冬の日の向日葵の微笑みは・・・ (1)突然の災難
本編「未来に繋がる絆」(https://ncode.syosetu.com/n3827eo/)の
第138話「うのっち、男のキューピット」(https://ncode.syosetu.com/n3827eo/138/)
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「あ、あの……」
「あ! うん。うん…何?」
詩織の声に、亮介は思わず手元のスマホから視線を彼女の方に向けた。
「あの…、お風呂。ありがとうございました」
詩織の声はか細く、部屋の入口に佇んだままだ。
「あ……、今日は疲れたよね。もう遅いから今夜は休んだ方がいいよ。もし、夜中に腹減ったり喉乾いたりしたら、冷蔵庫の中身、適当に漁ってくれていいし」
「はい。ありがとうございます」
「俺、今から風呂入るから」
「じゃあ……、私、もう寝ますね。お休みなさい」
「お休み」
そう言うと、詩織はリビングの隣の四畳半の寝室へと消えた。
亮介は思い切り脱力し、肩を落とした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
あー、なんでこんなことになったんだ。
狭い湯船に浸かりながら亮介は考える。
この夏に詩織と付き合い始めて、まだ約ひと月。
その間、デートは何度かしたが、まだまだ「恋人同士」というほどの関係ではない。
詩織を部屋に入れるのは、今日が初めてだ。
なのに、いきなり「泊まり」だなんて……。
しかも、これは今夜だけではないのだ。
当分、詩織を部屋に泊めることになるだろう。
そうなった今日の顛末に、亮介は想いを巡らせ始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日の映画も素敵でしたね!」
「ああ。面白かったよね」
詩織とのデートの帰り、詩織を部屋まで送っている時だった。
「あれ? 消防車?」
「近いみたいですね。うちのアパートの方向だわ」
何気なく詩織が呟いた。
消防車が何台も、サイレンを鳴らしながら目の前を通り過ぎていく。
「まさか……」
詩織が不意に駆け出した。
「詩織ちゃん!」
慌てて亮介は詩織の後を追う。
住宅街の中を走り、ブロックの角を曲がると黒山の人だかり。
辺りは火事特有の焦げ臭いにおいと、黒煙がもうもうと立ち込めている。
「きゃああ……!!」
詩織の悲鳴に、絶句する亮介。
目の前で紅蓮の炎に包まれているのは、二階建ての古い文化住宅。
その101号室は詩織の部屋だった。
消防車の放水、警察・消防の捜査。マスコミの取材。
全てが終わるまでには、随分時間がかかった。
全焼──────
アパートは、黒い骨組みだけを残し、灰と化した。
ただ呆然とする詩織に亮介は必死で声をかけ、そして、自分の部屋へと連れ帰った。
詩織が実家と不仲であることは聞いている。そんな詩織が今、一番頼れるのは自分しかいない。
家具も服も貯金通帳も何もかもを詩織は失くした。
とにかく、今夜の宿をどうにかしなければならない。
ホテルをとってやれれば一番良かったのだが、今夜一晩だけというわけにはいかないとすれば、自分の部屋に泊めるのが一番手っ取り早いのは違いない。
詩織も亮介がとるホテルに泊まることには異議を唱えた。そんな経済的負担を亮介にかけたくはない詩織としては結局、亮介の部屋に泊まるという亮介の提案を最終的には受け入れた。
勿論、亮介にやましい下心などあるわけがない。
……と思われているからこそ、余計に亮介は自分の行動を律する必要があった。
詩織と付き合い始めてこのひと月、結んだ関係はハグまでだ。
詩織は、まだ大学二年生。
ゆっくりと仲を育んでいくつもりだ。
やっぱり何もできるわけがない……
亮介は、ぬるくなった湯船の中で溜息をついた。




