5 成長への第一歩
「そんな訳で僕は一足先に退院させてもらうよ」
翌日の午後。シドさんが一足早く退院する事になった。
この病室に一番乗りでやってきて、その理由も食当たりなのだから当然と言えば当然だ。
「兄貴俺達が退院する前に戻ってくるとか無しですよ」
「ははは、大丈夫大丈夫。食当たりなんてのはその危険性のあるものを極力食べなければ、そうなる物じゃないからね」
そう言うシドさんだが、一拍空けてから小さくガッツポーズをして言う。
「しかし……ようやく解放だ、味の薄い病院食から」
「……心配だな」
「心配ですね」
俺とルークは口を揃えてそう言う。
本当に戻ってこなければいいけど。
と、まあシドさんの心配は程々にして。
「あの、シドさん」
「なんだい?」
「昨日話していた件……よろしくお願いします」
「ああ。任せておいてくれ」
そう言ってシドさんは頼もしい笑みを浮かべる。
……昨日。俺は一つシドさんに頼み事をした。
『戦いの指南をしてほしい?』
『はい、まあ俺が弱かったからこのザマなんで』
魔術の特訓はする。
だけど根本的な俺のスタイルは刀を使った剣術で、魔術はあくまでその補助でしかなくて。
もしも自分の得た交友関係の中で、それを伸ばせるかもしれない人がいるのなら貪欲に手を伸ばすべきだ。
『いいよ』
シドさんは二つ返事でそう言ってくれた。
『い、いいんですか?』
『向上心のある友人の頼みを断る理由なんてないからね』
シドさんとルークとは昨日色々と話して仲良くなって、今は友人として認識してくれているらしい。
それは素直に嬉しかった。
そしてシドさんは付け加えるように言う。
『それに……強くなればそれだけ死ぬ確率が減る。同業の友人がこれ以上減らない為に、僕のような立場の人間は積極的にそうするべきなんだと思う』
『そう……ですか』
その話はそれ以上掘り下げなかった。
掘り下げずとも言いたい事は理解できるし、何よりそれが人の傷を抉るような真似になるかもしれないという事位は察する事ができたから。
そしてシドさんもそれ以上、そういう後向きな話をするつもりはなかったらしくて、改めて俺に言う。
『ところでクルージ君の戦い方は刀を使う剣士スタイルだったかな』
『ええ、まあ一応そうなりますね』
『だったら僕が指南するより適任がいるね』
そう言ったシドさんは一拍空けてから言う。
『とりあえずキミがそれで良かったらなんだけど、まずは僕の方からアスカに頼んでみようと思う。教えるのなら戦闘スタイルが近い者の方がいいだろう』
『……確かに』
刀を使う冒険者は少なく、扱い方も他の武器とはそれなりに違う。
そんな中でアスカさんという刀好きは、もしも頼めるのなら最も適任な相手かもしれない。
『もしも駄目なら、その時は責任もって僕がキミに戦い方を教える。それで行こう』
『お願いします!』
と、そんな話が昨日あった。
だから退院するシドさんに、アスカさんに話を通してもらう。
……本当にシドさんには感謝しかない。
そしてルークにも。
「これで近い将来、アルティメットクルージさんが誕生する訳ですね」
「いや、ハードル上げるな。アスカさんとかお前とか、すげえ人に教えて貰うのって結構プレッシャー掛かるんだからさ。伸びなかった時の事考えると」
「いや、大丈夫ですよ伸ばしますし」
「頼もしぃ……!」
この入院中、ルークからも魔術について教わる事になっている。
なんかもう……本当に至れり尽くせりで、感謝の気持ちしか湧いてこない。
「とりあえず取り急ぎ、背後からナイフで刺されそうになっても辛うじてどうにかできるように、頑張りましょう。とりあえずあなたの場合、それが心配だ」
「お、おう……」
何その心配……。
と、そんな話をしていると病室の扉が開いた。
「あ、グレン」
「おう、元気そうだな。通院ついでに見舞いきたぞ」
病室にグレンがやってきた。