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92 親御さんへの挨拶

 そうやって優しい声音で話す女とアリサを前にして、俺達はいつまでも立ち尽くしている訳にはいかなくて。俺達は女に対してどういう反応を取ればいいのかも分からずに近づいて行く。

 すると女は俺に対して言う。


「あなたがクルージ君……よね?」


「……はい、そうです」


 俺がそう答えると、女は一拍空けてから言う。

 優し気な笑みを浮かべて。


「娘の事……よろしくお願いします」


 そう言って、深々と頭を下げられる。


「あなたのおかげでウチの娘は救われているんです。これからも仲良くしてやってください」


「……」


 娘の事を。

 ……これで確信が持てた。

 この人は……アリサの母親だ。


 そして母親なら尚更。強く言わなければならない。


「勿論です。俺なんかでよければ、こちらからもよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げた。

 言われなくてもアリサの隣りに居るつもりで、寧ろ俺がいてほしくて。

 寧ろこちらからお願いしたかったんだ。 


「……良かった」


 どこか安堵するようにそう言ったアリサの母親は、眠るアリサの頭を撫でてから俺達に言う。


「じゃあ私はこれで。後の事、よろしくね」


「……あの!」


 その場から去ろうとするアリサの母親に対し、俺は思わず言ってしまう。


「行ってしまうんですか?」


 ……あえて聞かなくても、アリサの母親がどうして連中と行動を共にしているのかは簡単に理解できる。

 SSランクの不運スキル。それをアリサの親として、どうにかしてあげたいのだろう。

 だからスキルを消し去るなんて事を目的としている連中と行動している。

 きっとそうだという事を。この人は娘の為にそういう事ができる人だと。この短い時間で察する事はできた。

 ……だとすれば。


「……その、アリサの為に色々とやってるなら、今はもう……アリサは大丈夫なんですよ?」


 アリサは一人暮らしをしていて。多分母親と会う様な事はしていない。

 ……その原因は多分、今やっている事なのだろう。

 だけど正直に言って今、もうその必要はかなり薄くなっていると思うから。

 だとすれば……アリサが目を覚ますまで此処に居て。一緒に帰るなんて選択肢も間違っていないのではないだろうか。


 そうでなくてもこれからの話を娘とする時間位は作れるのではないだろうか。


 だけどアリサの母親は首を振る。


「今はね。でもこの先どうなるかなんて分からないから。不運スキルなんて無くなるに越した事は無い。マイナススキルなんて、こんな酷い物をこの子の中に残しておく訳にはいかないから」


 そう言うアリサの母親の意思は強く感じ、こちらが何を言っても折れそうには思えなかった。

 そして、そんな事を言った後、一拍空けてからアリサの母親は言う。


 酷く重い表情で。


「それに何より……絶対にこの子がそれを望んでくれないから」


 重く、辛そうな表情で。

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