ゲームの終わり。あたしの願いはただ1つ!
トリニティはX氏と対峙していた。
「X氏、今すぐにこの下らないゲームを中止していただこう」
「私を脅しにかけるつもりかね、トリニティ君」
「あなたは自分の欲のために大勢の人々を犠牲にした。その罪は重い」
「では、どうする? 私がNОと言ったらその剣で斬るつもりかね」
「場合によってはそうなるだろう」
トリニティは剣の切っ先をX氏に向ける。部屋の明かりに照らされ、剣はきらりと輝く。だがX氏は椅子に悠然と腰掛けたまま動かない。
沈黙の睨み合いが続く。
と、そこへナツが扉を勢いよく開けて入ってきた。
「あんどーなつ、何故ここへ来れた。それにエミリーは!?」
「心配ないって。狩人は倒したよ。でも、匙さんが」
「わかっている。ディックも脱落したそうだ。裏切り者であるレイも含めてな」
二人が話している最中にX氏は音を立てずに机の引き出しから銃を取り出すと、それをトリニティに向ける。
「危ないッ!」
友の危機に気付いたナツが前に立ちふさがったと同時に、X氏が発砲。ナツは腕を撃たれてしまう。
「仕損じたか。だが、次はない」
「X氏……いや、Xと呼ばせてもらおう。あなたは、こんな小さな少女に発砲するほど落ちぶれてしまったか!」
「君たちは私の楽しみのために命を落とせばそれでいい」
二発目を放つが、それはトリニティの剣技によって床下に落ちる。
次々と放たれる銃弾を鳥人は軌道を見切ったうえで剣を銃弾に当て、その勢いを相殺してポトリと落としているのだ。五発を放ったところで、Xの拳銃はカチカチと虚しい音を出した。
「弾切れのようだな」
「っくぅ……」
目をギラつかせ、剣を持ち、一歩ずつ迫ってくるトリニティ。
X氏は彼が怖かった。ゲームがはじまる前は、混乱に乗じて自分の商売を悉く邪魔してくる彼を簡単に葬り去れると踏んでいた。そのためにディックを雇い、レイを参加者から引き抜いた。しかし彼が誤算だったのはナツの存在を見抜けなかったことだ。一見するとただの女子高校生。だが彼女はトリニティを味方につけ、ディックやエミリー、そして自らの最大の難関と思われた匙老人でさえも自分の側に引き込んだ。もしもナツがいなければ、この侵攻はなく、彼らはもっと早くに全滅していただろう。
「ナツ、貴様さえいなければ、この計画は全てうまくいっていたのに!」
目を血走らせ悔しさを露わにするXにナツは負傷した腕を庇いながらも歯を見せて笑い。
「世の中お金だけで人を動かすことができないって、これでアンタにもわかったんじゃない」
トリニティは神速でX氏に接近すると、その胸倉を掴み、片腕だけで高々と持ち上げる。そして剣を下ろし、X氏の薬指から指輪を引き抜いた。
「指輪はいただいていく。それと、賞金五十億も小切手にもサインを書いてもらおうか」
「わ、わかった。書く、書くから命だけは助けてくれ!」
ヘタレな姿を見せたX氏だが、その返答に納得したトリニティによって離され、切手に自らの名を書く。だが、彼は終わったわけではなかった。
「私はこれで終わりだ。だが、お前たちも道連れにしてやる!」
Xは机の右上にある万が一のために備え付けておいた自爆装置の起動ボタンを押した。
それに気づいたトリニティは彼の首根っこを掴み、思いきり窓ガラスに叩きつけた。同時にガラスに亀裂が入り、枠のガラスが全て砕け、X氏は遥か真下へと落ちていく。
「トリニテイイイイイイイイイイイ!」
下はゴミを燃やす焼却炉が設置してあり、X氏は怨嗟の言葉と共に燃え盛る炎の中へと落ち、その野望ごと葬り去られてしまった。
「終わった、か」
神妙な顔で剣を鞘に納め、負傷したナツに歩み寄る。
「大丈夫か」
「何とかね。それより、指輪と小切手は」
「問題ない。ここが爆発する前に離れよう」
トリニティはナツの体をしっかり掴み、背中の翼でXタワーから外へ飛び出す。その直後にタワーは木っ端微塵に爆散した。
タワーが消滅したのち、トリニティはナツに真剣な眼差しを向け、指輪を渡す。
「これを、受け取ってはくれまいか」
「遠慮するよ。それはトリーがとったんだから」
「いや。君の協力があったからこそ、私はこのゲームを終わらせることができた。君さえよければ、賞金も貰って欲しい」
「でもアンタには病気の奥さんが」
「……聞いていたのか。だが、私の妻は賞金の一割があれば治せる」
「あたしは高校生だし、そんな大金使えないよ」
「将来は大学に行くだろうし、就職にも必要になってくるはずだ」
「こんなに貰ったら、働かなくなっちゃうじゃん」
「一理ある」
ここでトリーは塔の跡に目を向け。
「このゲームで大勢の罪なき命が奪われた。しかし、結果として君を守り、そしてエミリーも救われた。ディックはどうなったかわからんが、彼のことだ生きているだろう」
エミリーは爆破前にトリニティが救出し、現在、後ろのベンチで寝かせている。
「彼女にも目が覚めたら、賞金を分け与えるつもりでいる」
「そっか。トリーは優しいんだね」
「私など優しさの欠片もない人間だ」
その言葉にナツは首を振り、何かを言いかけたが、それを敢えて口にはせず、トリニティから指輪を受け取る。
「前言撤回。やっぱ貰っておくよ」
「そうか。それで、願いはどうする?」
「願いね……」
「ドーナツ食べ放題でもいいだろう」
「そんな願いはお金で叶えられるでしょ。でも、願いの前に、あたしもアンタにお礼をするよ」
そう告げると背を伸ばし、彼の頬にキスをした。
「……これが君のお礼の仕方か。日本人はもっとキスに関して消極的だと思っていたが」
「人は人、あたしはあたしだよ」
頬を摩りながら困惑するトリニティを横目に指輪を夕焼けに照らし。
「あたしの願いはただ一つ! 指輪よ、このゲームで犠牲になった参加者たちを全員生き返らせて!」
おわり。




