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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第二十二話

またもや先週更新できずすみません……。

こう、その……定期更新も難しいですよね(泣き言)――

「…………」


彼女の顔をまじまじと見つめるニーフ。そんな彼は、やがて感情の読めない表情のまま、おもむろに手についた自身の血を払った。


「……魔力は感じなかったが」

「あら、魔力の感知ができるのかしら」

意外といった様子でメリルが口を開く。


魔法を扱うジョブを獲得しているか、魔力感知を習得できるジョブを得ていない限り、人は魔力を感知することができない。ただ、高密度であったり可視化できるように意思づけた魔力なら例外として見たり感じたりはできるが。あくまでそれは例外であり、一般人が魔力を感じ取れないという法則は、旅人もこの世界の住人も同じだ。


そしてこの世界では、魔法を扱えるものはさほど多くない。十人いればそのうちの三人といったところだろうか。そのような塩梅であるからして、魔力が感知できる、魔法が扱えるというのは、それだけで一種のステータスとなりえる。言えばどんな場所であろうと仕事に困ることはないだろう。

だから、まさか暗殺者のような裏社会的な仕事をしているニーフが、魔力を感知できることは想像できなかった。


「けれどお生憎様。私は魔法を扱えないわ。さっきのは、純粋に剣技のひとつよ」

そんな魔法を疑う彼に対して、メリルはおどけたように肩をすぼめてそう答えた。

「私のことをどんな風に聞いているかは分からないけれど。魔法が使えるなんて噂は、ひとつも聞いたことはないんじゃないかしら?」


「…………そうだな」

先ほどまで猟奇的な笑みを浮かべ、言動さえ変化していたニーフ。しかしいつの間にかその雰囲気はなりをひそめ、出会った当初の暗い状態に戻っていた。メリルの不意の一撃が、彼を冷静にしたのかもしれない。見定めるかのように、じっとメリルを見つめている。


「まあ、兎に角。次は私がお相手するわ。その子は関係ない。傍から離れなさい」


少し声のトーンを落としてメリルはそう告げる。彼女からそんな言葉が聞けるとは思っていなかったのか。ニーフは口元に小さく笑みを浮かべた。


「……随分とこのガキに執着しているようだな。先の傭兵については、死しても動く素振りを見せなかったのに」

「当然よ。その子は私の弟子ですからね」

「弟子? 精々小間使い程度だと思っていたのだが。……っは、面白い冗談だ」

そう嘲笑しニーフは、ちらりと地にうずくまるオーレンを見下ろした。


「立ち振る舞いからして、こいつは武術自体まともにやったことがないのだろう。それに加え、常人に非ざる魔力を感じる。どう考えても魔法使いだ。それを弟子にだと? 老いを忘れた身ながら、耄碌したのか」

「随分な言い草ね。確かに彼は魔法使いだけれど、素質はあるわよ? 今はまだ駆け出しでしかないけれど、いずれ大成すると思うわ」

「それは随分な評価だな」


ニーフが発したのは、メリルの物言いをあまり信じていなさそうな投げやりな返答。そんな彼は、しかしおもむろにオーレンの傍から数歩離れる。油断ならない様子で見据えてくるメリルを警戒してだろうか。


「……オーレン君、大丈夫かしら?」

その場から動かず、また極力ニーフから目線を外さずに、メリルはうずくまるオーレンに向けて声をかけた。ようやく吐き気が収まってきていた彼は、弱々しくも顔を上げる。


「は、はい……何とか」

「気が参っているところで申し訳ないのだけれど。神聖系の魔法は使えたりしないかしら?」


神聖系の魔法というのは、神官が扱うことのできる回復や支援魔法のことを言う。そしてこのネーミングはこの世界独自のもので、同様の魔法は、旅人の中では光魔法というくくりで語られる。

オーレンは首を横に振った。


「……すいません、使えないです」


精霊使いとソーサラーという二つの魔法系のジョブを持つオーレンだが、そのどちらも光魔法は使えない。攻撃や一部支援は扱えるのだが、回復魔法については門外漢。オーレンのパーティでは唯一ミヤビだけが使用でき、仲間内の回復は彼女が一手に引き受けていた。


