初恋はスローモーション (3)もう恋なんてしない
本編「未来に繋がる絆」(https://ncode.syosetu.com/n3827eo/)の
第30話「テニスコートの恋」と併せてご覧下さい。
諦めよう。
諦めるしかない。
彼女がいる人を愛してはいけない。
でも。
私は大地さんが好き……
何度自問自答を繰り返しても、最後はそこに辿りつく。
どんなに「理性」が諦めようと働きかけても、大地を愛するという「本能」を抑えることは出来なかった。
告白しよう。
告白した結果、玉砕しても仕方ない。
もう、こんな袋小路は耐えられない。
それ以外、お佳に残された道はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「佳ちゃん」
「大地さん……」
大地のマンションの前でお佳は、塾講師のバイトから帰宅する大地を待っていた。
夜11時30分。
最寄り駅へ通じるバスはもう最終便が出ている時間で、帰る手段がお佳にはない。
大地は、お佳を愛車プリウスでマンションまで送った。
夜の高速。
サイドの車窓をオレンジ色の光が流れていく。
それは一種幻想的な風景で、お佳は大地の横顔越しにその流れる光を見つめている。
BGMは、大地が好きないつものブルース・スプリングスティーン。
彼の低く強く男らしい歌声が車内いっぱいに響く。
大地と一緒の夜のドライブは何度目になるだろう。
愛の言葉や口づけこそなかったが、二人きりでの親密な時間をそれなりに今まで過ごしてきた。
それは、お佳にとって充分「デート」と呼べるものだった。
しかし、それ以上のアプローチがなかったのも事実だ。
思えば、大地はある一定以上の関係には決して立ち入ることなく、又立ち入らせてもくれなかった。
そのことに今まで気づかなかったのは、お佳の痛恨の失敗かもしれない。
お佳は、世間知らずの自分をつくづく恨んだ。
「俺の気持ちは変わらないよ。彼女と別れる気はない。だから、君の気持ちには応えられない」
大地のその一言がお佳の胸を深く貫き、切り裂いた。
大地は彼女を愛している。
何をどう訴えても大地は応えてはくれない。
どうしようもない無力感だけがお佳の胸に去来する。
お佳のマンションの前に車は停まった。
「部屋まで送るから、降りて」
大地の言葉に、お佳は素直に車を降りた。
どんなにお佳が言葉を尽くしたとしても、大地の気持ちは変わらない。
それはよくわかっていた。
「どうして……」
部屋の前まで来て、お佳はただ立ち尽くす。
「こんなに。こんなに大地さんのことが好きなのに……。どうして……」
縋った大地の胸の中で、もはやお佳は流れる涙をとめることが出来ない。
「縁がなかったんだよ。俺達は」
「縁……?」
大地が呟いたその一言に、お佳は傾げる。
「そう。俺が佳ちゃんと知り合う前に、今カノと出逢ったのは「運命」だった。運命には逆らわない方がいい」
“運命”……
なんて残酷な響きなんだろう……!
どうしても大地とは結ばれないその運命を、お佳は呪った。
実らなかった初恋……
もう恋なんてしない。
大地以外の男なんて愛せない。
ただ大地の存在だけがお佳の胸に楔を打った。




