第十七話
GWいかがお過ごしでしたか。自分は実家に帰省してあちこち家族に連れられ、気が付いたら終盤でした――
365連休がほしいです。
令和もよろしくお願いします。
「おい坊主。あの光の柱が何か知っておるのか?」
キョトンとしているログライに対して、オーレンはどこか表情が硬い。それを横目で捉えた彼は問いかける。するとオーレンは「……多分ですけど」と一つ前置きして口を開いた。
「あれは、転送装置が作動した時のもの……じゃないかな。ログライさんが来た時も、丁度あんな感じだったんで。誰か新しい人が、この仙境に来たんだと思います」
「ほう、新たな来訪者か!」
「……なんでログライさんがそんな嬉しそうなんですか?」
オーレンの言葉に、ログライはひと際表情を明るくした。その変化にオーレンは首を傾げる。何故そんなにも彼が来訪者を歓迎するのか。……そう疑問に思ったが、次の一言でその理由が明らかになった。
「ここに招かれるということは、一角の武人ということであろう? ならばその力量は如何ほどか、試してみたくなるのが男というものであろうよ」
「……単に戦闘狂なだけじゃないですか」
一体どんな理由が出てくるのかと思いきや。ある意味彼らしいといえば彼らしい回答に、オーレンは思わず目を細めた。
「~~っ。多少なりとも剣を振れるようになったとはいえ、まだまだ性根がなってないのう! 剣乙女の一番弟子がそのような軟弱な姿勢でどうする!」
それほどオーレンの言葉に口惜しさを感じたのか、ログライは大仰に天を仰ぐと、がっしりとオーレンの肩に手を置いた。
「戦士たるもの、語り合う術は言葉のみに非ず。むしろ口先だけのものなど、真なるものではない。その者が一体どのような人物なのか――我々剣を抱く武人は、その剣でこそ語り合うべきなのだ。相手の使う剣術から、その生涯を垣間見るのだ。剣は口以上に、その者の人となりを現すぞ? 坊主はまだ本気の『語り合い』というものを体感したことがないから、ピンとこないもかもしれぬがな。だが、その心意気は常に持っていてほしい」
いつにも増して真剣な表情で語るログライ。別に責めるような姿勢は見受けられないが、じっと真正面から見下ろされてしまうと、自然と圧倒されてしまう。
「……わ、分かったよ」
オーレンが圧倒されつつもおずおずと頷くと、ログライは「うむ」と小さく口元に笑みを浮かべ、ポンポンとオーレンの肩を叩いた。
「……さて坊主。来訪者ということだが、この後はどうしているのだ? 迎えに行くのか? それとも、相手が来るのを待つのか? そう言えばワシの時は、坊主が一人で出迎えをしておったな」
ちらりと光の柱の方を振り返ると、その光は徐々に収まりつつあった。その様子をぼんやりと見つめながら、オーレンは「うーん……」と小さく唸る。
……ログライさんの時は、丁度メリルさんが出ていたから勇み足で様子を見に行ったけど。普段メリルさんはどうしてるんだろう。
いくら思考を巡らせても、そもそも見たことも聞いたこともない領域だ。案何て浮かぶわけがない。そう思い、早々に思考することを破棄したオーレンは、ちらりとログライを見上げた。
「……取り敢えず、メリルさんのところに行きます? 多分メリルさんの指示に従った方がいいと思うので」
「まあ、その通りよな」
オーレンの提案に対し、異論はないとばかりに肩をすぼめるログライ。お互い意見が一致したことを理解すると、二人は小屋の方へと足を延ばした。
「まさかこんな立て続けにお客さんが来るなんて、いつぶりかしら」
あれだけ光り輝いていた柱は、もはやほんのわずかに見て取れる程度の弱さへとなり果てていた。その弱い光を目印に、オーレンとログライにメリルを加えた三人が、肩を並べて歩を進める。
雲を眼下に望む仙境の陽気はうららかで、時折吹く風も心地よい。絶好のピクニック日和といったところだが。各々が携えているのは、人殺しの道具である剣。
『人によっては、目が合ったとたん襲い掛かってくるような狂人も過去いたのよ。だから、出迎える時でも油断はできないのよね』
