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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第七話

「……」


ちらりとあたりを見回す。一体あれは何の光なのか、誰かいれば……と言ってもここではメリル以外見たことはないのだが……問うてみようと思っての行動だ。しかし都合よく彼女が傍にいるわけでもなく。


「……ちょっと見に行ってみようか」

一応オーレンにも旅人としてある程度戦えるという自負がある。何があっても……いや、ある程度のことは対処できるはずだと思う。まあ彼の職業上、単騎で動くことはあまり得策ではないのだが。


オーレンは重苦しくてかなわない剣を地面に寝かせると、ウィンドウを操作して弓を取り出した。普段使っているものがメリル邸に置き去りにされ装備欄から外れているので、止む無く以前使っていたワンランク低いものを装備する。軍用の弓との説明文が付いているその飾り気のない武骨な弓を片手に、オーレンは光の柱がたつ方向へと足を向けた。


緩やかな丘を下る形で光の柱へと向かっている最中。その柱が溶け出すように薄れて消えていく。しかしその間に十分場所の把握はできた。眼前に見える少し小高い丘の先が目的地だと察したオーレンは、丘を一気に駆けあがった。


丘の上から光の柱がたっていたであろう場所を見下ろすと、そこには何やら不思議なモニュメントが存在していた。

大きな魔方陣が描かれた四角形の土台の上に、不思議な形をした柱が四本四隅にそびえたっている。黒塗りの石材の表面に緻密に描かれた白い紋様が、魔法的にもハイテクノロジーにも見える不思議なオブジェだ。


そのオブジェの中。魔方陣の中心に、一人の男が立っていた。


ぱっと見の印象は、非常に頑強そう……であろうか。顔面の皺や茶髪の中にところどころ白髪を混じらせていることから、歳は四十から五十代と言ったところに見える。だがその年齢に疑問を持つほど、鍛え抜かれた四肢が衰えを感じさせない。その力強い肉体と、それを守る重厚な鎧、そして背に担ぐ長剣を目にして、オーレンはまるで岩のような印象を受けた。



「そこの少年よ!」



男は物珍しそうにあたりを見回していたが、やがて丘の上に立つオーレンの姿を捉えると、声を張り上げた。



「ここは剣乙女がおわすという天空の仙境で相違ないだろうか!」



男はどこか興奮しているのか、語気を強めにして問いかけてくる。それにオーレンは気圧され、しどろもどろに答えた。

「え、あ、はい! そう、です。多分あってると思います」

「ふむ……」

オーレンの慌てている様子に、男は少し間を持たせると小さく深呼吸をする。その後に口から出た言葉は、先ほどより幾分か落ち着いた声色であった。


「済まない、少々興奮していたようだ。なにせ風の噂にしか聞いたことのなかった頂きにたどり着いたかもしれないとあっては、逸る気持ちが抑えられなくてな」

わははと豪快に笑いながら、男はおもむろにオーレンの元へと近づいてきた。


「ワシの名前はログライ。しがない傭兵だ。坊主は剣乙女の召使か何かか?」


高低差があったため把握できていなかったが。すぐそばまでやってきた男……ログライは非常にでかかった。一メートルほどの距離があっても、百六十程度のオーレンの身長では見上げる形になる。二メートルはあるのではないだろうか。そのうえ肩幅も人並み以上にあるので、まるで分厚い板のようにも見えてしまう。


「え、えっと」

「そう怖がるでない。取って食いはしない。おぬしを害すつもりはさらさらないから、安心するといい」

「その弓で狙ってきたのなら別だがな」と、オーレンの手にある弓をちらりと眺め見るとログライは付け加えた。そう言えばあっけにとられてしまい、武器を構えることをしないまま、ここまで接近を許してしまった。最早射る前に制圧される距離だ。


「え、えっと。これは、その」

さっとオーレンは弓を背中に隠す。だが頭上から端が見えているあたり、完全に隠しきれていない。それを見たログライが、再度大きく笑い声を上げた。


「ははは。良い。来客があるとみて様子を見に来たのであろう? ここが噂通りの場所であるのなら、気性の荒い者が来ても何ら不思議ではない。そのための備えであるのなら、立派な心掛けだ」

するとログライはおもむろにオーレンに近づくと、がしがしと彼の頭を無遠慮に撫でまわし始めた。


「さて坊主。お前の主の元へ案内してくれんかの?」


茫然とオーレンが見上げると、ログライは人懐っこそうな笑みを浮かべた。







メリル邸に戻る道中、ログライと話し込んでいると。持ち前のコミュニケーション能力の高さも相まって、オーレンは比較的ログライと打ち解けることが出来た。見た目こそ荒くれものの傭兵と言った風貌のログライだが、いざ話してみると気のいいおじさんと言った感じだった。


「成程。軍用の弓を持っている割に貧弱な体つきをしていて、やけにちぐはぐだと感じていたのだが。旅人と言うことなら納得だ。ワシも旅人に何度か出くわしたことがあってな。坊主のような貧相な体つきの男が、シュタイナーの剣を扱っていたことに驚いた」

「……そんなに僕貧弱に見えますかね?」

「おうとも。男がそんな軟弱ではいかんぞ。もっと食べて鍛えねばな」

「痛いいたい!?」

バシバシと背中を叩いてくるログライに、オーレンが苦言を口にする。しかし当のログライは笑い声を浮かべるばかりで、謝罪する気配はなかった。



「……おお、あれが剣乙女の家か」


そうこうしているうちにメリル邸の姿が視界に入ってきた。土地自体が有り余っているため多少大きくはあるが、東大陸のあちこちで見られるようなごく一般的な家屋である。


「ふむ……。千の軍勢を単騎で相手どったとも言われる剣乙女が住まうところとしては、いささか地味だな。いやまあ実力とは一切関係ないとはいえ、もう少し面白みのある家を想像していたのだがなぁ」

「面白みのある家って、どんなのですか……」

謎の偏見で残念がっているログライを横目に、オーレンは小さくため息を吐いた。するとログライは賛同が得られなかったことに対して口をとがらせる。


「なんだ坊主。お主も想像しなかったのか? 剣乙女と言えば、誰も至ることのできなかった剣の頂に上り詰め、神から光を授かったと言われている。その光は聖なる剣となりて彼女を守護するとともに不老の肉体を与え、更には神々の住まう仙境への居住を許された……という出鱈目な伝説を有しているのだぞ? そんな伝説の英雄が、こんな何の捻りもない家に住んでいると知れば、そりゃ興ざめもするだろうよ」

「……そう言われると、確かにすごい違和感覚えちゃいますね……」

「であろう?」とオーレンの言葉に大いに頷くログライ。彼は目前の家を眺めながら、腕を組んだ。


「まあ、問題は家ではなく家主よ。坊主、剣乙女とは一体どんな……ああいや、やはり良い。自分で確かめねばつまらぬ」

「そ、そうですか……」


いい人ではあるんだろうけど、なんかすごい興味の赴くまま生きてるって感じの人だなぁ……。


家を前にして、「しかとこの目で見極めねばな」と楽しそうに鼻を鳴らすログライを見ながら、オーレンはちょっぴり呆れつつも、その自信にあふれた様子に少しカッコよさを見出していた。


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