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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第八話

「とは言え。剣乙女の異名がありながらも、戦績を見ればおおよそ人間とは思えないものだ。勿論多分に誇張されている部分もあるとは思うが……。しかし数百年も昔の古代の人間でなく、ここ数十年の人物であるにも関わらず人物画が一つも残っていないとなると……。案外、化け物のような女であったりしてな」


うんうんと神妙な顔つきで悩みながら、ログライがメリルに対する考察をとんでもない方向へ飛ばす。横でそのつぶやきを聞いていたオーレンは苦笑いだ。

マンガやアニメ脳のオーレンとしては、そんな偉業を成し遂げた人物がメリルのような美女だとしても納得できてしまう。だが実際に生身で戦場に出ているログライたちは、恐らく感覚が違うのだろう。戦場に生きているのだから、舐められないよう強面になるのが当然……くらは思っていそうだ。



「オーレン君」



ログライを伴いつつメリル邸に向かっていると、当の本人が家の中から出てきた。オーレンを探していたのだろうか。少し慌てている様子の彼女は、遠目にオーレンの姿を見かけると声を飛ばす。だが、その横にいるログライの姿を捉えると、駆け寄ろうと踏み出した足を止めた。


「ほぅ……美しい女性だな! 坊主の姉か? それとも召使の一人か?」

「……いや、ただの召使ではなさそうだな」と彼女の姿を捉えたログライは、興奮気味から一転、笑みを浮かべながらも強いまなざしを向けた。

「さすがは剣の頂を眺めし者が訪れることのできるという伝説の秘境だ。これほどまでの猛者にいともたやすく出会うとはなぁ」

くっくっくと口元で笑い声を上げる。どうやら同じ剣士同士、何か感じ入るものがあったのだろう。ログライは数歩前に出ると、声を張り上げた。



「ワシの名前はログライ。東大陸南部で活動している傭兵だ。さぞかし腕に覚えがあると見えるが、貴殿の名前を教えてもらえないだろうか」



素人目線での判断になるが、名乗りをあげるログライはすぐにことを荒立てる気はないのだろう。両手を広げて背中の剣に手を伸ばす素振りはない。それを見たメリルも、やがて腰に差している剣に伸ばしかけていた手をゆっくりと下ろした。その後小さく息を吐く。


「……一応話し合いが出来そうで安心したわ」

「なんだ、ワシがそんな節操なしに見えたか? それは心外だな。まあ貴殿は麗しく、そのうえ腕もたつと見えるから、さっきからいろんなところが疼いておるのは確かだがな。して、名前は教えてくれぬのか?」

「いろんなところって……変態みたいじゃないですか」


ログライの言葉に思わずぽろりと苦言を漏らすと、彼は心外とばかりにオーレンの方を振り返る。そうして返ってきた言葉は、純情少年のオーレンにとってはストレート過ぎた。

「おいおい、男として当然のことであろうよ。変態などと……坊主さてはまだ女を知らないと見えるな。いかんぞそんなことでは。どうだ、もし下界に戻ることがあればよい店を紹介してやろうぞ」

「え、そんなこと言われても……」

「……うちの弟子に不適切なことを吹き込むのはやめていただけないかしら」

オーレンがしどろもどろになっていると、呆れた様子でメリルが口を挟んだ。


「まあ、大事に至ってなくて安心したわ。……私の名前はメリシュテル。この仙境の管理役を担っているわ」

メリルは片足に体重をのせながら胸の下で腕を組む。先ほどの会話で毒気を抜かれたのか、完全に剣から手を離した形だ。

メリルが名乗ると、ログライが「おおお!」と興奮気味にうめいた。


「もしやとは思っていたが、貴殿が噂の剣乙女とはな! いやはや、これは嬉しい誤算だ。強さだけでなく美しさも兼ね備えるとは! いやいや済まない、ワシは随分と失礼な想像をしていたようだ」

はははと豪快に笑いだすログライに、メリルもオーレンも面喰う。


本当に、この人は奔放というかなんというか……。自由人だなぁ。


まだ会って間もないはずなのだが、これまでの会話からログライがどのような人物なのか、おおよそ把握がついてしまった。まあ、それほどまでにこの男のキャラが濃いということでもあるが。



