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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第六話

先週は更新できず、すみませんでした……

オーレンが天空の仙境に迷い込んだ翌日から、メリルによる剣の修業が始まった。


「……と言っても。聞く限りオーレン君は剣なんて使ったことないだろうし、魔法使いっていうのなら使う機会も少ないと思う。だから、深追いはするつもりはないわ。基礎を学んでもらって、動きを知ること。そして護身用で多少使えるようになれば……と言うところを考えているわ」

そう言及する彼女が最初に話題に挙げたのは、彼女の扱う剣についてだった。

初めて会ったときに見せてもらったあの聖剣ではなく、市販の剣をぽんぽんと手のひらで遊ばせつつ彼女は言う。


「私が扱う剣は、剣の中では細身の物に当たるわ。軽い分、多少非力でも扱うことが出来る。まぁ、重さで叩き切るなんて豪快なことが出来ないから、大柄な人には不向きなのだけれど。かといって短剣ほど軽いわけじゃないから、ある程度筋力は欲しい。……一般人より力があると言われる旅人のオーレン君には、丁度いいんじゃないかしら。私も教えやすいしね」

恐らく剣を使うものなら当然知りえるだろう基礎の基礎なのだろうが。剣なんてカッコいいか否か程度の見方しかしてこなかった彼にとっては、ほほーと感心してしまうようなお話だった。


「さて。力を込めて振るわない分、別の方面からその不足分を補わないといけないのだけれど。その別の方面っていうのは、何かわかるかしら?」

メリルの問いに、オーレンは首をひねる。


要は叩き切らない方面で、威力を上げる方法だよね。……そうなると、やっぱ手数とかそういう系なのかな。


ゲームやアニメの世界を想像すると、重く一撃のある感じの剣士と手数で勝負といった剣士が大まかにいると思う。まあそういうのが出てくる話は、大抵どちらも兼ね備えたえげつないやつがいたりするのだが。またそういうのが主人公と言うパターンも多い。

現代日本のサブカルチャーに侵されたオーレンの発想だと、そのような考えが浮かぶのだが。

オーレンが『手数ではないか』と主張すると、メリルは「それも考えられるわね」と小さく頷いた。


「確かに、単純に手数を増やせられれば、それだけ有利と言えばその通りよ。一撃は避けられるとしても、二発目三発目となるとその分苦しくなる。けれど、例えば大きな斧のひと振りで切り落とせる枝に対して、小さい斧で二回も三回も切り付けるのは非効率だと思わない?」

「目指すところは、小さい斧でもひと振りで枝を切り落とすことよ」といたずらな笑みを浮かべるメリル。それになんだか悔しくなったオーレンは、うんうんと頭を悩ませる。だが結局さっぱり思いつかなかった彼は、早々に白旗を上げた。その様子に、メリルは肩をすぼめて苦笑を漏らす。


「あらあら。ちょっと難しく考えすぎかもしれないわね。答えは簡単なの。力がなくても効率よく威力を発揮する方法は『切り付ける』のではなく『切り裂く』こと。料理とかで刃物使ったことあるでしょう? ……あんまりないか。ま、まぁともかく。剣だって一緒で、刃を突き立てて引けは簡単に切れる。肉厚な大剣とかだと切れ味は悪いんだけれど、刃を薄くした剣ならバッサリ切れるの。と言っても、そこには技術もいるのだけれどね」

基本的に切ることを度外視した頑丈な剣を使用する剣士以外は、そこに技量の差がでてくるらしい。当然立ち回りや行動の予測など、それ以外の技術も重要だ。けれど、威力に直結するのはやはり剣捌きの部分。逆に言えば、剣捌きさえ身につけておけば、一撃必殺は可能なのだ。


「結局、どんなものでも切れる様になれば負けることはないのよ」

当然でしょとばかりにメリルはそう口にするが。それは色々と思考を放棄した脳筋の発想なんじゃないかと、オーレンは思わなくもなかった。


「私の場合、当然立ち回りだとかそのあたりの剣士として必要な部分も磨いてはいたけれど。やっぱり一番力を入れていたのが剣捌きだったの。毎日毎日、来る日も来る日も。ただひたすらに鋭い一閃をと剣を振り続けて。そうして行きついたのが――」

そこで言葉を区切り、メリルはオーレンの側から少し離れる。やがて数メートルほど離れたところで立ち止まると、剣の柄に手を当てて軽く姿勢を下げた。



「……っ!」



直後、メリルは目にもとまらぬ速さで腰に差した剣を抜き放った。その速さは目を見張るほどで……というか、オーレンの目には抜き放った瞬間どころか振り抜いた軌跡すら見えなかった。まるで抜く前と切り終わった後の画像を見せられたよう。間の動作が一切わからなかった。剣が通ったであろう軌跡が宙に残ってくれているおかげで、そこを刃が通ったのだろうと推測するくらいで――


……って。マンガじゃあるまいし、なんで剣筋が消えないの?


