01話 宇宙人、織田信長
超小型アクションカメラを装備した妹が、はしゃいだ声を上げた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ。昨日アップした回、再生回数あがってる!」
「そっか! お兄ちゃんのカメラにむかってありがとうの『キラッ』してやれ」
「うんっ」
彼女の名前は織田市。そしてボクは信長。織田信長。
M78星雲にある彼方の星、《イカスルメル星》からここに来た。
母星でボクと妹は、映像パフォーマー《ウーチューバー》としてコンビを組んで食いつないでいた。知らない世界に赴いて、突拍子もない体験をし、それをカメラに収めて編集し、動画配信サイトにアップする。娯楽に飢えた視聴者に、珍奇で愉快な映像を届けるのが仕事だ。
「信長旦那。殿の奇行が功を奏して《アイツはバカだのうつけだ》のって、家臣たちが騒ぎ立ててますよ?」
縁の下からくぐもった声。
コイツはサル。ボクらのペット。
木下藤吉郎などとそれっぽい名前がついているが、じっさい本当のサルだ。
遺伝子操作でチンパンジーのIQを爆上げさせてみた、それがコイツ。言わば加工生物的な? こういうペットはカワイイ上に頼りになるってコトで母星では大はやりしている。
「よっし、そーか! 城下に巨大プールつくって、町娘たちを集めて水着だらけの大運動会したのが受けたんだな?」
「ちがいます。こないだ隣国の殿さまにあいさつに言ったでしょ?」
「? ああ。そーいや美濃国の?」
「斎藤どうさーん」
市が割り込んでくる。キャワイイやつ。そうそう、斎藤道三っておっちゃん。
(斎藤道三。いろいろあって、今はボクの城で居候してるが。その話はまた後日に)
「そうそう。アイツな。短パンTシャツで出向いてったら、道端のどっかに待ち伏せしてこっそり覗き見してやがったんだよな。面白いから対面の時にはビシッ! っと逆にスーツでキメこんでやったら、おもいっきし面食らってた。あれはかなり愉快だった」
「織田家中はこれで殿の変人ぶり決定だって肩落としてました。作戦バッチリです。ところで信長旦那。織田信勝さまが訪ねてきましたよ?」
「ノブカツ? ああ。あのイケメンな。どーせまた説教だろ。アイツ口を開くと『家の大事』とか『亡き父の誇り』とか訳の分からない話するんだよな。ああいうヤツがこの家の当主になったらゼッタイにお家繁盛するんだろうな」
「もしそうなったら、信長旦那は織田家の当主即クビですね」
「そーなると母星はボク自身の不幸見て喜ぶだろうが、評価はそこまでだな」
「だったらこの企画、もう終わります? 続けます? どーします?」
どうしますって言ってもなぁ。正直鬱陶しいな。でもなぁ。話してたらアイツ、弟設定みたいなんだよなぁ。可哀そうだし邪険に出来んでしょ。
と言ってシリーズ開始早々で「おしまい」ってのも、あまりに寂しいし。
「まぁいいよ。仮病ってコトで。面会謝絶ってしといて」
「ラジャ、殿っ」
床下から藤吉郎の気配が消えた。ホント、使えるいいヤツだ。あとでいっぱいバナナやるからな。
――そういえばもろもろ説明が中途半端だったな。長くならんよう手短に。
冒頭でも話したが、いまボクらの星じゃ、未発達文明の星にちょっかいを出すのが流行ってる。その様子を面白おかしく実況する。それがボクら、ウーチューバーのお仕事だ。
ウーチューバーは、アタマのかたい大人たちからは冷ややかな目で見られているが、若い連中からは、大うけしてる。まあイマドキのお仕事ってわけ。
ボクらふたり(と藤吉郎)は、母星ではそこそこ名の知れたウーチューバーだった。
まぁ今もだけど。
で、ある日、懇意にしてるとあるクライアントから『地球って未開文明の星を見つけたんだけど、ちょっとおちょくりに行かない?』ってオファーが来て。
ふたつ返事で受けた次第。
「面白そうな星なんだけどさ、その中でも特に面白そうなエリアを見つけちゃったのよ」
「どんなのですか?」
「刀ってのを振り回しちゃって。このエリア全体でチャンチャン戦争しちゃってんの。くく。で、みんなホンキなのよ、コレが。剥き出しの欲望さらけ出して、ワーワー好き勝手に暴れまわっちゃってるワケ」
「フーン。……で、ボクらっちに、もっともっと面白くなるよう引っ掻き回してくれ、と?」
「そうそう。コペルくんによるとね、このエリア、《日本》って国の《織田信長》なる人物が、このゴチャゴチャを解消して平和にしちゃうっなんて占ってんのさ。このまま放置しちゃえばね、それって全然ツマランクなあい~? 相当サイアクだよねぇ」
ちなみにコペルくんってゆーのは、我が星が誇る高性能人工頭脳。学習型コンピュータ、AIくん。これが「君たちはどういきるべきか」などと、未来予想したって話。
「へーえ。じゃあ、ボクがその男に成り代わって、その星の歴史をシッチャカメッチャカにしちゃうってゆー?」
「そーゆーコト、理解いいね。ハデに頼むよ。もともとの織田信長さんは記憶を消して別の人物にしとくから。彼は彼で新しい最高の人生歩んじゃってもらいましょう!」
「宇宙船に誘拐して、チップを埋め込むんだな。あーこわ」
「きゃとるみゅーてぃれーしょんっ」
「それは違うって!」
オレはコペルくんが未来予想した人物に成りすまし、戦国時代に入り込んだのだった。
◆ ◇ ◆ ◇
「ところでお兄ちゃん。今回のネタ、タイトルどうするの?」
「うーんと。そうだなぁ。『戦国大名をつぶしてみた』で行こう」
「なんか地味じゃない?」
「そーゆーな妹。分かりやすい方がいいでしょ、だから決定」
イメージラフ (キラッ お市)