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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第八話

「……ところでよ。お前一人か? ギルの旦那とかはどーした?」


合わせた拳を離した後、ジェリクは周りを見回した。想像していた面子がいないことに疑問の声を上げる。それにオレは肩をすぼめて小さくため息をついた。

「オレ以外はみんな遠征さ」

「遠征? お前を抜いて? どういうこった?」

「なんか、シシリーのジョブクエストをこの街で見つけてな。それの定員が四人だったんだよ。んで、オレが留守番」

「聖王都で始まる定員四人のジョブクエストで、遠征……」

そこまで聞いて、ジェリクは考え込むように顎に手を当てた。


「……それって、『ディーディスタール遺跡調査の護衛』っていうクエストじゃねえか?」


やがてなにか思い当たったのか、ジェリクが横目でオレを見つつ口を開いた。その横文字の雰囲気に聞き覚えのあったオレは、「あぁー……」と天を仰ぎ、ついで目を丸くした。

「確かそんな名前のクエストだった気がする。……さすが情報屋、知ってるんだな」


実はこのジェリクと言う青年、基本的に戦闘系のクエストをこなして小遣いを稼ぐ、ごく一般の旅人と同じ生活をしているが、その裏で情報屋家業も営んでいる。情報屋と言えばこいつ……というほど名が知られているわけではないが、知っている人は知っているという感じだ。

オレらも何度かその情報網にはお世話になっていたので、的確にクエスト名を言い当てられたことに面を食らいはしたが、驚きはない。


「まぁ、な。……しかし、あのクエストをシシリーちゃんがねぇ」

そのジェリクは、「はぁー」と感心するように何度か頷く。オレは彼の言葉の意図が分からず首をかしげた。

「あのクエで手に入るジョブって、なんなんだ?」

「お? まいどあり?」

気になってオレがそう聞くと、ジェリクのやつは急に口元に笑みを浮かべて、手の親指と人差し指で円を作りだした。……情報料を取る、ということだろう。オレはジェリクをジト目で見る。


「……金取られるくらいならいいわ別に。どうせ数日待てば分かることだし」

「そうカタイコト言わずにさぁ。今なら特別情報をサービスしてやるから」

「特別情報?」

「そ。ついさっき仕入れた新鮮な情報だ」

「金額はお前の誠意に任せてやるよ」と含みのある笑いを浮かべ始めたジェリクに、オレは仕方なくメニューを開く。そこから駄賃程度ではあるが数枚の硬貨を具現化させると、それを放り投げた。その放り投げられた硬貨を、ジェリクは器用に片手で掴み、金額を確認して苦笑いを浮かべた。

「今日明日の食費が浮くくらいか……相変わらずケチくせえが、まぁまいどあり」


無造作に腰に括り付けている安物の袋に硬貨を突っ込んだジェリクは、手招きをした後に歩き出した。オレはとりあえず歩き出したジェリクの横につく。




「……で、あのクエで手に入るジョブってなんだよ?」


当たり前のことだが、情報屋は情報を商品として取り扱う。その時に注意しなければならないのは、情報の漏えいだ。意図せず漏れてしまえば、その情報では稼げなくなってしまうから、情報屋は細心の注意を払うという。

なので基本的に情報屋は情報の漏えいを恐れて、売買を行うときは人目のつかないところ選ぶ。


「あぁ。あのクエストで手に入る職は『ルインプロフェッサー』だ」


だが、ジェリクはその『基本的』にあてはまらない。

彼の言い分によると、「人気のないところのほうが、逆に嗅ぎつかれる可能性が高いってもんだ。人通りの多いところで堂々と話してた方が、気にされないもんだぜ?」らしい。

……確かに言いたいことはわかるが、それでいいのかとオレは思わなくもない。だが、これで別段問題なく仕事をこなしているらしいので、方針として間違いではないのだろう。まあ、それでも最低限情報は選んでいるらしいが。

今回は公の場で話し合っても問題ない部類に入るようだ。


「特徴は?」

「まぁ、罠の有無のアイコンが確率で出てくる『罠感知師』とダンジョンのマッピングに補正がかかる『マッパー』、あとは索敵・敵の目につきにくい隠遁スキルとか持ってる『影法師』を足したような職だな。俗にいう基本上位職ってやつだ」


ジェリクが口にした三つの職は、基本職と呼ばれる職業だ。一つのステータスに影響を及ぼす程度の性能を持つ職は、大体基本職に分類される。

一方習得することにより、扱える武器が増えるような職で習得の敷居が低い物……シシリーの『ガンナー』やオーレンの『アーチャー』は戦闘下位職、あるいは単に下位職と呼ばれる。


基本上位職というのは、一つの職で基本職のいくつかを足したような性能を得られる職の事だ。それだけでなく、合わせられている基本職は、どれも上昇補正をかけられるのも強さの一つにある。

