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29 まさかの緊急事態 上

 その後、俺達は俺の部屋へと入る事にした。

 話すべき事は話し終えた。だとすればいつまでも外に居るわけにもいかなくて。


「せ、先輩。とにかくタオル貸してください。このままじゃマジで風邪引くっすよ」


「ちょっと待ってくれ。今鍵開けるから」


 というかずぶ濡れのリーナをなんとかしなければならなかった。

 まあなんとかしないといけないのは俺も同じなのだけれど。


 そして鍵を開けて部屋の中に入った俺は、とりあえず玄関先に掛かっていたタオルをリーナに渡す。

 こういう時の為に玄関先には一応タオルを置いておいたのだ。まあリーナに貸しちゃったら俺の無いんだけど。


「悪いアリサ。洗面所にタオルあるから持ってきてくれね?」


「あ、はい分かりました。ちょっと待っててください」


 そう言ってアリサが靴を脱ぎ洗面所へとパタパタと小走りで消えていく。


「勝手知ったるって感じっすね」


「まあこの前一回来てるからな」


 と、そんなやり取りをしているとアリサが戻ってくる。


「とりあえずこれでいいですか?」


「おう、サンキュ」


 とりあえず洗面所付近に置いてあったタオルを受け取る。

 ……まあ頭拭いた所で、全身エグイ事になってるから焼石に水なんだけどね。

 ……まあいいや、とりあえず奥の部屋で体だけ拭いて着替えよう。

 本当は速攻シャワーとか浴びたい気分だけど、それ先約がいるし。


「あ、リーナ。とりあえずそこの扉の先が風呂な」


 一応リーナにシャワーを貸す事になってる訳で。俺はまあ使うにしてもその後だ。


「ありがとうっす。じゃあちゃちゃっと浴びてくるんで、もう一度言うっすけど覗かないでくださいよ」


「覗かねえよ」


 てか何。お前それ何度か繰り返されるとなんだか覗けって言われてるみたいなんだけど。


「あ、そんな訳で適当に着替え用意頼むっすよ!」


「おう」


 そんなやり取りを交わして、リーナが脱衣所に消えていく。

 そしてそんなリーナを見送った後、アリサが言う。


「覗き……ませんよね?」


「なんでそんな普通に心配そうなの? お前一体俺を何だと思ってんの?」


 流石にどいつもこいつも失礼である。

 ……まあそれはさておきだ。


「アリサ、ちょっと待っててくれ。俺もささっと着替えてくる」


「あ、じゃあ待ってますね」


 俺の家の事情を知っているアリサは素直にそう頷いた。

 俺の借りている部屋は風呂付の1Kだ。つまりは今部屋にアリサを上げてしまうと、全身ずぶ濡れで衣服オールチェンジ予定の俺は、アリサの前で言ってしまえば一旦全裸になる事になる。

 そんなのもう半分ヤバイ奴じゃん。


 そんな訳で服から極力水が滴り落ちないように部屋に入り、ささっと脱いでささっと体を拭いてささっと着替える。この間数十秒。早いのか遅いのかはしらん。

 まあとにかくこれで着替えは完了である。


「悪い、待たせた。もう部屋入ってきていいぞ」


「じゃあお邪魔します」


 そう言ってアリサが部屋の中に入ってくる。


「とりあえず適当に座っててくれ。リーナの着替え用意してからコーヒーでも入れる」


「はーい」


 そんなアリサを背に、俺はクローゼットを開く。

 そしてそこで重大な事に気付いた。


 ……うん、シャツとかはまあ貸せるのあるよ。

 だけどな、そう言えばこの前ジーンズ一つ駄目にして捨てちゃって、今俺の家にあるのはジーンズが二つとジャージが一つ。内ジーンズの一つは今絶賛ずぶ濡れ中で、もう一本は朝洗濯して外に干してたから無事死亡。

 そしてジャージ。俺今はいてるじゃん。


 ……え、ちょっと待て。これどうすんの?

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