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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第十二話

先週は更新が出来ず申し訳ありませんでした……。

その後しばらく、メリルとログライは苛烈な仕合を続けた。

本当に加減するつもりがあるのかと疑わしくなるほど、両者の攻撃は容赦がない。急所すれすれの斬撃、まともに食らえば内臓まで潰れてしまいそうなほどの打突――その悉くが両者の技量の高さゆえに空を切っているが、一度でも当たってしまえば重傷は避けられないだろう。血塗れみたいなグロい光景を極力見たくないオーレンとしては、非常に気が気じゃない。


にも拘らず。両者の口元には笑みが浮かんでいる。


お互い、心底楽しそうに手合わせをしているのだ。彼からすれば正気の沙汰ではない……ないのだが、恐らくこれが武人である彼らと自分との違いなのだろうと思う。オーレンは、ここまで切羽詰まった戦闘は楽しめないし、やりたいとも思わない。というか、後衛である彼がここまで攻め込まれている時点で、戦線は瓦解しているということと同義なのだが。


……まあ、格好いいとは思うけどさ。


元々このような近接戦闘に憧れのようなものはあった。仲間を背に守りながら戦う、勇敢なる戦士。それはまるで、物語の主人公のよう。後衛の自分ではあるが、そんな姿に少なくない浪漫を感じたからこそ、メリルの弟子入りを容認したのだ。だから、細部の技術や駆け引きは分からないけれど、目の前の仕合から感じ入るものはあった。


オーレンはおもむろにウィンドウを開き、進行中のクエストを確認する。そしてその一角に追記されている、昨日から変わっていない数値をにらみつけた。


「……絶対に覚えてやるからな」


オーレンは自分を奮い立たせる意味も込めて、ぽつりとそうつぶやいた。


そうオーレンが決意を新たにしていると。不意にひと際大きな金属同士の衝突音が鳴り響いた。驚いてシステムウィンドウから顔を上げると、視界の端に何か飛来するものが映る。

その飛来物は真っ直ぐにこちらへと近づいているようだった。


「え――」


危ないのでは……とオーレンの頭が遅ればせながら警鐘を鳴らし始めたころには、それはオーレンの足元から横五十センチ程度の距離のところに突き刺さった。飛んでいる最中は猛烈な勢いで回転していたため何物か分からなかったが。晴れて落下したことにより全貌が明らかになった。


飛んできたものは、半ばで切断された直剣の刃先であった。



「う、うええぇっ!?」



オーレンは今更ながら慌てて距離を取ったが、全く持って無意味。あと数十センチずれて飛んできていたら、オーレンの腕は切り飛ばされていたかもしれない。いやむしろ貧弱な彼の腕なら余裕で吹き飛んでいただろう。それほどの勢いだった。


「なななななななな?!」

心臓をバクバク、口をパクパクさせながら、オーレンは飛んできたであろう方向を振り返る。視界の先に映ったのは、至近距離で対峙するメリルとログライであった。


先ほどまで目で追うのも難しい程の高速戦闘を繰り広げていた二人であったが、今は完全にその動きを止めている。

二人が身動きを止めた理由。それは、仕合の勝敗が決まったからであった。


メリルの持つ剣の切っ先が、ログライの首筋に当てられていた。


見ると、ログライの右手に握られている人の背ほどもあったはずの長剣が、その半ばで消失しており、不格好な短剣と化している。飛来物の正体はこれか……とオーレンは内心で大きくため息を吐いた。



「……いやあ、これはしてやられた」



首筋に剣を向けられつつも、臆せずメリルの表情を窺っていたログライ。そんな彼は、不意に苦笑いを浮かべてそう漏らした。そして降参とばかりに両腕を上げた。

「剣乙女相手に善戦していると思ったのだがなぁ。成程、まだ余力を残していたというわけか。……いや、加減をしていた――と言った方が正しそうだな」

ログライに戦う意思がなくなったことを悟ったメリルは、隙なく構えていた剣をおもむろに引いた。そしてそのまま腰の鞘へと戻す。


「当然。腐っても聖剣を頂くほどの剣豪ですからね。生半可な実力では勤まらないわ。……でもまあ、貴方も流石はここまでたどり着けるほどの人物。それなりに良い運動になったわよ」

