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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第七話

翌日、朝食を宿で済ましたオレたちは、昨日シシリーのジョブクエストを持っている人物がいた場所へと向かった。


「内容は要人護衛だ。俺を雇った学者が、こっから馬車で数時間といった距離にある遺跡の調査をするっていうんでな。行き帰り、そして遺跡内での護衛をするのが目的だ。……なんだが、噂ではそこの魔物たちがかなり強敵らしいんでな。俺ひとりでは荷が重いと思って、助手を探していた」

その背が高く強面の男性は、昨日と同じ場所に立っていた。おっかなびっくりにシシリーが話しかけクエストの受理を選択すると、男はニヒルな笑みを浮かべて感謝の言葉を述べた後、そのようなことを言ってきた。


「馬車の定員上、あと四人しか連れて行けれないんだが……」

「あぁ、オレが残るんで大丈夫です」

オレたちが五人組なのを見た男は若干困ったように見てきたが、オレがそう言うと「そうか」と納得したように頷いた。


「俺はこういう依頼を受けることが多い。だから知ってるんだが、遺跡には侵入者防止用の罠が多数存在する。だが安心してくれ、俺はそういう罠の解除が得意でな。魔物の相手はお前たちの方が上手かもしれないが、罠の解除は俺がなんとかする。下手なことにはさせないさ。だから少年は祝杯の準備でもしてるといいぜ」

オレに向かってカッコイイ台詞を残した男は「同行してくれる奴らは、俺についてきてくれ」と街の外へ続く通りを歩き始めた。



「……じゃ、行ってくるわ。リン、後は頼んだぜ」

「弱くて危ないので、街の外には出ないようにしてくださいよ?」


がちゃりと景気よく鎧を鳴らすギルバインと、心配してくれているのかけなしているのか分からない台詞を吐くミヤビ。

彼らが依頼主の後に歩き出すと、


「頑張ってクリアしてきますね!」

「お土産期待しててよ」


シシリーがぺこりとお辞儀をし、オーレンは背中越しにひらひらと右手を振って、年長者二人の後ろにつく。それにオレは小さく腕を振って言葉をかける。

「頑張ってこいよー」

オレの声にそれぞれ小さな反応を返すと、遠征組四人は依頼主の男の後に続き、人ごみの中に紛れて行った。




「……さって、どうすっかなぁ」



ぽつんと一人残されたオレは、仲間たちが消えて行った通りの先から視線を外し、辺りを見回した。

「とりあえず三時までは暇なんだよな」

メニュー画面には、便利なことにデジタル時計が端の方に備わっている。この時計とこの世界製の時計の示す時間は同じだ。同じだが、この世界で作られた時計は特殊な構造をしていて、三年目に突入した今ですら、オレは読み取り方が分からない。それはひとえに、オレが知ろうとしなかっただけなのだが。メニュー画面のデジタル時計で事足りたし。


それはさておき、ただいまの時刻は十時前と言ったところだ。朝飯を摂ってからそれほど経ってもいないし、昼飯にはまだ早い。飲食店を漁るのは、もう少し遅い時間でもいいだろう。


よく新しい街に来て何をするか、と言う質問に出てくるのは、クエストを探す、装備の品ぞろえを見る、飲食店を漁る、観光をする……このあたりだ。

中には、可愛い女のあるいはイケメンのいる店を探す……というのもあるが、さすがにオレはそれで「お、カワイコちゃん発見。突撃をかけるぜ!」と押しかける勇者なことは出来ない。

探すには探すが。ええ、探しますとも。


「……が、それをメインにするのはさすがにな。無難にクエスト見に行ってみるかな」

昨日三人で回ったところはもういいのだが、ギルバインとミヤビが回ったところは、未確認だ。彼らからは、昨日見つかったクエストの一覧と位置のメモを、小さな地図とともにもらっている。これと照らし合わせれば、ジョブクエストの有無が分かるという寸法だ。


ギルさんたちが回ったのは、宿を挟んでオレたちとは反対側だったな、と頭の片隅で考えつつ、件のメモと地図を出そうと安物のバッグの中を漁る。お目当てのものが見つかると、現在地と確認。その後オレはメモを片手に通りを歩き始めた。







結局昼食以外の時間をクエスト確認の時間に費やした。しかし、めぼしい成果が上げられなかったオレは、「まぁわかってたけどな」と言いつつも若干凹んでいた。

そして、刻限が近くなると、昨日少女と約束した広場へと足を運び、昨日と同じ花壇に腰掛け、少女を待つことにした。季節は春先といったところで、風が吹き抜ける広場はかなり過ごしやすい。友人たちと歓談している集団もあれば、本を片手に落ち着いた雰囲気を醸し出すお一人様もいた。


「…………来ませんねぇ」


だが、オレの待ち人は姿を現す気配がなかった。時間稼ぎに自身のむなしいステータスをぼーっと見つめたり、アイテム整理をしたりしながら待つことおよそ一時間。流石に遅すぎだと思ったオレは、花壇から立ち上がる。


「……戻るか」


あの少女に騙されたのか、はたまた急な用でも入ったのか。どちらにせよ、朝からなかなか思うようにいかないなと、オレは大きなため息を吐く。なんなら、この世界に来てからずっと思うように言ってないと言えば、そうなのかもしれないが。


この街は非常に広い。昨日の散策に加えて、この待ち時間までの時間を探索に費やしても、まだまだ回りきれていない。なのでオレは、再びジョブクエスト探しへと戻ることにした。


そんな折のことである。




「よお、ザ・村人君。久しいな!」




快活な声とともに、背中に衝撃が走る。あまりの衝撃に二、三歩つんのめったオレは、プルプルと身をふるわせた後、勢いよく振り返る。

「い、ってぇだろうがジェリク!?」

聞き覚えのある声の主に、オレは怒鳴った。


「はっは。相変わらずひ弱だなお前は」


それに楽しそうに声を上げたのは、オレと同年代に見える青年であった。ツンツンと元気に跳ねた茶髪と、「お前いつも思うけどその格好寒くねーのか?」と言いたくなる、ジャケットを羽織っただけの、ほぼ上半身裸という変態臭のする格好をしたこの青年の名前はジェリクという。

彼とはこの世界に来てから比較的早く知り合い、歳がさほど変わらないと言う事で話が合い、仲良くなった。当初はオレたちの六人目の仲間になるか、と言う話も出ていたが、彼自身が「自由に旅をしたい」ということでその話はなくなったという経緯もある。見せつけても恥ずかしくない肉体美を誇る彼は、それに見合った華麗且つ豪快な剣裁きをするメイン職『ソードダンサー』の直剣使いだ。


「最後に会ったのが西大陸のさびれた田舎町だったからな……もう二月くらいになるんか。はえーもんだぜ」

筋肉の浮き上がる腕を組みながら、ジェリクはつんのめったオレの前まで歩いてきた。オレは背中をはたかれた憤りを含めて睨みつけていたが、すぐにふっと表情を和らげて小さく拳を作って前に突き出す。


「ったく、相変わらず恥ずかしい格好だなお前は」

「このファッションの良さが分からねえなんて、ベルはまだまだだな」


オレの行動の意図を察したジェリクは、同じく口元に笑みを浮かべつつ拳を作り、突き出したオレの拳と合わせる。

これがいつから始まったのかもう分からないが、出くわした時のオレたちの挨拶であった。


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