあげなきゃだよー。仮にもわたしたちの師匠なんだから」
ああ、そーだよ。市の言うとおりだよ。この男は、元ウーチューバー。ボクと市に配信活動の楽しさを教えてくれた張本人、自称ゲームマスターの《スケルトンカセット》さんだ。
いったい何の用なの?
「織田君さ。いま、とっても悩んでるね? ウンウン分かるよ、その気持ち。オレもさぁ……」
「なっげーんだよ、アンタの話はさ! 要件とっとと言ってくれないかなぁ!」
「めっ、お兄ちゃん! 短気はウソつきの始まりだよ?」
うっ「メッ」されたっ、カワイイ! イミ不明だけど。
「困ってる織田君に、オレからとっておきの提案がありまーす。同封のリストを見てくださーい」
「これだよ、お兄ちゃん」
「サンキュ」
何のリストかと思えば、古ーい時代のゲームソフト名が羅列されている。で、何なの?
「織田君の不快げでクッソナマイキな態度が目に浮かびまーす。ククク、その不幸面、いーねー、ヒーサイコー」
あーイライラするう!
「ここからが提案の本チャンでーす。織田君がその気なら、リストに書かれたゲームでオレとガチ勝負しよう」
「はあっ、勝負だって?」
「《勝負だって?》とか言っちゃってる? ククク。そー勝負よん。でも、ただの勝負じゃないのさ。もう一度ゲーム名見て?」
あー?
えーと、「スーパーマルモシスターズ2」「イルクーツクに消ゆ」「リュウオウクエスト2」「信長の野心・全国版」。ぜーんぶ、チョーファミソフトじゃねーの。懐かしすぎ。
で、それがどーした!!
「順番にそれらのゲームで対戦しましせう。ゲーム世界にフルダイブしてね、君は死に物狂いでゲームクリアを目指すんだよ? ははっ、イマドキでしょーが」
「フルダイブ?」
「察しが悪いなあ。そのままコントローラー握って普通にゲームしちゃっても、誰も見てくれんでしょうが。VRよ。バーチャルでリアルなゲーム世界に入り浸って、死ぬほど苦労を堪能するってわけですよー。どうかな? ヤル気出た?」
市が眉をひそめて悩んでいる。
「どうした、市?」
「なんかね、危険なカホリがするよー。ゼッタイなにか、ワナとか仕掛けあるとおもう」
「ご名答! さすが織田君はアタマが良いねぇ」
言ったのボクじゃないし。妹だし。それになんでしっかり会話出来てんだ?
で、どんな細工なんだ?
「条件を言おう。あ、やっぱ止めた。言ったら織田君の事だからビビってヤル気無くしちゃうもんね? キミ、根性なしだから。シスコンのドエロヘンタイ少年だから。性悪のわがままクソガキだから」
「お兄ちゃん、挑発に乗って欲しいってゆってるよ、スケカセさん」
ああ。承知してる。乗ってやる気を失せさせるくらい挑発してやがんな、ししょーよ。ヒシヒシと必死さが伝わってくるぜ。こりゃ相当この企画に金つぎ込んだな。……また親の退職金勝手に使ったのか?
「お兄ちゃん、それ笑えない。……それに《また》って」
「ここははっきり読者にも理解できるように説明しとくべきだ。《スケカセは臭い飯を食ったことがある》」
「良い子は意味が解らなくていいからね? 検索禁止だよ?」
……フッ。アンタも真剣だな。師匠よ。この、〇〇ぞこないの〇〇〇ヤロウ。
「気が向いたら、ここまで電話。はい、バイバイ」
プツッと映像が終わったと同時に、ボクは、スケルトンヤローに電話した。ただちに実行してやる!
「あー、DVDみてくれたー?」
「言え。条件とやらをよ」
「本気で挑戦するんだ?」
「さっさと言え!」
電話の向こうで嫌味な笑いが聞こえた。
「あのさぁ、ところでもう新作シリーズは始まってんだよ? オレはこれでも織田君のファンなんだ。君のためにと思って企画したんだからさー」
「お兄ちゃん、動画のPVが爆上がりしてる! 《武田信玄とチョーファミ内でガチ戦してみた》ってタイトルで勝手に《第零話》が配信されてるー!」
「な、なんだって?!」
「織田君のIDとパス。単純な文字列だからすぐに乗っ取れたよ。失意の織田君が、意地の悪い中年男にあざ笑われてカッとして、正体不明の挑戦にすぐさま乗っかる。不幸の予兆を感じてるんだよ、視聴者はきっと」
はめられた……と思うより前に、髪型が気になったボク。悔しいと憤るより前に、猫背の姿勢を正すボク。職業病か? それとも根っからのウーチューバーなのだろうか?
「まずはさ、三日以内にリストのゲームソフトを送るからさ。覚悟を決めたら、ゲームスタートね。《リンクスタート》って叫んでもいーよ。後はゲームの中で説明しまーす。じゃねー」
「リンクスタート!!」
「お兄ちゃんもたいがい人の話聞かないね」
「リンクう、スッタアトォォォ!」
「……だから、言い方の問題じゃないって、お兄ちゃん……」