若干遠い目をしながらそう嘯くメリルに倣い、彼らは武装しているのであった。随分と精神的な距離を感じる出迎えになるであろうが、そういう事情なら仕方ない。オーレン自身も、遠距離なら全然戦えるのにっと歯噛みしながら武器なしで蹂躙されるようなことは勘弁願いたい。
というか、そもそもそんな話の通じない人とは巡り合いたくない。
「そんな珍しいんですか?」
スタスタとメリルの横を歩きながらオーレンが問いかけると、彼女は「そりゃあ、ねぇ」と肩をすぼめた。
「誰も彼もがここに来ることができるわけではないから。一定以上の実力を兼ね備えた剣士っていう枠組みを考えれば、相当数が限られそうということは、想像できるでしょう?」
メリルの言葉に、オーレンはなるほどと小さく頷いた。
この世界では食料を確保するために狩りをすることが多いし、そもそも魔物なんてものが蔓延っていたりする。そうすると自然と戦う能力を身に着けた人というのも多くはなるだろうが。子供のころからスポーツをやっていたという人のすべてがプロになれるわけではないように、剣を握る機会が多いからと言ってこの仙境へ至ることはないのであろう。そのような猛者は、ごく一握り。それに『剣』というくくりのみで考えれば、その数はさらに減る。
例えば、野球で考えてみる。邦人選手で日本からメジャーへと渡る人物がいかほどいるかと考えてみると。最近増えているとはいえ、精々数年でいくらかといったところか。野球人口がどの程度の規模なのか知らないが、数万なんて数値ではないはず。そのうちの数人となれば、本当に一握りだ。
まあ日本の野球人口とこの世界の剣士の人口……母数の違いが判らないのであくまでイメージになるが、そんなスケールで考えれば、一か月程度で二人も来客がくるのは珍しいことなのかもしれない。たぶん。
「どんな人が来るんでしょうかね?」
「さあ? それは実際に拝んでみないことには分からないわね。若き天才というのもいれば、老獪な剣士って方もいらっしゃるから」
割とのんびりとした調子でそのように口にするオーレンとメリル。やはり彼女は、どんな相手が来ても負けることはないという自信が根底にあるのかもしれない。
ちなみにオーレンはただ単に来客目線の他人事気分だ。
「剣乙女殿よ」
とそこで不意にログライが口を開いた。それをうけてオーレンとメリルは彼の方を振り返る。ログライの顔には、やはりというか案の定というか、不敵な笑みが浮かべられていた。動きたくて仕方がないといわんばかりに、肩を回すしぐさも見せる。
「もしその来訪者とやらが仕合を願った場合、ワシを先に戦わせてもらえんか? どうせワシに勝てないような輩であったら、お主が出る幕でもなかろう。……どうだ?」
「……貴方、本当にそのあたり正直よね」
思わずといった様子で足を止めたメリルは、呆れた様子で腰に手を当ててログライを眺めた。当の彼はそれすら意に介していないようで、未だに目は輝いている。
「一応私の来客予定なんですけれど?」
「まあそう固いことを言うでない。お主と違ってワシはごく一般の傭兵風情だからの。長い間実戦を退いていたら、勘が鈍ってしまうのだ。前座という端役で十分であるから、どうか先槍を許してもらえんか」
「…………」
小さく首を垂れ両手を頭の上で合わせながら、ちらちらと目を合わせてくるログライ。そんな彼の様子に、メリルはやがて諦めたようにため息をついた。
「……まあ、良いでしょう。確かに貴方に勝てないようでは、もとより私に敵う相手ではないだろうしね。良い指標にでもなって頂戴」
「よしきた!」
豪快に笑いだすログライを無視して、メリルはちらりとオーレンに目を向ける。彼女はやれやれといった様子で肩をすぼめた。
「オーレン君は、あんな野蛮な成長をしない方が賢明よ? さすがにあれは、好みがわかれると思うわ。少なくとも、私はああいうてらいはあまり良いとは思わないわね」
「そ、そうですか……」
そんなこと言われても、彼のような奔放な生き方ができるなどとは、端からオーレン自身も思っていない。
どう言葉を返すのが正しいのか、今までの人生経験からは導き出せなかったオーレンは、取り敢えず苦笑いを浮かべるのが精いっぱいであった。