「『良い運動』ときたか……。ぬうぅう、悔しいのう」

あっけらかんと話すメリルの言葉に、彼はがりがりと頭を掻く。しかし直後には悔し気にゆがめられていた表情を戻し、さらには口元に笑みを浮かべ始めた。


「だが、想像以上でワシも喜ばしい。美しく、気位は高く、さらには強いときた。元々良いと思っておったが、この仕合でさらにその思いは強まったわい。もはや最高と言ってもよい! どうだ、ワシの女にならんか?」

「……残念だけれど。丁重にお断りさせていただくわ」


あれだけ命の奪い合いにも発展しそうな仕合を経た直後だというのに、ログライは改めてメリルに言い寄る。戦闘直後であることも相まって、その鼻息は荒い。そんな彼に半眼を向けたメリルは、呆れ気味にそれだけ答えた。


その後メリルはあっさりとログライから目を離すと、疲労を感じさせない歩みでオーレンの方へ近づいてきた。かなり激しい動きをしていたはずなのだが、近づいてみれば多少汗をかいている程度。息の乱れもほとんどない。

「どうだった、オーレン君? 何か感じ入ることはあったかしら?」


そんなスタミナお化けの彼女は、オーレンの横に突き刺さった剣の破片を引き抜きながらそう口にした。その際前かがみになったことで、服の隙間からその豊満な胸の谷間が少しだけうかがえた。

少し上気した肌がしっとりと艶めかしい色合いを映し出してそれはもう――


なんで戦闘時はあんなに隙が無い立ち振る舞いしてたのに、こういうところは無防備なんだよっ。


そこまで考えたところで、シャイボーイなオーレンは慌てて目をそらした。だが、反らした後も脳内では勝手に先ほどの映像が再生され、頬が熱くなる。


そんなオーレンの動きを目ざとく気が付いたメリルは、最初は不可解な様子で眉をひそめたが、やがてちらりと自身の胸元に視線を落とすと、納得したように頬を緩ませた。それどころか、口元にもだらしない笑みを浮かべる。恥ずかしがるオーレンの動きがツボだったのだろう。だが、直後一瞬でその表情を元に戻すのだから、己の律する力が強いと表現すればいいのか、はたまた取り繕うのがうまいというべきなのか。


ともかく、メリルは内心黄色い声を上げつつも、涼やかなまなざしでオーレンを眺めた。そんな彼女の表面面に騙されたオーレンは、胸元を見ていたことはばれてなさそうだなと内心ほっとする。そして慌てて誤魔化すように頬を掻きながら口を開いた。


「感じ入ることというか……。正直レベルが高すぎて、二人が何をやっているのか全然わからなかったって言うのが本音なんですけど。……それでも、なんだろ。格好いいなって思いました。僕も、あそこまで行かないにしろ少しでも動けたらいいなって……」

口にすると改めて先ほどの仕合が目に浮かび、オーレンはどこか逸る気持ちを抱いた。そんな彼の機微を感じ取ったメリルは嬉しそうに笑みを浮かべ、優しくオーレンの頭に手を置いてきた。


「そうね。いくら旅人とはいえ、本職でない人が追い付けるような仕合ではなかったから、分からないのも無理はないわ。けれど、ただ無関心に眺めているだけでも駄目だった。そんな中、オーレン君は自分を鼓舞する気持ちを抱いてくれた……。その気持ちを、大事にしてちょうだい」

「は、はい……」

思った以上に筋だった手をしていたことに内心少し驚いたが、唐突に頭を撫でられたことにオーレンは恥ずかし気にうつむいた。

対して、オーレンの頭を撫でることに成功したメリルは、内心小躍りしていた。昨日ログライが行っていた行為が羨ましくて仕方がなかった様子。どれくらい触っても大丈夫かしら、と加減を窺いつつ楽し気にオーレンの頭を撫でていた。




「…………やれやれ、真の勝者は坊主と言うことか?」



そんなオーレンとメリルを遠目で見ていたログライが、不満そうに口を尖らせたが、当人以外は気が付かなかった。


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