「そう。まあ魔法使いといっても、オーレン君は神官ではないものね」

淡々と確認するメリルに対し、多少落ち着きを取り戻しつつあったオーレンは疑問を覚える。


なんで急に光魔法の話なんか……。


光魔法の領分は、回復と支援。攻撃魔法もゼロではないが、やはり他の属性魔法にはない最大の特徴はその二つだ。それが必要だということは、何か治療をしてほしいということだろうか。


もしかして、ログライさんの治療が間に合うとか!?


一瞬そう思い浮かんだ思考は、すぐに違うと察した。さすがに首まで落とされたものを回復させる魔法なんて、存在しない。規格外の存在である旅人ですら所有していないのだから、この世界の住人が扱えるとも思えない。


それならいったい何に必要なのだろう。まさか、浅く切られたニーフの傷でも癒すつもりなのだろうか。あんな笑顔で人が殺せる悪魔に。

オーレンはあれこれと考えを巡らせる。だが答えは出ない。そんな混乱気味のオーレンに対し、メリルは言葉をつづけた。


「辛いことをお願いすることになるのだけれど。ログライのこと、死霊たちにいいように扱われる前に、焼いてあげられないかしら」


その言葉でオーレンは思い当たることがあった。


光魔法は回復と支援の魔法であると思われがちだが、ほかにも特徴的なものがあった。それは、死霊系の魔物に特に刺さる浄化魔法だ。生身には一切効果がないが、実体のない幽霊型の魔物やアンデッド系の魔物を一撃のもとに葬り去るという、特化型の魔法である。


そういえばこの世界の住人は、死者に浄化魔法を施すことで、人間が死霊に操られアンデッドとならないようにすると聞いたことがある。それが出来なければ、火葬に処すと。


「……分かりました」


オーレンはよれよれと立ち上がり、ログライの方へと歩み寄る。その際、ニーフがちらりと視線をよこしてきたが、メリルのけん制が利いているのか動きは見せなかった。


近づくにつれ濃くなっていく血の匂い。まだその匂いに慣れないオーレンは、その残酷な光景と相まって胃の中がきりきりと痛むのを感じる。そして一か月程度と付き合いは短いが、仲良くなった彼との思い出がよみがえる。


「……なんでそんなに、あっさり死んじゃうんだよ」


見るからに屈強そうな剣士。負けることなんて一切考えていないような豪快な性格。にも拘らず、彼はあっさりと命を落とした。それが武人としての運命なのか、現代育ちのひよっこであるオーレンには分からない。


「……いかにも死ぬことなんてないみたいな格好にしてるのにさ」


何とも言えない気持ちがオーレンをさいなむ。これは、悲しみだろうか、それともニーフへの怒りだろうか、はたまた人の死というものを直視してしまったための衝撃か――


「……………………」


オーレンはゆっくりと地に膝をつくと同時に、手のひらを地面に添える。



「万物に宿りし精霊へ乞い願う――」



そして精霊魔法の詠唱を始めた。精霊使いであっても、初級程度の火の魔法であれば精霊を介さずとも発動させることができる。

しかしそんな味気ない炎よりは、せめて精霊の宿る炎で焼いてあげたかった。


「……火を宿す精霊よ、我が概念の補強を以て顕現せよ」


以前竜巻を発生させる竜を召還した時とは比べ物にならないほど小さな魔法陣。そこから召還されたのは、鬼火のような十五センチ程度の炎の塊であった。

その塊はオーレンがログライへと目を向けると、それに従うように飛んでいき、倒れ伏す彼の上を何週か旋回する。直後、その旋回した軌跡に合わせてログライを覆うほどの火柱が上がった。精霊が宿っているおかげか、その炎には光の粒のようなものが舞う。


「…………」


着々とログライを焼き消していく炎を、オーレンは悲しそうな表情で眺めていた。


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