今回話に出てきた『ルインプロフェッサー』も、基本職を複数足した性能を持っていると言う事で、基本上位職だ。加えて、それぞれに上昇補正もかけられていることだろう。


上位職……基本上位職のほかに戦闘上位職というのもあるが……は、未だ知られているものの数が少ない。


恐らく、数そのものが少ないものと考えられるが、出現には何か特殊な条件も絡んでいるのではないかという憶測もあり、分析には相当の時間がかかっているようだ。

そして一部例外として、たった一人だけが習得したという実績がある職は、ユニーク職と呼ばれる。これについては、現在二つしか発見されていない。どちらの保有者もユニーク職持ちとして有名で、攻略組の大きな柱になっている。


「この職を得たやつらは攻略組にも数えるほどしかいねえぞー?」

「まじで? ダンジョン攻略にはすげー便利そうだぞ、その職」

ジェリクからの情報だと、件の『ルインプロフェッサー』なる職は、未知ダンジョン攻略の際に重要視される基本職が選りすぐられている印象を受ける。まさに遺跡調査の専門家と言えるだろう。


つまりシシリーは、攻略組に入っても役に立てる力を得るってことか……。


そう考えると、彼女の今の境遇は分不相応かもしれない。

どう考えても、なんとか中堅どころに食いついている程度でしかないオレたちといるよりも、攻略組の方々に混じった方が、お宝や新鮮な情報など得るものは多いだろう。レアなお宝が取りつくされ、マップ情報が売られているようなダンジョンに、ほんの一部の取りこぼしを探す様な今の生活よりは、よほど有益な時間を過ごせるはずだ。


明らかなお荷物だって、いることだしな。


少人数で旅をする以上、全員であたってこなせるほどの難易度のダンジョンやらクエストをこなすことになる。それはつまり、オレと言うお荷物の実力分だけ、臨めるダンジョンやクエストに制限がかかると言う事だ。実力があるオレ以外の四人にとっては、いつも気にしていないと声をかけてくれるが、内心消化不良を感じているのではないだろうか。




「…………お前さー、また考えてるだろ」

「え? ぶふっ」



ジェリクと並んで歩いていると、不意にやつが腹に拳を一発入れてきた。彼にとっては、当てる程度の軽い一撃なのだろうが、向こうの世界では考えられない膂力を基準にした手加減だ。一般人に毛が生えたような性能しかないオレのステータスでは、やつの威力は吸収しきれない。吹き飛ぶまではしないが、二・三歩よろめく。背後にいた通行人たちが、迷惑そうに横を通り抜けた。

すんません、名も知らぬ方々。


「な……なにしやがんだよ突然っ」

突然の悪行に割と真面目に怒声を上げる。するとジェリクは逆にやれやれと言った感じで首を振った。

「お前がしょーもない考えをしてるからだろ」

「なんだよしょーもないって!」

オレは一撃を入れられたあたりをさすりながら、反省の色が見えないジェリクに食って掛かる。ジェリクはそれにやれやれと首を振り、呆れた様子で口を開いた。


「どうせお前、今『オレみたいなお荷物といるよりは、攻略組に混じった方がー』とか思ってたんだろ?」

「う……」

全くの図星である。


言い当てられたじろいているオレを見て、それみたことかとジェリクは大きくため息をついた。

「相変わらずネガるのが好きな奴だな。確かに今はなんもねーかもしれねえけど、こっから先あるかもしれねえだろ? 前を見ろって前を」

「なんなら気分転換に――」と不意に言葉を切り、ジェリクがオレの肩に腕を置いてきた。いきなりなんだと身を引こうとしたオレだが、やつの力の方が圧倒的に強い。顔を近づけて来たジェリクは、音量を下げてアホなことを言いだした。



「お姉さんときゃっきゃうふふ出来る場所紹介してやろうか? 結構いいトコあるんだが」

「アホかお前は!」



反射的にオレはやつのがら空きの腹に肘鉄を食らわす。だが、鍛え抜かれた腹筋にオレの筋力が勝てるわけもなく、逆に岩にでもぶつけたような痛みを食らってしまった。

「ははは、冗談だよ冗談。まぁ、ガチで行くのもやぶさかじゃねーぞ俺は? どーせお前一人じゃいけねえだろ。童貞だもんな」

「……お前と言うやつは。好きで童貞守ってるわけじゃねえ……」

豪快に笑うジェリクを前に、オレは痛む肘をさすりながら大きくため息をついた。


確かに、彼の言うことはもっともだ。

ずるずると自分を貶めるのは、本当にしょうもない。気落ちするのは勝手だが、周りの者にとっては良い気はしないだろう。後ろを見るよりは、何かあるだろうと前を見ていた方が自分にとっても、周りにとっても精神的にいいはずだ。


オレは、小さくため息をついてぽりぽりと頭を掻く。

「はぁ……悪い、ちょっと考えすぎたわ」

「まーいいさ。お前も苦労してるっぽいからな。そう考えるのも仕方ねえってもんだ」

慰めのつもりか、ばしばしとジェリクが背中を叩く。オレはそれに「い、痛いからっ」とそそくさと距離を置いた。

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