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8 立てなくなるまで切り伏せろ

「クルージさん!」


「ああ!」


 俺達は同時にポーチから黄色い石を取りだす。

 此処に来るまでに買っておいたアイテムの一つ。


 閃光石。


 衝撃を与えると強い光を発生させ、対象の目をくらませる強力なアイテム。


 それを正面に向けて全力で魔獣に向けて放り投げた。


 そして俺が腕で目を守っている間に発光。

 次の瞬間には魔獣の悲鳴が響き渡る。

 正面からも。後方からも。

 そして次の瞬間には俺の後ろにいたアリサは動きだしていたのが足音で伝わってきた。


 ……俺も行くぞ。

 死線を……潜れ!


 そして俺も刀を持って走りだした。


 魔獣は俺達を八方向から囲っている。

 故に閃光石を二つ投げた所で全ての魔獣の動きを止められるわけでは無い。

 だとすればまずは今動く奴を対処する!


「うおおおおおおおおおおッ!」


 自身を鼓舞する為に、そう叫び声を上げた。

 刀を振りぬき切り伏せて、魔獣の群れの中心へと躍り出る。

 そして魔術を使ってカタナに風を纏わせる。


 そして放つ、薙ぎ払う回転切り。


 次の瞬間、周囲から魔獣の断末魔聞こえてきた。

 刀に切り伏せられた者。

 刀から発せられた風の刃に切り捨てられた者。


 そのどちらもAランクやSランクの相手には、運が良く無ければ通用しないかもしれない。

 だけど……お前ら程度になら届くぞ。


 そして……これでも。幸運という絶大な補正があったとしても、俺はここしばらくAランクやSランクの依頼を経験してきたんだ。

 その激しい攻撃を、目にして来たんだ。


 だから一度戦闘が始まればもう臆さない。臆してたまるか。


 ただ全力で切り伏せ。

 叩ききり続けろ!

 生き残ってみせろ!


 何の為に。


 俺という存在を肯定してくれた、アリサの為に!


 そして再び跳びかかってきた魔獣を切り伏せた。

 切り伏せ続けた。


「っらあああああああああああああああああああッ!」


 立てなくなるその時まで。





 そう、情けない話かもしれないけれど、俺は途中で立てなくなった。

 何度も何度もアリサの方から飛んで来るナイフに助けられながらも必死になって戦い続けた。


 刀の剣撃が間に合わなければ蹴りを叩き込み、刀が弾かれれば魔獣の顎にアッパーカットを叩き込み。攻撃を掻い潜りながらも刀を拾い上げ一閃する。

 そうやって魔獣を倒し続けたが……一人で二十数体程倒した段階で限界が来た。


 腕を噛まれて強力な突進を喰らって、背中を爪で抉られて脇腹を噛まれた当たりで膝を突き、脇腹に噛み付いた魔獣に刀を突き立て動きを止めた所で、俺の体は辛うじてあと少しなら体を動かせるかもしれないという様な状態にまで持っていかれていた。


 だけどそうなった頃にはもう既に残りの殆どの魔獣をアリサが無傷で倒していたんだ。


 一応二手に分かれはしたけれど、割くべき頭数を魔獣なりに考えたのだろう。当然俺の方にも多くの魔獣が群がっていたが、多くはアリサの方に向かっていた訳だ。

 故に俺がトドメを刺されるのを阻止して貰った段階で、魔獣の数は残り10を切っていた。


 だからこそ、そこから俺を守りながらの戦いが成立した。

 アリサの息は上がっていたが、それでも圧倒的な力を持つアリサの前に魔獣は一方的に蹂躪され、全ての魔獣を倒しきる。

 最後の一匹まで、危なげなく。


「終わった……やった……」


 荒い息でアリサはそう言った後、俺に向かって駆け寄ってこようとする。


「クルージさん! 大丈夫ですか!」


 だけどやはり俺のスキルを持ってしても、アリサは運が悪かったらしい。

 一体だけ。一体だけ倒し損ねていた魔獣がいた。

 おそらく何かしらの要因で傷が浅かった。まだ立つ。まだ動く。

 そしてそれにアリサは気付かない。

 疲れ切って集中力が切れかかっていたのかもしれない。


 そしてアリサのスキルを持ってしても、俺の運気は地に落ちてはいなかったらしい。

 その一体が起き上がった瞬間から、俺の視界に捉える事ができていた。


 そしてまだ辛うじて動ける力も残っている。


「伏せろ、アリサ!」


 俺は手に残っていた刀を、無事だった右手で。残った全ての力を振り絞り投擲する。

 それがうまく満身創痍の魔獣に突き刺さった。


 そして今度こそ、魔獣は倒れる。

 アリサが無傷で戦闘を終えられる。


「……ッ」


 そして今起きた事に驚いているアリサに対して俺は、グーサインを作って言う。


「この通り、大丈夫だよ」


 今のを投げられる位にはというつもりで言ったのだけれど、まあ冷静に考えれば俺はもうどう考えても大丈夫じゃない大怪我を負っている訳で。


「と、とにかく治療を! えーっと、何から……とにかく止血! 止血しないと!」


 全然俺を大丈夫だと思ってくれていなかったアリサは慌ただしく、応急処置の為のアイテムをポーチから取りだす。

 そしてまあ、絶妙にヘタクソな感じで包帯をグルグル巻いてくる。

 なんだろう、これ自分でやった方が良くない?


 でもまあ……その、なんだ。


 それをアリサが自分に使わなくても済んだのなら……きっと、この戦いはこの上なく大勝利なのだろう。

 それに俺がどれだけ貢献できたのかは分からないけれど、それでも。


 まあ、頑張ったと思うよ。


 次からはもうちょっと格好良くやりたいけれど。


「……クルージさん」


 そして俺を包帯でグルグル巻きにしながら、アリサは泣きそうな声で言う。


「……生きててくれてありがとうございます」


「ああ、こっちこそ助かったよ」


 ああ、そうだ、もっと格好良くやらないといけない。

 ちゃんとコイツの隣りに立って肩を並べられる位に強くならないと。


 だってそうだ。

 事ある度に泣かせる訳にはいかねえだろ。


 そしてアリサに俺は言う。


「……なあ、アリサ」


「な、なんですか?」


「やっぱ自分でやっていい?」


 このままやらせておくと、仕上がりがエグイ事になりそうだった。これ碌に体が動かない俺がやった方が絶対にいいぞ。


「い、いえ、ボクがやります!」


「いや、謙遜とかで言ったんじゃなくてだな?」


 ……まあなんにしても、クエストクリアである。

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