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101 新しい相棒 上

 その日はそれから、何も無かった。

 俺達は心身共にこの有り様だ。何も起きてくれなくて良かったと思う。

 とにかく何も起きなかったが故に俺達は心身の消耗の回復に努める事が出来た訳だ。

 それぞれこの時間でどの程度回復できたのかは分からないけれど。


 そして、その日の夜。就寝前。


「なあグレン。お前、荷造りとかしなくても良かったのか?」


 俺はグレンにそんな事を尋ねていた。

 明日には王都に出発する。それにしては衣服や持ち運び出来る程度の物を纏めていただけで、他に準備をしている素振りがなかった。


「言いたい事は分かるけど、考えてみろ。向こうで住むところも確保してねえのに持っていく必要のある物を運ぶだけ運んで、それからどうするんだよ」


「……確かに」


「そういうのは後日引っ越し業者に頼む。だから今は最低限だな」


「なるほど。じゃあとにかくまずは物件探しか……わりいな。今朝の段階じゃ向こう行ったらなんとか不動産位は付き合ってやろうかなとか思ってはいたけど……この怪我だとどうも難しそうだ」


「今朝の時点で無理な話だろ。気にすんな、なんとかなるって。お前はとりあえず病院直行して治して貰ってこい」


「ああ……そうするよ」


 グレンの言葉に俺がそう頷いた所でグレンが立ち上がった。


「……どうした?」


「いや、今の荷物の話してて大事な物用意するの忘れてたなって思ってよ。まあちょっと待っててくれ。すぐに戻ってくる」


 そう言ってグレンは部屋から出ていく。

 ……大事な物。一体何だろうか?

 まあグレンの私物が何かなんてのは俺が分かるような話ではなくて、別に分からなくてもいいような話で。

 俺はグレンが部屋に戻ってくるまでの間、昨日殆ど目を通す事が出来なかった魔術の教本へと視線を落とす。

 ……相変わらず難解。

 だけどそれでも歩みを止める訳にはいかない。

 俺の中にあった焦りのようなものは、少しだけ落ち着いたと思う。

 あまり褒められた感情では無いのかもしれないけれど、リーナの急激な速度での成長がおそらく止まった事で、俺一人どんどん置いて行かれるような不安が払拭されたからだと思う。

 最もアリサが相変わらず強いのは間違いなくて。

 なんとなくなんやかんやでリーナはこの先も強くなっていきそうで。

 アイツらに置いて行かれないようにという意味でも、今後とも頑張っていかなければならないのだけれど。


 だけど今こうして俺の背中を押しているのは、あの二人の存在だけではない。


 ……今日、俺達は偶然が重ならなければ全滅していた。

 運が良かったのかは分からないが、相手にアリサの母親がいたから。

 アンチ・ギフターズという連中が、そんな理由で俺達を見逃してくれるような連中だったから。


 そんな偶然が重ならなければ、もう俺達はここにいない。


 そして今日のような絶望的な状況に、冒険者として生きていく中で陥らない保証なんてない訳で。

 もし陥った場合に打開の鍵となるのは、自分自身の実力だ。


 自分自身も。仲間の命も。何も失わない為にも、もっと強くならないといけないのだ。


 だから歩みは止められない。

 そんなもの、止める訳にいかない。


 と、教本を読み始めて少しして、グレンが部屋に戻ってきた。


 ……鞘に入った刀を手にして。 

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