「……で、貴方は一体何を目的にここまで来たのかしら? やっぱり、力試し? 私を殺しに来た?」



メリルの家にお世話になり始めてから、この仙境の存在について聞いたことがあった。

ログライも口にしていたが、この場所は剣士たちにとって聖地のようなものらしい。ただひたすらに剣の道を究めた者だけが来訪されることを許される、『剣の頂』であると。まあなので剣士要素が欠片もないオーレンの来訪は、超イレギュラーなのだろう。


それはともかく。選ばれしものだけが訪れることのできる仙境であるからして、来訪者は自身の腕に多大な誇りを抱いている。それこそ、誰にも負けない実力が自分にはあると信じているはずだ。その『誰にも』には、歴史に名を刻んでいる剣乙女も含まれる。


この仙境は、そんな彼らの決戦の地でもある。ここには、剣乙女がいる。神にまで実力を魅入られたとされる、かの伝説の英雄が。彼女を倒してこそ、自身の実力が本物であると証明することが出来る。……そんな頭のねじが抜けたような輩が集まる場所だと、オーレンは聞いた。


そのような背景があるため、ここを訪れる者は例外なく果し合いを望むらしい。メリル自身もその方が分かりやすいとかで、喜々として応じるらしいが……。その感覚は、オーレンにはわからなかった。


「ううむ。ワシも剣には一家言持っている身。それを考えておったのだがな」

そして同じ武人気質のあるログライも、彼女や今まで訪れた剣士たちと同様の考えを持っているようだった。だが、何やら難し気に腕を組み考え込むように天を見上げた。

やがてログライは意思が固まったのか、大きく頷くと笑みを浮かべながらメリルへ目を向けた。



「気が変わった! しばらくここで厄介になってもよいだろうか?」



突然の申し出に、メリルは面喰った様子だった。形の良い眉が、怪訝そうに歪む。

「どういうことかしら?」

「どうもなにも、言葉にした通りだ。果し合いも十分魅力ではある。が、やはりそれだけでは勿体ないと思うてな。剣乙女の人となり、その剣捌き、そのすべてがどこから生まれ出でるものなのか……そちらにも興味がわいた。それに折角の良い女だ、殺し合いだけの関係と言うのは惜しいからな!」

「……前半はともかく、後半は呆れた理由ね」

そう口にしつつ半眼を向けるメリル。だがその姿も麗しいと口にするログライは笑みを強めるだけであった。


「なに、夜襲い掛かったりはせぬ。そんなことをしたら、殺されかねないからな。それに、この坊主を弟子にとっているのであろう? 面白そうだからワシも一枚噛ませてくれ」

ログライはおもむろにオーレンの横へ戻ると、ばしばしと背中を叩いてきた。本人は軽くのつもりなのだろうが、力加減が適当すぎて普通に痛い。

その様子に、どこかむっとした表情を浮かべたメリル。


「……人様の教育に口を挟むつもりかしら?」

「まあそう目くじらを立てるでない。むしろ教育の幅が広がるとは思わぬか? 一対一では教えられぬこともあるであろう。他者の仕合の中から見えてくるものもあると、ワシは思うがな」

「…………一理あるわね」

「どうだ? 何なら宿代も出そうではないか」


ログライは自信ありげにメリルを眺める。当の彼女は、何やらじろじろとログライをにらみつつも、時折悩まし気にオーレンを流し見たり非常に考え込んでいるようだった。合間に口元でボソボソと呟いているようだったが、距離があって内容は分からない。

やがて彼女は今日一番のため息を吐くと、力無く頷いた。



「……分かったわ。その要求、呑みましょう」



「そうこなくてはな! しばらく厄介になるぞ、坊主」

「い、痛いいたい!」

バシバシと背中を叩いてくるログライから逃れようと距離を置きつつ、オーレンはメリルを眺め見た。

彼女はちょっと拗ねたような感じで、そっぽを向いて口元をとがらせていた。


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