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ただキミを幸せにする為の物語 -SSランクの幸運スキルを持つ俺は、パーティーを追放されたのでSSランクの不幸少女と最強のパーティーを組みます-  作者: 山外大河
三章 人間という生き物の本質

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ex ただそれだけの言葉が欲しかったのだという話

 自分にとって過去にあった事というのは誰にも触れられたくない事だった。

 忘れたい過去だ。無かった事にしたい過去だ。もう見切りを付けたい過去だ。

 過去のリーナという存在を無かった事にして、今の自分としてやり直す。そんなつもりだった。


 だから誰にも踏み込まれたくないのだ。

 過去の自分を思い出すから。

 自分がこれから親しくしたい。親しくして見捨てられたくない。一緒に居てほしい。

 そういう人達に昔のリーナという情報を。もう無かった事にしたい情報を植え付けたくないから。


 だから過去の全てを隠蔽する。


 もっとも過去を隠蔽した所で今の自分にも生きている価値なんてあるとは思えない。何しろまだ自分という存在は、無かった事にしたい。過去の自分から何も変われていないから。

 現在進行形で、親の期待に何一つ応えられなくて面汚しで碌で無しでどうしようもない程に存在価値の無くて生きている価値が何一つない。寧ろマイナスでしかない自分という存在からは何も変わっていない。

 変われていない。

 どれだけ新しい事を。今周りに居てくれる人の為にできる事を覚えても、不安が拭えない。


 そんな中でだ。

 

『少なくとも俺達は、お前の事を生きている価値の無い人間だとか思ってねえからな』


『知ってると思うけど俺らは、効率とかセオリーとか実力とか、そんなの関係ねえ。仲良い奴等で一緒に仕事しようなみたいな、軽いノリで組んでるからさ、此処にお前がいるって事はそういう事だからな』


『お前がどう思ってようと、誰かにそういう事を言われたんだとしても! 俺達はそれを全力で否定するからな! ……だからこれからもよろしく頼むよ。お前がいるだけで賑やかで楽しいんだからさ』


 クルージは。

 冒険者としての先輩は、そういう事を真剣な表情で、きっと嘘偽りのない様子で言ってくれた。

 俺達はという事は、きっとこんな話が零れ出す前に、そうした話は三人の共通の認識だったのだと思う。


「……」


 分からない。分からないけれど。きっと自分は本当に飢えていたのだと思う。

 誰かから肯定される事に。だれかから自分にもしかしたら生きている価値があるのかもしれないと思わせてもらう事に。

 だから今まで嬉しかった。自分のやれる事を。やれるようになった事を褒めて貰えるのが。凄いと思ってくれるのが嬉しかった。


 だからこそ……だからこそだ。


 そうやって身に着けた物を肯定されるだけでも嬉しいのに。そんな物は関係なくて。

 今の自分という存在を。

 自分がなんの価値も無いと思っていた人間性そのものを肯定してもらえたのだとすれば。



 今こうして生きている価値が無いと言う自分の失言に踏み込んで、それを明確に否定して、肯定してくれたのだとすれば。



 それはきっと、本当に嬉しい事だと、そう思った。


 自分で否定しておきながら。隠そうとしておきながら。

 きっとそんな言葉を誰かに言ってもらえるのを待っていたんだと、そう思った。


「……はい。こちらからもよろしくっす」


 まだ自分の過去の事を話すつもりはない。この先にあるのかも分からない。

 自分でも触れたくない事だから。触れられたくない事だから。


 そんなもうどうでもいい、最悪な過去に意識を向ける位なら、今の自分を見て欲しい。

 ただ、それだけでいい。


(……頑張らないと)


 今日のこの一件で、自分のスキルが大体どういう物かは把握できた。

 後ろばかり向いている自分にとっては、一体本来自分に何ができるのかという事すら分からなくさせるような、そんなスキルだ。


 そして予めクルージ達が自分のスキルの事を察していたのだとすれば、多分色々不可解な事があった昨日の時点で皆色々と察してくれているように思えて。

 だとすれば察して皆何も言わなかったのだろうと。言わないでいてくれたのだろうと、そう思った。


 そんな皆の意思を、今こうしてクルージが代弁してくれたのだと、そう思った。


 だとすれば、自分なんかと一緒にいてくれる。

 自分を肯定してくれる人達には感謝しかなくて。


 逃げの感情なんかじゃなく。

 逃避なんて事ではなくて。


 この人達の為に頑張りたいと、そう思える様になってきた。

 元からあった筈だけど、逃避したい心に押しつぶされていたそんな気持ちが前へと出て来た。


 それは何かを覚えるという点では大きなマイナスでしかないのかもしれない。


 だけどそれでも……今日、一歩前へと踏み出せたような、そんな気がした。


 そして……そんな自分をきっと、否定しないでいてくれると思う。


 今自分の周りにいる人は。いてくれる人達は、そういう人達なのだから。

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