速さばかりに目が行ってしまったが。普通に考えて剣の軌跡が宙に残るなんてことは有り得ない。光が刀身に反射して網膜に焼き付いたというのも考えられるが、いくら目を動かしたところでその軌跡は消えなかった。

頭いっぱいに疑問符を浮かび上がらせていると、メリルがちょっと自慢気に笑みを浮かべる。


「これが、私が行きついた鋭さの極致。その剣の鋭さは、空間をも断ち切る。……どう、すごいでしょう?」


あっけらかんと彼女は言うが、すごいなんてレベルじゃないことはオーレンにも分かった。空間に干渉する行為は、普通魔法使いの……しかもそこに特化したごく少数のものしかできないことだ。それなのに彼女は魔力を使わず、ただ剣筋の鋭さだけでその荒業をやってのけている。

「これを見せて極意を授けるのは、本当は私が認めた優秀な剣士だけなのだけれどね。オーレン君は特別よ?」


ゆったりとした動作で剣を腰に戻しつつ、メリルはオーレンに対しウインクを飛ばしてきた。

片や魔法の領域へと踏みこむほどの剣術家、片やちょっとお茶目で綺麗なお姉さん。


そんな彼女は。


「……さて、護身用にとも思ったけれど。折角だし思い切ってここまで目指して、頑張ってみましょうか?」

にっこりと笑みを浮かべた。


果たして、オーレンの修業はどちらの側面でやってくれるのだろうか――








「……答え、ちゃんぽんってか」

装備不可且つ完全に要求筋力値をオーバーした直剣を必死に持ち上げながら、オーレンはそうぽつりと漏らす。


メリルから空間を切り裂く奥義を見せてもらってから、数日が経過していた。その間延々とオーレンがやっていたのは、剣の振り下ろしだった。

重い剣を振り慣れることで、いざ軽い剣を持った時に素早く振れるようにする訓練と、実際に使う細身の剣で『切り裂く』振り方の訓練をずっとやっていた。


「笑顔はすごい綺麗なのに、毎日要求がえげつないんだよねぇ……」

ぶぉんと剣を振り下ろす。『決して地面まで振り下ろさないこと』と言われているので、足らない筋力でなんとか剣の勢いを殺す。旅人の体は頑丈にできているので何ともなっていないが、多分元の世界だったら腕がもげているのではないだろうか。


「まぁでも、成果はでてる……のかな?」

オーレンは一度剣を地面に突き立てて大きく息を吐いた。自重があるせいで、軽く下ろしたはずなのに剣は割と深く地面に埋まりこむ。嫌なものを見たと言わんばかりに目をそらしたオーレンは、そのままステータスウィンドウを開いた。


「……お、ちょっと増えてる」

オーレンが確認したのは、クエスト一覧である。そこにはラニルアータで受けた未達のクエストのほか、今回新しく増えたサドンクエストの進捗が書かれていた。

「……これ、覚えるのに何日かかるんだろう」


今回発生したサドンクエスト『剣乙女への弟子入り』。そのクエストの詳細欄には、クエストの内容のほか特殊な説明が追記されていた。


追記内容は『スキル【???】……0.15』というもの。


「たぶんこの数字が1になれば、このよくわからないスキルが覚えられるとは思うんだけど。それにしたって長いなぁ」

この数字、実際にメリルの修業を受け始めてから表示され、剣を振ることによって増えていった。ただ何か基準でもあるのか、一振りで数値が上がるわけではなくしばらく振っていたら不意に上がっているようだった。

今はまだひたすらに剣を振ることをメリルから要求されており、少し飽きが来ている部分もあるのだが。オーレンはこの数字の上昇を励みに頑張っていた。


「……取り敢えず、もう少し頑張らないと」


オーレンはそう言いつつ一度大きく深呼吸をすると、一気に剣を引き抜いた。肩が外れるんじゃないかと心配になるくらいの重みが、腕をプルプル震わせる。


下手にサボっちゃうと、何故だかばれるんだよなぁ。人の疲労具合を読み解けるとか……やっぱ達人領域になるとそういうのあるのかな。


メリルは四六時中オーレンの素振りを見ているわけではない。今だってふらりと何処かへ姿を消している。以前聞いた話だと、少し離れたところに見受けられる山へと修行に出ているということだったが。「素振りしているオーレン君を見てたら、私も頑張らないとと思ってね」とは彼女の談。一体彼女は剣士としてどこまで行くつもりなのだろう…。


「まあでも。それだけストイックだからこそ、あれだけのことが出来るんだろうけどね」

そんな彼女をみて、オーレン自身も頑張ろうという気になってくる。なかなか良い循環ではないだろうかと、自分でも感じていた。


そんなことを考えながら一生懸命に素振りをしていると。

不意に視界の端に光がちらついた。



「……なんだろ、あれ?」



剣先を一旦地面に下ろして、オーレンは光の正体を見ようと顔を向ける。


オーレンの目がとらえたのは、メリルが行っているであろう山とは反対方向、平原が広がる一角から不意に上空へと伸びる、光の柱だった。


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