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冬の日の向日葵の微笑みは・・・ (5)冬の日の向日葵の微笑み、再び

「お疲れ様でした! 作業全て終了しました。ここに確認の判子お願いします」

 詩織は、目の前の書類に判を押した。


「鳥羽さん。引っ越しおめでとう。良かったね、いい物件が見つかって」

「はい! 粘った甲斐がありました」


 ここは、二階建て築三十余年で駅から徒歩十五分の文化住宅の一階。家賃は月四万円の2Kタイプ。詩織が前に住んでいた物件とほぼ同条件だ。


 その部屋を詩織は、火事から約三か月後の年末にようやく見つけ、バイト先の引越センターに依頼し、年が明けたばかりの今日、引っ越した。

 その引っ越し作業を、バイトスタッフの一人としてうのっちも手伝った。


 肝心の亮介はというと、昨夜からインフルエンザで寝込んでいる。それでも、引っ越し作業を手伝うと言い張る亮介を何とか大人しく寝かせてきた今朝の詩織だった。


「いっそ先輩のとこにそのまま居つけば良かったじゃん」

「そ、そういうわけにはいきません!」

 純情な詩織は顔を赤らめる。

「でも。先輩とは結婚するんだろ?」

「はい……。籍は入れます。今月の私の成人式に」

 詩織は、噛みしめるようにそう呟いた。


「それにしても随分なスピード婚だよね。実際の所、そんなに早く決断して良かったの?」

「いいんです。亮介さん、ですから」

 詩織は俯いて、はにかんだ。

「じゃあ、どうして一緒に暮らさないの?」

「まだ学生だからです。それに私、今はこれ以上亮介さんに甘えたくないんです。私は……」

 詩織は、しっかりとした口調で呟いた。


「夢を諦めたくないんです」


 火事で焼け出され、体を壊し、夢が自分の手から零れ落ちていきそうだったあの時……


 亮介がプロポーズしてくれた。


 その時の感動は言葉には出来ない程、衝撃的なものだった。

 だからこそ、夢を叶えなければならないと思う。

 いや、叶えるのだ。

 その為には亮介に甘えず、出来るところまで自分の力を信じよう。


 あの時そう自分に詩織は誓った。

 その誓いを詩織は一生忘れない。


「おめでとう。鳥羽さん」

「宇野さん、ありがとうございます!」


 詩織は明るく笑った。

 その笑顔は一年前と変わらない。

 健気で素朴で温かい「冬の日の向日葵の微笑み」だと、うのっちは思った。


 真冬の夕暮れ、陽はもう陰ってきている。

 亮介は今頃少しは熱が下がっただろうか。


 今日ここに無事引っ越しできたささやかなお祝いに、亮介の好きな海老天入りの鍋やきうどんを愛情一杯こめて亮介にふるまおう。


 アパート前のアスファルトに伸びる自分の長い影を見つめながら、詩織は幸せあふれる笑みを(こぼ)した。



  了






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