旅立ち
僕の生まれたところは、辺鄙なところだ。
スティール王国の端の端の端の町
…からも遠く離れた村
…からさらに何日も歩かなければ、たどり着けないような場所で生まれた。
まわりに人間は住んでおらず、時折、獣人が来る程度だった。
ただ、その獣人が友好的かどうかはわからないため、積極的に交流することはなかった。
物心ついた時には、母親がいた記憶はなく、父親と二人で住んでいた。
その父親も、病のかかり寝込む日々が続いた。
医者のもとに連れていくことも、医者を連れて来ようとしても、近くの村までは遠く
たとえ行ったとしても、そこにはロクな医者もいなければ、薬もないだろう。
薬草と食べ物を近場で調達して、父親を看病する毎日が続いた。
しかし、その必要もなくなった。
暫くは、何もする気力もなく、ただ茫然としていたが、
父親の亡骸《なきがら》そのままにしていては獣のエサになるだけなので、
家の近くに埋葬した。
そして、
父親を看病していた時から、考えていたことを実行する。
できるだけ長期間、獣にも獣人にも侵入されないように家を補強し、
入り口も、開けられないように内側から補強し、
屋根裏に秘密の出入り口を作って
僕は旅に出ることにした。
わずかな食料と、思い出をカバンに詰めて。
僕の名は「ジュン」
17歳の秋に、思い出のほとんどを捨てて、旅に出る。
目的地はとくには決めていないが
とりあえず、人のいるところに行こうと思う。
最も近い村まで、歩いて数日かかるが
食料がそこまで持たないので、
持ち出した食料は可能な限り使わず、食料を集めつつの移動になる。
そうなればさらに移動に時間がかかる。
野宿をするにも、場所を選ばないといけない。
村までの道は平原であり、周りにはほとんど何もない。
火を起こせば獣に対しては有効だが
ずっと、火が消えないように火の番をするわけにはいかない。
一番安全なのは、登れるほど大きい木を探して、その上で寝る。という手段しかない。
ただ…木の上に登ってしまえば、寝袋を使うこともできず、火を焚くこともできない。
秋といえど、もう冬も近くなっていた頃なので、真夜中になるとかなり寒くなる。
その日も寒かった。
うとうと。
寒くて眠れなくても少しは休んでおかないと、明日に響く。
ぎし…ぎし……
……しまった。気が付くのが遅れた。
ぎしぎしっ……
「やあ。オマエはこんなところで何をしてるんだ?」
俺の寝ていた木の上に登ってきたソイツはそう言った。