聖夜のエンゲージ
ドアが閉じられたと同時に、包み込む。
熱く、逞しい腕の中。
二人の心臓の鼓動だけが響く。
それは、何度目かの聖なる夜。
「佳」
囁きながらもつれあうように、遥人はお佳を抱き締める。
甘い、熱い口づけ。
もう数えられないほど繰り返してきた夜。
それでも、お佳は胸がわななく。
それは慣れた行為でも、いつもお佳に幸福な感情をもたらすものだ。
お佳が遥人の胸の中に顔を埋める。
今にも倒れ伏してしまいそうな風情のお佳を、遥人はその胸にかき抱く。
しかし。
「佳。話があるんだ」
いつもにまして真剣な顔をして、遥人はお佳の切れ長の黒い瞳を見つめながら言った。
「話……ですか?」
「ああ。こっちに来てくれないか」
遥人はそう言って、部屋の隅のダブルベッドへとお佳を誘った。
すぐ側の窓からは、遥か34階の眼下が見下ろせる。
夜の街のネオンが煌き、車の小さなテイルランプがゆっくりと動いてゆく。
ここは、「クラウン・アソシアプラザホテル」。
34階のスタンダードダブルの広い客室に二人はいる。
「君とここで過ごすイブは何回目かな」
「私が大学二年の時から毎年ですから……もう4回目になります」
「そうか……」
暫く、遥人は黙っていた。
まさか、別れ話……?!
一瞬、お佳が悪い予感に震えた時、
「佳。僕と結婚して欲しい」
遥人は、再びお佳の瞳を熱く見つめると、はっきりそう言った。
「けっ…こん……?」
「ああ」
それは、突然のストレートなプロポーズだった。
いや、遥人とのつきあいの年数からすると、妥当かもしれない。
しかし、お佳には心の準備ができておらず、ただ耳を疑い、遥人の瞳を見つめ返した。
「僕は一介の公立中学の理科教員で、君が今まで育ってきたような贅沢をさせてやることもできない。それでも、僕は君と同じ家庭を築きたい」
遥人は、お佳の両の瞳を真摯に見つめながら続ける。
「君には苦労をかけると思う。でも。僕と残りの人生をずっと共にしてくれないか」
「先輩……」
お佳は、うっすらと涙ぐんでいる。
遥人との結婚は勿論、お佳の望んでいることだ。
「不束者ですが……幾久しくお願いします」
頬を紅潮させながら、お佳は答えていた。
「佳……」
遥人は、再びお佳を強く抱き締めた。
恋人同士の若い二人が心を通わせ、二人の将来を分かち合う。その決意を固めた瞬間だった。
「明日。二人で婚約指輪を買いに行こう。君の好きな指輪を選んでくれ。そのくらいの貯金なら、僕でも蓄えている」
「エンゲージリング……」
「今度こそ、左手の薬指にはめてくれるね」
「はい、喜んで」
お佳は、どこまでも遥人についていこうと思う。
遥人は、お佳とこれから築く二人の家庭を思う。
それは、とても幸せな聖夜だった。
了




